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リアクション
第1章 逃さない・・・その身を溶かす酸性雨
消えることなんてない・・・温かい言葉をもらい差し出された手を掴み、迎えに来てもらった生徒たちと共に日早田村から出る直前、オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)の魂の一部を奪われさらに吸収されかかったその時、消えたくない思いが強くなり自らをゴーストタウンのマンションへ逃げ込んだ。
何とかマンションへ逃げるものの、十天君たちが追ってきただけではなく、ドッペルゲンガーまで再び狙ってきた。
生徒たちに発見され守ってもらってはいるが、悪霊が増え続ける建物にいてはせっかく来てもらったのに、また自分のせいで傷を負ってしまうかもしれない。
「この手を離さないで!」
恐怖で不安定になってしまった魂から発せられた闇に包まれ、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は離れてしまわないように彼女の手を掴む。
「奪わせはしないわ、絶対に・・・。(私たちがいるんだから、もうどこにもいかないで・・・)」
十六夜 泡(いざよい・うたかた)たちはその手を離すまいと握り気を失った。
彼女たちから逃れようと、オメガの魂は生徒たちと共にマンションから姿を消したのであった。
目覚めはまもなく・・・。
-1Day PM19:00-
館でオメガとミニミニの傍にいる椎名 真(しいな・まこと)は買出しに行くにしても、ここに誰も残らないのはまずいと思い東條 カガチ(とうじょう・かがち)に連絡する。
「ん、果物足りないかな?カガチたちヒマそうだから買ってきてもらうか。そうだ、ついでに協力してもらおうかな。俺たちが孤島にいる時に襲撃があったらしいし、また館に敵が来る可能性もあるからね」
変わりに激暇そうな彼らに行ってもらおうと携帯の音を鳴らす。
「カガチ、起きてる?」
「んー・・・おはよう椎名くん。ていうか夜中にどうしたんだい?まさか一人で眠れなくて寂しいからって、ただ電話かけたわけじゃないよね」
「はははっ違うよ、ちょっとお使いを頼みたいんだけどいいかな」
「椎名くん今どこにいるの、自宅からじゃない気がするんだけど」
「うん。実は今、家じゃないんだよ」
「え、あ・・・やっぱり。あはは・・・で、今度はどこに行けばいい?」
またもや緊急の呼び出しかと乾いた笑いを漏らす。
「もし買えたらそれ持ってオメガさんの館に来て。今から五条さんたちにも声をかけるから、来る途中で一緒になると思うけど」
「俺だけじゃないんだね、ちょっとしょんぼりだよ」
「冗談言ってないでよろしくね」
「はいはーい、軽い冗談でした」
「ついでにフル武装で来てくれない?」
「フル装備ねぇ。んじゃ今から行くからそれまで生きててよ椎名くん。(だいたい場所は分かるけど、こんな時間に近くのスーパーやってたっけ。お金ないんだけど、まぁいっか。開いてたら五条ちゃんもちってことで)」
カガチは電話を切り、急いで寝巻きから着替えて出かける仕度を始める。
「えっと次は五条さんに電話を・・・。もしもし、起きてる?」
「おー、真か。どうしたんだ」
「今オメガさんの館にいるんだけど、買出しをお願いしたいんだ。で、ついでに頼みたいことがあるからフル装備で来て」
「買い物だけ行くのになんでフル装備なんだ?」
ただお使いを頼まれるだけなのに、どうしてそんな格好で行くんだと五条 武(ごじょう・たける)が問いかける。
「まぁ来てくれれば分かるよ・・・」
「あ?いいぜ、どうせ神的に暇だしな。ごろごろしているよりは調度いい運動になりそうだ」
真の声音で“何かと戦わされるのか”と察知し、友人の頼みだし行ってやるかとイルミンスールにあるスーパーへ向かう。
この時彼はまだ、“苦手な者と戦われる”とは夢にも思わなかった。
「最後はリューかな。まだ7時だし起きているよね。もしもしリュー、俺だけど起きてる?」
「俺って誰だ?」
「いや・・・、俺けど」
「名前を言え!」
「あっ、真だよ」
「何だ真か。てっきり今流行の俺俺詐欺かと思ったぞ」
リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は表示されている電話番号を確認してようやく真だと分かった。
「起きてるけど今から夕飯を食うところだ」
「ご飯前に悪いんだけどさ、今からオメガさんの館に来て闇世界に行ってくれないかな?オメガさんの身体から抜け出しちゃった魂がそこにいるんだけど、すでに他の生徒たちが何人か行っているからもう見つけているは思うんだけど。でも、その魂を狙っているやつらがいてね、奪われないように守ってあげて欲しいんだ」
「分かった、今から行ってやる」
出来上がったばかりの夕飯を食べつつ、着替えながらリュースは電話を切る。
「どこか行くのか?」
彼が出かけようとしているところを見たロイ・ウィナー(ろい・うぃなー)が、どこに行くのか聞く。
「―・・・少し出かけてくるようには見えないが」
「さっき真に電話で呼ばれて、闇世界へ行かなきゃいけないんです」
「ならば俺も行こう。そこで死なれては俺が困るからな・・・」
「あはは、簡単には死にませんよ」
リュースは夕飯を食べながらロイと共にオメガの館へ走る。
-2Day AM0:00-
時刻が深夜12時を回った頃、リュースとロイの2人は真が待っている館にようやく到着した。
「真、お前が無事で何よりだよ。無理するから、お前は」
オメガの寝室に入ると、魔女とミニミニの様子を見ている真の姿を見つけた。
「今のところは何とかね。俺は今回、闇世界に行かないでここにいるからさ。この霧の向こうに皆がいるんだけど、厄介なことに魂を狙っているのが十天君のやつらなんだよ」
「あぁ、あの若作りなオバさんたちか。まったく懲りないな」
「―・・・あはは。んー・・・まぁ、その女たち以外にも何人かいると思うからさ」
「十天君たち以外はどうするか分からないが、邪魔するなら容赦はしないだろうな」
「怪我人は私が治しますね!」
ついて行こうとイナ・インバース(いな・いんばーす)はソーイングセットを入れたカバンを抱える。
「オルフェも行くですよ♪悪い人たちにちょっと痛いお灸をしてあげなきゃいけないですし」
オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)も闇世界へ向かおうと寝室の中へ入る。
「うん・・・気をつけてね」
真は霧の中へ入っていくリュースたちへ片手を振り見送った。
そこへ入ったリュースたちは、じっとりと湿った工場内の入り口の中へたどりついた。
外を見ると黒に近い紫色の不気味な雨が降っている。
「酸性雨か・・・?魔法的なものに見えるが・・・。リュース、ここでは何が起こるか分からない。魔鎧としておまえに装着しておこう」
「はい、お願いします。オメガさんの魂を守っている生徒を探しましょう」
蒼のフロックコートとなったロイをふわりと纏う。
先に来ている者たちを探し始めたその頃、工場内にいる生徒が目を覚まし始めていた。
「うわぁ、メロンが・・・メロンが襲ってくる!―・・・あれ、夢か・・・。何か変な夢だったね。ここは・・・どこ?」
目を覚ました佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、辺りを見回して状況を確認しようとする。
「雨・・・?普通の雨の色とは違うみたいだけど」
窓の向こうを見るとグレイッシュバイオレットよりも暗い色みの雨がザァザァと降っている。
「うーんっ、無理みたい。開けられないね」
開けてもっとよく見ようとするが、錆ついているせいか硬く閉ざされていて開けることが出来ない。
「この匂いは・・・」
入り口から風に乗って強烈な酸っぱいに匂いが漂う。
つんと鼻をつく匂いに弥十郎は思わず顔を顰め、入り口へ走り外を見ていると酸の雨が降っている。
「響、大変だよっ。外に酸性雨が降っている!」
慌てて仁科 響(にしな・ひびき)のところへ戻り彼を揺り起こす。
「―・・・う、うーん・・・。え・・・酸性雨!?マンションに来る前に雨なんか降っていなかったよ!」
彼の声に驚き飛び起きた響が窓の向こうを見る。
「どういうこと?いったい・・・どうなっているの・・・」
ベタンッと窓ガラスに手をついて外の様子を覗く。
「ねぇ、これってっ。―・・・ここはマンションの中じゃ・・・ないの?」
周囲をキョロキョロと見回すとそこはマンションではなく、棚の中に放置された薬品が並ぶ倉庫だ。
「こんな雨を降らせることが出来るっていったら十天君くらいなのかな」
あの女たちの仕業に違いないと弥十郎は窓の外を睨むように見つめる。
「逃がさないつもりかなぁ。なら逃げるけどね」
意地でも逃げてやると、弥十郎は思考を巡らせる。
「驚きの歌で使用して術者の心をかき乱せないかな。でも失敗しちゃいそうだから違う手も考えなきゃね」
薬品が並べてある棚や、ダンボールの中を漁って使えそうなものがないか探す。
「酸だから中和出来ればいんだけど」
石灰や水酸化マグネシウムなどの、アルカリ性の薬品を探し始める。
「でも、あの雨量に対抗可能かが問題だね。逃がさないために発動させているみたいだから、薄っぺらい感じにしてないみたいだし」
「そっか。しかもあれがアシッドミストと同じく魔法だったらアウトだし。だからといってこのまま何もしないで試さないよりかはマシだと思うんだよ」
悪女たちに好き勝手させられたままじゃたまらないと倉庫内を必死に漁る。
「―・・・あった!ん、こっちのは生石灰・・・?」
「それって酸とアルカリが反応すると確か熱がでるよね」
「うん、そうだね。中和剤とは別に詰めておこうかな。うーん・・・詰めようにも手についちゃいそうだよ」
目当ての薬品を見つけるが素手のままではさすがに触れない。
「ビニール手袋があるけど、あまりキレイじゃないね。この状況で贅沢はいっていられないし、ないよりかはマシかな」
響は目を凝らして真っ暗な倉庫の中を、引き出しの中を開けて見つける。
「ありがとう♪」
手袋を受け取ると弥十郎はビニール袋に詰めて小分けにする。
「投げる時もこれをはめておいた方がいいね」
「明かりがついていないし、手元が暗いから気をつけなきゃ・・・」
きゅぽっと薬品の蓋を開け、慎重にゆっくりと袋に詰めていく。
「持てるのはだいたいこれくらいかな?濡れないようにしてあるけど、あのやばそうな雨だと濡れるっていうより、ジュッてすぐ溶けちゃいそうだからね」
「それは言えてるかもね」
「秦天君は術を使わなかったみたいだから、となるとこの雨を発動させているのは柏天君の方だよね?」
中和剤を持って弥十郎と響は柏天君を探し始める。
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