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リアクション
「……うーむ」
「どうかしましたか?」
ようやく落ち着き始めた子供たちの様子を見て唸り声を上げたパートナーの剣の花嫁七那 禰子(ななな・ねね)を見て、百合園女学院の七那 夏菜(ななな・なな)は首を傾げた。
「いや、手品っぽく、光条兵器で斬りつけて『ほーら大丈夫だろ』ってやろうと思ったんだけどさぁ、今の様子見ると止めた方がいいのかなと思ってさ。泣くの止めさせたくて来たのに泣かせたら、ましてやパニック起こされたらまずいだろ?」
「そうですね、服装を見ると刀や太刀で戦ってた時代に生きてた子がほとんどみたいだし」
夏菜はうなずいた。
「どーすっかなぁ、高い高いで投げ上げるとかジャイアントスイングとかも出来ないよな?」
陽一や美由子と追いかけっこをしている子供たちを見て、禰子は難しい顔をした。子供たちには実体がない。立体映像のような感じで、例えば、子供たちが陽一を捕まえたり体当たりしようとしてもすり抜けてしまう。
「無理みたい……って言うか、何でそう豪快な方面にしか行かないんですか」
夏菜はため息をつく。
「えー、豪快な方が喜ぶだろ、普通」
禰子は悪びれる様子もなく答える。
「まあ、そういう子も居るでしょうけど、初対面の子にするにはちょっと豪快すぎです。……要は体を動かして遊びたいっていうことなんでしょ? だったら、追いかけっこに混ざって来たらどうです?」
夏菜は陽一たちを指差した。
「そうだな、そうするわ」
あたしも混ぜてくれ!と手を振りながら、禰子は追いかけっこの仲間に入る。夏菜はやれやれ、と息をつくと、ふと心の中で呟いた。
(死んでしまったボクの家族は、今頃どうしてるんだろう……? ここに現れた子供たちみたいに、泣いてないといいんですけど……)
「おーいっ、夏菜も入れよ!」
禰子が手招きをしている。
「はーい!」
暗い顔を見せて、禰子に心配をさせてはいけないと、夏菜は笑顔を作って手を振り返した。
一方、
「こんにちは、お姉ちゃん達と遊ぼうよ?」
蒼空学園の久世 沙幸(くぜ・さゆき)は、まだめそめそしている気の弱そうな少女の前にしゃがみ込み、顔を覗きこむようにして声をかけた。
「ごめんね、ちょっと怖かったよね。でももう怖いことないから、泣かないで、ね?」
根気強く話しかけると、少女はしゃくりあげながら、上目遣いに沙幸を見た。
「今、みんなのためにお菓子を作ってるんだよ。お菓子ができるまで、一緒に遊ぼう? えーっと、『あっちむいてほい』って知ってるかな?」
沙幸の問いに、少女は首を横に振る。
「じゃあ、じゃんけんはわかる?」
少女は再び首を横に振った。またちょっと涙目になっている。
「昔からある遊びだと思ってたけど、実はそうでもないのかなぁ……。じゃあね、説明するから、覚えて一緒にやってみよう?」
沙幸はじゃんけんのルールから、少女に教え始めた。少女はちょっと唇を尖らせて、真剣に沙幸の言葉を聞いていた。
「……優。大丈夫?」
蒼空学園の神崎 優(かんざき・ゆう)は、パートナーの守護天使水無月 零(みなずき・れい)に声をかけられて、自分が呆然と立ち尽くしていたことに気がついた。見回すと、獣人の神代 聖夜(かみしろ・せいや)も、魔道書の陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)も、心配そうに自分を見ている。
「うん……ちょっと、気圧されてしまったかな」
優は首を左右に振ると、パートナーたちを見て笑顔を作った。
「ありがとう、もう大丈夫だ」
優の笑顔に、パートナーたちは一様に安堵の表情になった。
「子供たち、だいぶ元気が出て来たみたいだな」
あちこちから歓声が上がるようになった門前を見回した優は、塀ぎわで丸くなっている小さな男の子を見つけた。背中が震えている。泣いているのだろうか。優は、思わずその子に駆け寄った。
「まだ怖いのか?」
傍らに膝をついて声をかけると、男の子が顔を上げた。涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。
「……お父ちゃんと、お母ちゃんがいない……」
蚊の鳴くような声で、男の子はぽつりと言った。優は思わず男の子を抱きしめようと手を伸ばしたが、その手は男の子の体をすり抜けてしまった。
「あ……」
思わず手を見つめた優の肩に、聖夜が手を置いた。刹那は、まだ少し心配そうに優を見ている。優はひとつ息をつき、男の子の顔を覗き込んだ。
「そうだな、今は会えない。けど、きっと、お父さんもお母さんも、君が思っているように、君のことを思っているはずだ」
「そう……?」
まだ不安そうな男の子に、優はうなずきかけた。
「それに、きっと、いつかまた会えるよ」
「そう……かなぁ……」
「そうよ。だって、ナラカに行くのは、いつかパラミタへ行くためだもの。長い時間がかかるかも知れないけど、きっと、また会えるわよ」
零が微笑む。
それから、優たちは男の子といろいろな話をした。男の子の表情が明るくなったところで、優は操り人形を使って人形芝居をやっている蒼空学園の茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)を指さした。
「ほら、あそこで楽しそうなことをやってるぞ。一緒に見ようか」
その言葉に、男の子はこっくりとうなずいた。
「あ、見に来てくれたんですね?」
優が男の子を連れて行くと、2体の人形を操って即興のお芝居をしていた衿栖はにっこりと笑って、人形をトコトコと歩かせながら、男の子に近付いた。人形を見て、男の子の目が丸くなる。
「こんにちは。一緒に遊ぼう?」
衿栖の言葉にあわせて、人形がペコリと頭を下げる。男の子の顔がぱっと明るくなった。
「じゃあ、次は、みんなでお遊戯をしましょうか。歌にあわせて、お人形の真似をしてくださいね!」
衿栖が歌いながら簡単な動作の手遊びを始める。子供たちは拙い動作だが、真似を始めた。
「ほら、そこのお坊さんも、一緒に歌って! 誰でも知ってる歌ですよね?」
「うっ……」
衿栖に声をかけられた若い修行僧は一瞬たじろいだが、衿栖と子供たちにじーっと見つめられて、仕方なく歌い出した。毎日声明を上げているだけあって、歌い始めればなかなかの美声だ。
「なぁんだ、上手なんじゃないですか! みんなも、歌えたら一緒に歌ってくださいね!」
衿栖は子供たちを見回した。
「うーん、遊ぶだけじゃやっぱり成仏しないかぁ……」
衿栖のパートナー茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)は、その様子を横目で見て小さくため息をついた。衿栖と朱里は、お供え物だけではなく、悩み事を聞いたり楽しく遊ばせたりすることで子供たちの未練をなくして成仏させることが出来ないかと考えていたのだが、今のところ、子供たちにそんな様子はない。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
そんな朱里の前にいた子が尋ねて来た。『朱里の部屋』と称して椅子を用意し、子供たちの話を聞くつもりだったのだが、椅子に座ることはできないので、地面に座っている。いや、座っているように見えるだけで、実際はただ単に「立っているラインが同じ」なだけかも知れないが。
「何でもないわ。お菓子が出来るまで、朱里とおしゃべりしてようね」
「うん」
子供はこっくりとうなずいた。
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