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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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 5、それぞれの作戦会議
 
 
 運営側やら裏部屋やら救護やらの一部がしっちゃかめっちゃかになって暫し、西シャンバラチームの控え室では、選手達が作戦会議を開いていた。試合時間まであと少し。遙遠と翡翠、ひなも戻っている。騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の根回し効果もあり、メンバーの結束は強くなっていた。
「それは、地上も空中も同じ扱いになるということですね。判りました。うん……大丈夫。こちらの必殺技に大きな影響はありません。情報、どうもありがとうございます」
 影野 陽太(かげの・ようた)は遙遠にお礼を言うと、選手達を見回して次にアシャンテに声を掛けた。
「アシャンテさん、えっと……ドッジボールのルールは覚えましたか?」
「……当てられようと、落とさなければいいんだな……」
「うん、そういうことだね、アーちゃん!」
 隣の御陰 繭螺(みかげ・まゆら)が元気良く言う。そんな彼女を、アシャンテは横目で見て息を吐いた。
(……ルールが簡単だから良かったが……)
 此度の選手参加は、繭螺が勝手に申し込んだものだった。しかも、それを知らされたのは今日だった。『さあ、行くよ、アーちゃん!』と言われた時はなんのことやら状態である。記憶喪失である彼女はドッジボールのルールも覚えていない。そこで、今しがたになってアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)に教えてもらったのだ。
「ボールを落とさなければアウトになることも無い。大事な勝利ポイントの1つじゃのう。あとは、外野じゃ」
 銀髪を後ろで結えた美少女――アルスが言うと、風祭 隼人(かざまつり・はやと)も同意する。
「そうだな。今回のドッジボールは外野の働きが勝利のカギになると思うぜ。内野は自分達の守りにも気を配らなければならない。でも、外野は攻撃に専念出来るからな」
「うむ。わらわも外野から攻撃しまくるつもりじゃ」
「で、俺とアイナは外野専任で動きたいんだ」
「専任、ですか……。相手をアウトにしても内野には入らないということですね。わかりました。ただ、攻撃だけじゃなく、試合ではパス回しも必要になってくると思いますが」
「私も外野に入るんや。御剣 紫音(みつるぎ・しおん)とのコンビネーションを魅せてあげますえ」
 綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が手を挙げてそれを確認すると、陽太はカイルフォール・セレスト(かいるふぉーる・せれすと)に目を向けた。
「確か、外野を希望されていましたね」
「ああ、セシルと連携したいからな」
 ぶつけられないだろうから、だという理由は心にしまっておく。
「では、この5人が初期外野ということでいきましょう」
「私はサポートに専念するわね。負傷退場者が出ないように、回復も出来ればと思うわ」
 アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)が言う。
「そうですね、特に……」
 陽太は詩穂に少し心配そうな顔を向けた。
「本当に、良いんですか?」
「うん、詩穂に任せて!」
 頼りがいのある、覚悟を持った表情で詩穂が答えると、陽太は頷いた。
「分かりました。出来るだけサポートします。俺はとにかく、B2で状況把握に努めますね。軌道を把握したら直ぐに皆に伝えます」
 B2というのは、コートをいくつかに区切って指定コードにしたものだ。短い単語で移動位置を伝え合うことが可能になる、チーム内の暗号みたいなものである。また、陽太は事前に『防衛計画』で防御中心の作戦を考案してきていた。
「えっと、作戦はこれで問題ありませんか? あとは、確実な攻撃を心掛けましょう」
 そこで、控え室のドアがノックされた。優梨子が入ってくる。
「メンバー表の提出をお願いします。装備は、申請されていたもの以外はつけていませんね? では、時間ですので入場の準備をお願いしますー……あら?」
 そこで、優梨子がきょとんとする。
「それは……ユニフォームじゃありませんよね? ただユニフォームの塗装をしただけですよね?」
 言われたロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)は、うっ、と少したじろいでから、ちょっと困ったように言った。
「ダメかなぁ……ボク、こんな体だからユニフォーム着れなくて……」
 優梨子はロボアニメに出てきそうなロートラウトの体を見て、うーん、と首を傾げる。
「そうですねー。確かに、ユニフォームが破れてしまうかも……」
「パワードヘルムとマスクは、合体後の頭部を模した形にしてあるんだよー。顔面全体を覆う、どこかの勇者ロボに似てる気がしないでもないけど」
「わかりました。許可しますね」
 優梨子が出て行くと、詩穂が言う。
「オートガードとオートバリアをかけておくね。……きっと、当たっても受け止めても、互いに直球だから」
 選手達も真面目な表情で頷く。
 ――西シャンバラチーム、出陣である。

 西が作戦会議をしている頃、東でも会議が行われていた。やはり、ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)の根回しによってチームワークは上げてある。上げてあるのだが――
「グリちゃん、試合前に食べすぎじゃないかなー」
 秋月 葵(あきづき・あおい)の傍では、東のユニフォームの下にブルマをはいているイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)がドーナツを食べながらドッジボールのルールブックを読んでいた。彼女の近くには空になった高級芋ケンピの袋と、これまた空になったジェラートのカップが置いてある。
「んーと……ボールで相手を倒せば良いんだにゃぁ……」
 葵の声が聞こえているのかいないのか、イングリットはルールブックを読みながらそう言うと、ポイっ、とそれを放り投げた。
 ……飽きたらしい。
 ちなみに、まともに読んだのは僅か数行である。
「……にゃ?」
 イングリットは、注目されているのに気付いて顔を上げた。無邪気に笑う。
「イングリットがいれば勝ったも同然にゃぁ! 泥舟に乗った気で? あれ箱舟? だっけ……まぁ何でもいいにゃ〜♪」
「泥舟に乗ったら沈んじゃいますよ〜」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)が的確なつっこみを入れる。
「ドッジボールってなんなんでしょう。私もよく知らないですが……」
 赤羽 美央(あかばね・みお)も首を傾げる。彼女は小学生の時は体が弱かったので、今回が初プレイになるのだ。
「話を聞いていると、単純ですが、それでこそ個々の能力が発揮される競技のようですね。ならば、自分が最も得意とする部分を存分に押し出したほうが得策、というわけですか」
「まあ、そういうことになります」
 ヴァルの隣に立つ志位 大地(しい・だいち)が穏やかな口調で答え、話し始めた。そろそろ試合時間が近い。作戦を詰めておく必要があった。
「この試合、大事なのは情報です。俺は内野で『用意は整っております』を使い、常に展開を先読みしながら動きます。超感覚や財産管理を軌道の予測に使いますから、それを伝えていければと思います。それにメンバーのスキルも合わせれば、不意打ち等は極力避けられるでしょう」
「俺は、最初は外野で見(ケン)にまわる。前半で西の必殺技を記憶し、見極めよう。キリカ、内野は頼んだぞ」
 ヴァルに言われ、キリカ・キリルク(きりか・きりるく)は頷いた。冷静な表情だが、彼女の瞳には西チームの詩穂と似た覚悟の色がある。
「そして、今回はスキル使い放題ということで、警戒すべきスキルがある。主にサイコキネシスだが、それに関しての対策は、先程話し合った通りだ。更に、こちらには秘策がある」
「試合開始してから、なるべく早く発動するわ」
 四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が言う。
「あと、私はできるだけサポートにまわるわね。超感覚、財産管理は持ってるから」
「うむ。初期外野は俺を含めて3人。内野が最大人数に足らないだけに、連携していかないとな」
「ところでグリちゃん、なんでブルマはいてるの?」
「スパッツははき心地が好きじゃないにゃー」
「ん……、そうかなー」
 葵が自分のスパッツを引っ張って首を傾げていると、そこで、控え室のドアがノックされた。コネタントが入ってくる。
「時間になりました。入場の準備をお願いします。あと、では、メンバーの構成表をお預かりしますね。実況、解説の参考にしますので」
 ヴァルがそれを渡した時、コネタントの携帯電話が鳴った。カタコトのしゃべり方をするその相手が言う内容に、彼はびっくりする。
「えっ……! すぐ、すぐに行くよ!」
 彼が出て行ってドアが閉まると、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)は気を取り直して元気よく言った。
「じゃあ、勝利を目指して円陣を組みましょう! 絶対に勝ちますよ!」
「よし、組みましょうか。やるからには勝ちますよ!」
 大地が言い、皆も同意し円陣を組む。ヴァルが堂々とした口調で言った。
「勝利以外、この帝王は何も欲さぬ!」
 帝王……?
 一瞬、メンバー内に寒い空気が流れたが――
「うっしゃああ!! 気合いいれていくぜ!!」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が吼えたことで、再びメンバーの士気が上がる。
『オーーーー!!!!!!』
「目指すは勝ちだ!! それ以外に興味はねぇ!!!」
『オーーーー!!!!!!』
「がんばりましょう! おー!!!」
『オーーーーーー!!!!!!!!!』
 最後にレロシャンが言い、控え室には気合の入った声がこだました。
 こちらは美央がオートガードとオートバリアをかけ、唯乃が荒ぶる力を使った。これで、試合開始と共に味方全体の耐久力と物理攻撃力が上がる。オートバリアは、相手が魔法を付与してきたボールなどから、その魔法を剥ぎ取ってくれるだろう。明日香が加えて、全員にパワーブレスをかけてまわった。
 東シャンバラチームも、出陣である。

 入場前、救護所――
「かわいい……!」
「カワイイ……」
「可愛いですぅ」
「よし、ユニフォーム姿も撮っとくか! まさかの生写真2種類……!」
「おい、本当に売る気無いんだろうな、売る気無いんだろうな!」
「えーと……綾瀬はどこかなー」
 着替えて戻ってきたファーシーとピノのブル……ユニフォーム姿は可愛かった。ファーシーは初々しく、ピノはどこまでも健康的だ。
「前に私もそんな格好したことあります。少し恥ずかしかったですけど……」
「よくお似合いですよ、ファーシーさん」
 綾耶と七日が口々に言い、ファーシーは両手で拳を作った。
「ありがとう! これを着ただけでなんだかやる気が出てきたわ!」
 背後に炎の幻影が見える。
「うん、がんばろうね!」
 遊びたいオーラ全開に見える。
 少しくらいテンション下がった方が平和に過ごせるのではないだろうか。ほのかに危険な匂いがする。
「よう、ファーシー!」
「あっ! ファーシーさん、ユニフォームなんですねー。かわいいですよー」
 そこに、フリードリヒ・デア・グレーセ(ふりーどりひ・であぐれーせ)とチアリーダーの衣装を着たティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)がやってきた。
「……何故チア姿!?」
 堪えきれないように皐月がツッコミを入れた。
 救護にやってきてチア姿……しかも、ティエリーティアは秀吉である。恋人は未だに女性だと勘違いしているが秀吉である。ちゃんと自分でも男だと主張している。でも今日はミニスカートである。
「あれ、日比谷、面識あるのか?」
 しかし逆に某にツッコまれた。
「……面識ってほどじゃないが、かなりぎりぎり、ある」
 そう、どこぞの村で同じ場面に居合わせていたので。それを眺めていたので。ぎりぎり、ある。
 あの時のティエリーティアは、きりっとしてたと思うよ!
「あれ? えーと……」
「いろいろあったけど、仲直りしたから大丈夫よ!」
 ファーシーが言うと、少し戸惑っていたティエリーティアはほんわかと笑った。
「そうですかー、良かったです。ファーシーさん達も一緒に応援しませんかー? ボンボン作ってきたんですよー」
 そうして彼は、持っていた色とりどりのボンボンを2つずつ、ファーシーとピノに渡した。
「え? 応援?」
「救護のお仕事が必要になるまで、応援しましょう!」
「私も応援します。明日香さんが出ますので」
 ノルニルもとてとてと近付いてくる。そこで、会場に盛大なファンファーレが鳴った。