百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

【2020修学旅行】京の都は百鬼夜行!

リアクション公開中!

【2020修学旅行】京の都は百鬼夜行!

リアクション

 僧侶たちが倒れたことで、一条戻り橋の周囲は一気に混戦に陥った。亡者たちを物理的に止める方法はないので、どこかへ行ってしまう前に倒さなくてはならない。
 「ぷはぁっ、これってちょっと、地味につらいよお!」
 天御柱学院の祠堂 朱音(しどう・あかね)は、顔を覆って涙目で叫んだ。亡者たちは重たい物は動かせないが、小さい物は動かすことが出来る。生徒たちが一条戻り橋に着く前も石つぶてで僧侶たちを攻撃していたが、生徒たちを敵と認識した今は、生徒たちに向かって石や砂を飛ばして来る。顔や手など、服や装備で覆われていない部分に当たればそれなりに痛いし、砂が目に入れば視界を奪われる。朱音はパートナーの魔鎧ジェラール・バリエ(じぇらーる・ばりえ)が鎧化した白い胸当てを身につけていたが、頭や手足はむき出しのままなので、飛んで来る石や砂の影響が大きい。
 「攻撃は最大の防御だ。頑張れ!」
 ジェラールが朱音を励ます。
 「……うんっ!」
 朱音は二丁の魔道銃を握る手に力を込めた。
 「サイコキネシスで砂や石を止められないか、やってみるわ。止まったら、そこを狙って撃って!」
 強化人間須藤 香住(すどう・かすみ)は精神を集中した。
 『……止まれ!』
 だが、ある程度大きさのあるものを一つだけならともかく、飛んで来る幾つもの石を一人で同時に止めるのは難しい。
 「……ワタシが遮蔽になるわ。朱音、ワタシの後ろから撃てる?」
 香住は朱音の方へ振り向いた。亡者の集中を乱すことも考えたが、何度も目をこすってつらそうな朱音を放ってはおけない。
 「うん!」
 朱音は『女王のカイトシールド』を構えた香住の後ろへ移動した。完全に砂を遮れるわけではないが、いくらかはましだ。
 「心の煌めきよ!貫け!」
 叫びと共に、二丁の魔道銃を連射する。一方、剣の花嫁シルフィーナ・ルクサーヌ(しぃるふぃーな・るくさーぬ)は、『女王のカイトシールド』で石つぶてを避けながら、亡者に駆け寄った。
 「星の煌めきよ……彼らに安らかな眠りを」
 朱音の攻撃を受けて胸を押さえて足を止めた亡者に向かって、光の刃を一閃する。亡者の姿がふっと掻き消えた。
 「姿を消した!?」
 シルフィーナは油断なく、警戒の視線を周囲に向けた。
 「……ううん、消えたみたい。殺気は感じないよ」
 朱音は首を横に振った。
 「ナラカへ戻ったんでしょう」
 まだ盾を掲げたまま、香住が言う。しかし、盾に当たる石や砂の音は少し弱まったようだ。
 「この調子で頑張って早く倒しましょう! 私、湯葉を食べに行きたいんです」
 「ワタシは清水の甘味処でお汁粉がいい……」
 「えーっ、湯豆腐だろ湯豆腐!」
 一人敵を倒して少し精神的に余裕が出来たパートナーたちに、
 「そうだよね、せっかくわざわざパラミタから来たんだもん、とっとと敵を倒して京都観光しないとねっ」
 うなずき返して、朱音は再び魔道銃を構えた。

 橋がかかっている堀川の岸は、遊歩道として整備されている。道沿いに移動しなくてはならないという固定観念のようなものを亡霊も持っているのか、あるいは、さすがに地形まで通り抜けることは出来ないのか、亡者の一部は橋の両岸の道路だけではなく、この遊歩道沿いに移動を始めた。
 「ジーベック、亡者が逃げますわ!」
 亡者の逃亡を警戒していた守護天使三田 麗子(みた・れいこ)は、ブージを引っ提げて岸から遊歩道に飛び降りた。
 「まったくもう! 私たちの修学旅行って、どうして、いつもいつもこうなっちゃうのかしら!?」
 たまには平穏無事な修学旅行をさせてもらいたいものですわ!とぶつぶつ言いながらも、アルティマ・トゥーレで冷気を纏わせたブージを亡者に向かって振り下ろす。
 「……ととっ」
 なにかを『斬っている』という手ごたえがまったく無く、振り下ろした勢いで麗子はよろめいた。亡者は、麗子に斬られた場所を押さえている。傷口からは血は流れておらず、霜のような、きらきらと光る細かい粒が体の表面に線を描いているのが見えるだけだ。
 「実体がないって、案外斬りにくいものなんですのね……ぶわっ!」
 体勢を立て直して振り向いた顔に、いきなり堀川によどんでいた水を浴びせかけられて、麗子はうろたえた。さらに、その隙に一瞬持つ手がゆるんだブージをぐいぐいと引っ張られる。
 「逃がすか!」
 クレーメックは岸の上から、拳銃型の光条兵器の狙いをついえた。
 「サポートは私にお任せを。ジーベックさまは、迷える魂に安らぎを与えて下さいませ」
 島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)が『悲しみの歌』を歌い始める。クレーメックが放った光の弾丸は、正確に亡者の頭を貫いた。麗子も、額を流れ落ちて目に入ってくる水に顔をしかめながら、再びブージを振り回す。二人からの攻撃を受けた亡者は、すう……と消えて行った。
 「戻りましたか……」
 泥水で汚れた顔をぬぐいながら、麗子は呟いた。
 「大丈夫か!?」
 クレーメックの声に、軽く手を挙げて答える。
 「よし、では俺はこのまま上から援護する」
 クレーメックは、二人目の亡者に狙いをつけながら言った。
 「わかりましたわ」
 麗子はうなずき返して、ブージの柄を握り直した。

 土方 歳三(ひじかた・としぞう)椎名 真(しいな・まこと)とパートナーの原田 左之助(はらだ・さのすけ)の三人も、橋を挟んで麗子たちとは反対側の遊歩道に降りていた。
 「無念を残して、現世に戻りたい気持ちはわかるよ。でも、これは正しい道じゃないから……」
 真は晒を巻きつけて固定したブライトフィストを握り締め、亡者に対峙した。
 「さっさと片付けようぜ、真! 気合い入れろよッ!」
 左之助は忘却の槍を、元・荒法師の亡者に向かって繰り出した。
 「うおりゃああああ!」
 ぐぐ、と槍が押し返される感覚があるが、渾身の力を込めてそれを押し切る。忘却の槍が刺さって一瞬敵がぼうっとしたところに、真が横から拳を繰り出した。
 「左之助兄さん直伝の気合いの一撃、受けてみろ!」
 こめかみに拳を受けて、亡者の体が揺らぐ。
 「悪いが、ナラカへ戻ってもらおうか!」
 さらに、歳三が聖化した『栄光の刀』で背後から袈裟懸けにした。亡者の姿が薄れて行く。
 「何だか、あの頃に戻ったみたいだなぁ、原田?」
 抜き身を肩に担いで、歳三が不敵に笑う。
 「そうっすね、土方さん」
 槍を小脇に、左之助が笑い返す。その姿は確かに、往時の新撰組のようだった。
 「お二人とも、思い出にひたるのは後にしませんか!? さっさと片付けないと、亡者たちが街に広がってしまいます!」
 身構えて次の亡者と向かい合った真が、二人を振り返る。
 「すまん!」
 左之助は左手をひょいと挙げ、真に駆け寄った。