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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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 プロローグ 掲示板の前で

 
 4種類の掲示板が、蒼空学園の屋外に並べて設置されている。ろくりんピックの募集要項だ。競技はまだ他にもあり、それはまた別の場所にて掲示されていた。
「ろくりんピックかー、何か面白そうな競技ねーかな……」
 そんなことを呟きながら、セシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)は人の多い掲示板前を歩いていた。1つ1つ、ざっと要項を眺めていく。ふいに、その足がぴたりと止まった。
「……ドッジボール? また懐かしいもんがあるな。よし、これに決めた!」
 即決すると、セシルは蒼学教師のカイルフォール・セレスト(かいるふぉーる・せれすと)を振り返る。
「カイル、どうせならお前も来ねぇ?」
「なに?」
 突然の誘いにカイルフォールは驚き、反射的に掲示板を見上げた。
「…………」
 しばし内容を目で追って、彼は言う。
「ろくりんピックは気になっていたが、ドッジボールか……。ぶつけられるのが前提のスポーツだな。私はあまり傷を負ったことがないから、痛いのは苦手なのだが……剣も無いしな……私は教師だしな……」
 長々といろいろ話をしているが、要約すると、『イヤです』という所だろうか。
 強い剣豪だったのは昔の話。当時、攻撃される前に相手を倒していた所為で痛みに耐性が無く、剣以外は件もほろろな腕前のカイルフォールはドッジボールなど気が進まないことこの上無い。
「普段ヘタレてんだ、たまには嫁さんや子供たちにかっこいいとこ見せとかねーとな!」
(……嫁さん!?)
 カイルフォールは男勝りの元幼馴染の顔を思い浮かべ、焦りを覚えた。
(ここで頑張らないと、マズいか……!?)
 妻も子供達も、ろくりんピックを楽しみにしている。セシルが出るとなれば応援にも来るだろう。
「教師が出ちゃいけねーってルールはねぇだろ?」
 テンぱっているところに、セシルの気軽そうな言葉が届く。
「……わかった。外野であればそうぶつけられることもないだろうし、やってみよう」
 微妙に弱腰だが、彼は出場を決意した。結構必死で、彼にとっては一念発起である。

「…………ツッコミどころが満載のルールだな。これは、怪我人が出ない方がおかしい」
「お手伝いも募集してますよー。むしろ選手よりも熱烈に!」
 掲示板を見つめるユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)の耳に、コネタント・ピーが呼びかけが聞こえた。それに神和 綺人(かんなぎ・あやと)が反応する。
「ん? 運営さんがお手伝いを募集してるみたい」
 コネタントと掲示板の方を順番に見て、綺人は言う。
「僕達にできることがあれば、お手伝いしようか」
「そうですね、やりましょう」
 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)も頷いた。
「いや……待て……」
 なんだその即決具合は。たとえ運営でも、もう少しよく考えてから行動した方が良いのではないか。
(運営なら、怪我の心配はないと思うが……多分)
 綺人は、その間にクリス、そして神和 瀬織(かんなぎ・せお)を連れてコネタントに近付いていく。瀬織にも異存は無いようだ。
「こんな大規模な大会だったら、運営側も大変だよ。こういう縁の下の力持ちが頑張っているからこそ、選手のみんながゲームに専念できるんだよね」
「こういう裏方さんが頑張っているからこそ、みなさんが大会を楽しめると思うのです」
「……いくら安全を主張しても、世の中には、『絶対』はないのです。危険がないように、運営側として、できるだけのことはしてみましょう」
 瀬織がそう言ったところで、綺人はコネタントに声を掛けた。
「運営をやらせてください。何かお手伝いすることはありますか?」
 この時点で、運営参加は決定した。コネタントは涙を流さんばかりに喜ぶ。
「本当かい? 助かるよ!」
「あ、審判とかって、人数足りていますか? 足りていないのならば、僕ら4人でやりますよ?」
(……なぜ審判を選ぶ!?)
 そう言う綺人に、ユーリは内心でツッコんだ。審判といえば、選手達から最も近いポジションではないか。
 しかしやはり、クリスも瀬織も特に異存は無いようだ。
「審判……まだ、決まってないけど……うん、じゃあお願いしようかな。4人なら、角に1人ずつ配置できるし丁度いいね」
 それどころか。
 2人はコネタントの答えを聞くと、彼にこう質問した。
「ところで、審判に抗議してきた場合、何らかの防衛はしても良いですよね? 死なない程度にスキルを使っても、正当防衛ですよね?」
「え?」
 予想外の問いに、コネタントは瞬間反応できずにぽかんとする。瀬織に続いて、クリスも言う。
「相手を再起不能にした選手が抗議したり暴れたりした場合、黙らせましょうか? 実力行使で。運営側が再起不能にしてはいけないというルールはないですし」
「…………」
 彼女達は、別の方面にやる気満々のようだ。選手として参加する者達はもっとやる気だろう。
(……これは、審判でも気をつけないと危険かもしれない。気をつけておかないとな……)
 ユーリは思う。
(……念のために、禁猟区はかけておこう)
 ――こうして、ろくりんピック「ドッジボール」の審判が決まった。