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【2020修学旅行】京の都は百鬼夜行!

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第4章 あの橋を守れ! 〜一条戻り橋の戦い〜

 他の三か所が京都御所の東、鴨川の向こうにあるのと違って、一条戻り橋は京都御所の西側にある。片側1車線ずつの左右に歩道があり、幅は決して狭くないのだが、堀川の幅が狭いため、あっという間に渡れてしまうような、短い橋だ。
 生徒たちが駆けつけた時は、橋の上や、橋の下の遊歩道に元・荒法師や元・武者などの亡者がうろうろとさまよっており、その周囲を僧侶たちが固めて、祈祷を続けているという状況だった。戸板を盾のように立てているのは、亡者たちがあたりにある物をぶつけて来るのを防ぐためだろう。戸板に石つぶてが当たって、バラバラと音を立てている。
 「橋はさすがに昔のままではないが、まるで、私がこの世にいた頃に戻ったようだな」
 その様子を見て、葦原明倫館の橘 柚子(たちばな・ゆず)のパートナー、英霊安倍 晴明(あべの・せいめい)が眉をひそめる。
 「う……」
 イルミンスール魔法学校の神代 明日香(かみしろ・あすか)は、パートナーの剣の花嫁神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)が背後で小さく声を上げたのに気付いて振り向いた。夕菜は魔道書ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)にしがみついて、真っ青になって震えている。
 「夕菜さん、苦しいです、離してください」
 相当力が入っているのか、ノルニルは苦しそうな顔をしている。明日香は慌てて夕菜をノルニルから引き剥がした。
 「ノルン様、大丈夫ですの?」
 ふらふらしているノルニルを、魔鎧エイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)が抱き止めた。
 「無理をせず、避難していましょうねー」
 そのまま、ずりずるとノルニルを後方へ引っ張っていく。
 「えっ、えっ? あの、私大丈夫ですよ? ちゃんと頑張れますけど……」
 「遠慮しないでくださいですの。ノルン様に何かあったら大変ですの!」
 ちゃんと亡者と戦おうと思っていたノルニルは、突然のことに抵抗が出来ず、そのままエイムに引っ張られて行ってしまった。
 「えーと……夕菜ちゃんは大丈夫です?」
 それを呆然と見送り、今度は自分にしがみついた夕菜に、明日香は尋ねた。
 「だだだだだだいじょうぶでですぅ……」
 夕菜は答えたが、声は震えているし目は閉じているしで、とても戦闘に参加できる状態ではない。
 「だ、大丈夫じゃないと思うんですがぁ……。ノルンちゃんやエイムちゃんと一緒に、後ろに居た方が……」
 明日香が勧めても、夕菜は腕にしがみついたまま、首を横に振るばかりだ。
 一方、
 「わたくしは嫌だって言ってるでしょー!」
 パートナーの土方 歳三(ひじかた・としぞう)に首根っこを掴まれて、じたばたしながら叫んでいるのはイルミンスール魔法学校日堂 真宵(にちどう・まよい)だ。
 「亡者と一緒に暴れて地獄の魔王になるって言うんなら面白いけどっ、京の都を守りに行くなんてまっぴらごめんだってば!」
 第六天魔王にわたくしはなるのよーっ!と暴れている真宵を事も無げに引きずり、浅葱色の羽織を翻した歳三は颯爽と橋に歩み寄る。
 「見知った顔が居るかと思ったら、そうでもねえのか」
 戦況を確認しているシャンバラ教導団の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)たちの後ろからひょいと顔を出し、鎧武者や僧兵が多い亡霊たちを見て、肩を竦める。
 「都の連中は、先の戦と言やあ応仁の乱の事だそうだからなぁ。その頃の連中が出て来てんじゃねえのか?」
 蒼空学園の椎名 真(しいな・まこと)のパートナー、英霊原田 左之助(はらだ・さのすけ)が肩を竦める。
 後ろの方でそんな騒ぎが起きている中にも関わらず、小次郎は冷静に戦況を分析していた。
 「これだけの人数で、魔法や特殊技能を駆使して戦えば、亡者の掃討は難しいことではないでしょう。むしろ難しいのは、『橋や建物に被害を出さずに戦えるか』でしょうね。そう言ったものに被害が出れば、我々の方が悪役に見えてしまう可能性があります」
 「そうですね、それに、古都の美しい景観を損なってはいけませんもの」
 険しい表情で言う小次郎に、シャンバラ教導団の相沢 洋(あいざわ・ひろし)のパートナーである魔女乃木坂 みと(のぎさか・みと)が頷いた。どうやって持って来たのか、パワードスーツを着用している。
 「修理代は閻魔に出してもらえばいいのではないか?」
 百合園女学院の毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)がふっと笑って言った。
 「閻魔が現世に通用する金なんか持ってるかね? 話聞いた限りでは、普段ナラカに居るみたいだし」
 洋が首を傾げる。
 「あー……」
 大佐は眉を寄せた。
 「ということは、結局ただ働きになるのかね、我々は」
 「明日からの修学旅行が無事に日程通りの旅行になることが、私たちへの報酬でしょうか」
 小次郎が苦笑する。大佐はやれやれとため息をついた。
 「と言うことは、周囲を巻き込むような派手な魔法は控えなくてはあかん、ということどすな?」
 葦原明倫館の橘 柚子(たちばな・ゆず)が尋ねた。
 「そうですね。接近戦を挑む生徒も多いと思いますから、基本は各個撃破でしょう。射線の確保には気をつけてください」
 小次郎はうなずいた。
 「わかりました。……天乙はん!」
 柚子が呼ぶと、悪魔天乙 貴人(てんおつ・きじん)が虚空から姿を現した。
 「念のため、一般の方がここへ近付いて巻き込まれたりしないよう、気をつけていて欲しいのどすけど。それと、怪我された方の治療もお願いします」
 柚子の言葉に、貴人はうなずいた。
 「さて、じゃあ、そろそろ行くか? 坊さんたちも声が嗄れて来てるみたいだぜ?」
 パートナーのみと同様パワードスーツを着けた洋が顎をしゃくった。
 「そーね、さっさと済ませてお開きにしましょ」
 無理やり連れて来られて早く帰りたい真宵が投げやりに言って、いきなり『ブリザード』を唱えた。しかも、口調が投げやりなだけではなく、狙いもいい加減だったので、最前線に居る僧侶たちを氷の嵐が思い切り巻き込んだ。
 「うわああああ!」
 「ひぃぃぃぃっ!?」
 状況を確かめる間もなく、僧侶たちがばたばたと倒れて行く。一方、亡者たちは氷を振り払うような動作をしたが、まだまだ元気だ。
 「あらー、ちょっとパワー不足だったかしら? だったら……」
 『禁じられた言葉』を唱え始めた真宵の口を、歳三が慌ててふさいだ。
 「いかん!」
 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)が血相を変えた。僧侶たちが倒れたことで、亡者たちを橋の周辺に押し込めておくことが出来なくなったらしく、亡者たちが散らばり始めたのだ。
 「天乙はん、お坊さんがたを!」
 柚子の命令に、貴人は僧侶たちを助けに駆け出す。小次郎も僧侶たちに駆け寄った。それを援護するために、柚子は火力を絞ったファイアストームを放った。鳥のような形に見える炎が、亡者たちに向かって飛んで行く。それを追うように、生徒たちは前に出た。
 そんな中、
 「えーっと、う、動けないです……」
 夕菜にしがみつかれた明日香は、動きたくても動けない。仕方なく、しがみつかれていない側の腕だけで光術を使って援護する。
 「お坊さんたちをこっちへ!」
 クレーメックに『パワーブレス』を使った島本 優子(しまもと・ゆうこ)が叫ぶ。
 「責任取って、手当てを手伝って来い」
 真宵を取り押さえていた歳三が、じろりと真宵を睨んだ。
 「えええー? だってさっさと終わらせてさっさと帰りた……」
 頬を膨らませて不平を垂れ始めた真宵は、歳三が鬼の形相になったのを見て、途中で言葉を飲み込んだ。
 「はぁい……」
 渋々、優子が僧侶たちを介抱している方へ向かう。ため息をついてそれを見送り、歳三は『栄光の刀』を抜き放った。
 「抜かるなよ原田!」
 「承知ィ!」
 亡者に奪われないよう、槍を晒で手にくくりつけた左之助が答える。