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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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 2、girls or pandas

 
 その頃、チアガールの衣装を着た{SNL9998914#ミリア・フォレスト}は、東側観客席の最前列に落ち着いていた。もらったうちわの片面には赤と黒のドラゴン、もう片面には白とクリーム、水色を基調にした白龍がプリントされている。それぞれ、西シャンバラチームと東シャンバラチームのロゴである。リバーシブルというやつである。
「あついですね〜」
「座るとあつくなりますわね。でもすぐに涼しくなりますよ」
 エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)は穏やかに笑って言う。ミリアとエイボンの書が2人並ぶと、なんとも微笑ましく暖かい空気が感じられる。ほわほわした、とも言えるかもしれないが。
「ミニスカートなんて、少し恥ずかしいですわ〜。変じゃないですか〜?」
「いえ、すごく似合っていますわ。ミリア様に応援していただければ、イーシャンも百人力ですよ!」
 そういうエイボンの書もチアガールの衣装を着ている。運動が苦手な彼女は、みんなの足を引っ張らないようにと選手達を応援することにしたのだ。
「いーしゃん、ですか〜?」
「イーストシャンバラ、略してイーシャン、ですわ」
「イーシャン……うん、いい名前ですね〜」
「ミリア、今日はきりきりと応援するですぅ〜。東シャンバラの勝利はあなたにかかっているんですぅ〜」
 階段の上からエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が降りてくる。こちらはいつも通りの格好だ。
「あら〜。エリザベート様は応援なさらないんですか〜」
 ミリアの問いに、エリザベートは胸を反らして自慢気に答えた。
「私は校長だから、VIPルームで観戦するですぅ〜。応援もチアもやりませぇん〜」
 何だか鼻も高い気がする。
「そうですか、少し残念ですわ〜」
「うらやましかったら、ミリアも校長になるですぅ〜」
 どこか返しのポイントがずれている気もするが、それを指摘する者もいないまま、エリザベートは階段を上っていった。
「…………」
 その後ろ姿をしばし目で追い、エイボンの書は前に向き直った。
「東シャンバラチームみんなの士気を鼓舞できるように、かわいいチアリーダーとして頑張りましょう!」
 持ってきたメガホンの片方をミリアに渡して、彼女は思った。
(兄さま、ミリア様に惚れているのですから目の前で活躍できるといいのですが……)
 観客席の最前列は、地上から1メートル程の所にある。トラックを挟むとはいえ、活躍したらばっちりミリアの目に入るだろう。
 そして、関係者用出入り口から裏に入ったエリザベートは、西シャンバラのユニフォームを着た桐生 ひな(きりゅう・ひな)に声を掛けられていた。
「むきプリ君ですかぁ〜?」
「どこにいるか教えてくださいですー」
「一体、何の用ですぅ〜?」
 ただの罰ゲーム要員に試合前にわざわざ会いに行くなんて、エリザベートにとって、その行動は全くの意味不明である。彼女にとってむきプリ君はザコキャラだった。主に、人格という面でザコキャラだった。
「むきプリ君には色々お世話になってますからねー。挨拶に行くのですよっ」
「お世話に〜……?」
 エリザベートはそこで、ひなの目的に察しをつけた。にやりと笑って、彼女に言う。
「わかりましたぁ〜、教えますぅ〜」
 倉庫からも食堂からも離れた、あまり人の来ないペナルティ部屋。その場所を告げられて離れていくひなの背中を、東シャンバラチームの団長はいつもの半眼で機嫌良く見送った。
「これで東シャンバラが有利になりますぅ〜」

「むむ……東はかわいいっスねえ。試合が始まったら僕も負けずに応援するっスよ!」
 西側の応援席で、アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)は今か今かと試合開始を待っていた。
「あら、アレックスだけ? 他の応援は?」
 観客席を見回っていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が上から降りてくる。その10段ほど後ろには、大きなクーラーボックスを首から提げた空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)も居た。
「おい、そこのあんちゃん! ビールくれ!」
「ビールですね。かしこまりました」
 ……売り子をやっている。
 だが、ただ売り子をやっているのではない。ディテクトエビルで怪しい輩の存在を常にチェックしているのだ。勿論、売り子の仕事も完璧にやる。
「わっ、なんスか! パンダが行進してきたっスよ!」
 リカインも、アレックスと共にその光景を目撃していた。観客席とグランドを仕切る壁の上を、ティーカップパンダ4匹が行進してくる。それぞれメガホンを持っていて、パンダ達の姿に「かわいい〜」という声がそこここから聞こえた。
 では紹介しよう。
 先頭から元気の良いのが蓮華(レンファ)、骨つきチキンを持っているのが桜華(ロウファ)、恥ずかしそうにしつつ淑やかに歩くのが梅華(パイファ)、メガホンを振り回して少しガサツそうなのが蘭華(ランファ)。アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)のペット達である。
 4匹は応援席――アレックスの前で歩みを止めると、メガホンをぱこぽこと叩いてポーズをとった。
『応援するよ!』
 という意味らしい。
「そ、そうっスか! 頼もしい援軍っス! 向こうが女の子ならこっちはパンダ、そして熱い思い! 西の勝利をもぎとるっスよ!」
 そんな彼を見ながら、リカインは思う。
(アレックスには悪いけれど、私たちの目的はろくりんピックを邪魔する……ううん)
 大会に乗じて東西の対立を煽ろうなんて奴がいないか、眼を光らせること。シャンバラが東西に分かれ、警戒すべきは鏖殺寺院のみという時代は終わった。不穏な事を考えている者がどこに現れてもおかしくはない。
 良くも悪くも、観客席で殺気看破が使えないのは確認してある。シルフィスティか狐樹廊の網に引っ掛かった輩は、腕の1本でも折って退場してもらうつもりだ。
 アレックスはリカイン達のカモフラージュなのだ。