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第6章 ハーフタイム


『ルカルカ・ルー選手の勝利により、第11ターンでシャンバラ教導団の攻撃は終わりました。
 現在、救護班有志による救護活動が始まっています。罠設置をする人は、この時間に設置しても構いませんが、救護班の邪魔をしないようにお気をつけください』


「はーい、治療おしまいです。これで大丈夫ですよー。ゆっくり休んでお大事にしてくださいね」
「うん。ありがとう!」
 ぴょんっと簡易ベッドから飛び出して、走っていくライゼを見送ったあと。
「具合はどうですか?」
 反対側の簡易ベッドの上で仰向けになっている永谷に、結和は問いかけた。
「ああ……はい、大丈夫です」
 冷タオルで両目を覆ったまま、永谷が答える。
 放置している時間が長すぎて、しかもその間、砂山を上っている途中で力尽きて流され、砂が入ったせいでますます眼球を傷つけてしまったのだ。
「煙幕の効果はあと30分ほどで完全に消えるそうです。でももし痛みが強ければ痛み止めを処方しますので、痛かったら言ってくださいねー」
「ありがとうございます」
 ぽんぽん。肩を叩いて立ち上がった結和は、救護テントから出た。
 外には、砂山から救助された人たちが寝かされていた。
 彼らは永谷のように暗所が必要なわけでなく、重傷者というわけでもないため、地面に敷いたシートの上で治療を受けている。
 もっぱら治療をしているのは加夜と瀬織とクリスだ。ほかのメンバーは、砂山からの救助にかかりきりになっている。
「あ、結和さん。中の人はどうですか?」
 結和に気付いた瀬織が駆け寄ってきた。
「ライゼちゃんは目を覚ましたわ。永谷くんは、もうちょっとかかるわねー」
「そうですか」
「じゃあ私、行ってきますね」
 クリスが救急箱を手に立ち上がる。
「お願いね、クリスさん。私、こっちで手いっぱいだから」
「はい」
 ぺこっと加夜に頭を下げて、サンドフラッグ競技場に向かうクリス。
「彼女は?」
「罠にかかったままの人の救出です。穴の奥で糸に絡まってるそうで……切ってほしいって、エリーさんから」
「そう」
 そのとき、ゴボゴボゴボと、吐瀉する声がした。
「苦しいかと思いますが、必要なことなんです。我慢してください」
 加夜が背中をさすりながらグレーターヒールをかけている。
 体力の回復はヒール、圧迫による骨折はナーシングでもいいが、飲んだ砂は吐き出させるしかない。
「瀬織ちゃん、シャントさんにお願いして、嘔吐剤をもっといただいてきてください」
「分かりました」
 たたたっと駆けて行く。
 結和は入れ替わるように、加夜の横についた。
「手伝いますー」
「ありがとう。お願いします」
 砂山ではまだ救出作業が続いている。けが人は増えそうだった。



「大丈夫ですか? 足の方から糸を切りますから、気をつけて立ってください」
 穴を覗き込んだクリスが、パチパチとロイに絡みついている糸を切る。
「ああ、ありがたい」
 やっと自由になれて、穴から上がったロイに、エリーがしがみついた。
「よかった…! 落ちたっきり出て来ないから、どうしたのかと…」
「心配させてごめんな。がんじがらめだったから発煙筒も焚けなくて」
 2人の邪魔をしてはいけないと、クリスはそっと次の治療者の元に向かった。



「大丈夫ですか?」
 クリスは砂山の横に寝転がったアスカに声をかけた。
「アスカーっ、おねえちゃんよーっ、目を開けてー。
 ねぇねぇ、アスカ、死んじゃうのー?」
 オルベールが枕元で涙目になっている。
「死にません〜」
 小さなかすれ声で、アスカは答えた。
 アスカは、予定では、オルベールをホイップしたあと自力で砂を飛び出して、鴉に受け止めてもらうはずだったのだが、最初に飛び込んだとき、既に腰まで減り込んでいて、さらにオルベールをホイップした反動で胸の下近くまで減り込んでしまったせいで、自力では脱出できず、そのまま砂に飲まれてしまったのだ。
 あっぷあっぷと流されていく彼女を鴉が引っ張り出したものの、激しく体力を消耗し、ぴくりとも動けなくなっていた。
「砂を吐かせましたか?」
 こくっと鴉が頷く。視線はアスカに固定されたままだ。
「ではヒールをかけていきます。動けるようになられたら、一度救護テントにお連れください」
 そう言ってヒールをかけると、クリスは砂山の反対側へ去って行った。そこでは綺人やクレアたちが、深部へ落ちてしまったらしい飛鳥の救助に取り組んでいたからだ。

 クリスのヒールで血色の良くなったアスカの頬に、そっと鴉の指がすべった。
 指の動きに反応して、アスカの目が開いて、自分を覗き込んでいる2人を見る。
「アスカ〜〜〜〜っ」
「ごめんねぇ、鴉〜、ベル〜」
「ったく、あんまり心配かけんじゃねぇよ…」
「……うん。ごめん〜」
 頬に触れたままの鴉の指に向けて頬を傾けたアスカは、気持ちよさそうにまた目を閉じる。
(あっ、あっ、このバカラス! ベルの前で、なにひとの妹といい雰囲気になってるのよ!? おねえちゃんはあなたたちの交際を絶対許しませんからねッ!
 ああでもでも、アスカが無事でよかったぁ〜〜〜)
 本当は声に出して言いたかったが、ここはけがをしたアスカの枕元と、必死に我慢するオルベールだった。

ハーフタイム終了。