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ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

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第3章 聖夜の行軍


 ヒラニプラでは、フレデリカから借りたサンタ服を着たシャンバラ教導団のクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が、夜間の飛行・索敵に優れたフクロウの名を持つ『小型飛空艇・オイレ』で、黙々と子供達にプレゼントを配っていた。
 サンタ服の上に『ブラックコート』を着て気配を消し、『ダークビジョン』で暗い家の中を進みながら、起きている子供は『ヒプノシス』を使って眠らせ、プレゼントを置いて行く。配達は順調だ。
 クレアが林の中を進んでいた時、発動させていたスキル『禁猟区』が異変を感知した兆候を見せた。クレアは小型飛空艇を急旋回させ、右へと進路をきる。その横を薙ぐように、しなった木の枝がクレアをかすめた。そのまま進んでいれば枝が当たり、墜落していたかもしれない。
 前方を見ると、機晶ロボに乗ったスネグーラチカがにやりと笑い走り去るところだった。巻き添えをくらいかけた同行者達は、あわてて体制を立て直している。
「上に気をつけて!」
 すれ違いざま囁いて行った翡翠の忠告に従って、クレアは小型飛空艇のスピードを上げた。後ろでドサドサと雪が落ちる音がした。振り返れば、雪娘が木を揺らして積った雪を落としたようだ。更に数名の雪娘が、クレアが木の下を通り抜けるタイミングで雪を落とそうと狙っている。
「やれやれ、サンタもなかなか、配達に専念とはいかないようだな」
 クレアはさらに小型飛空艇のスピードを上げ、落雪を掻い潜り、次の配達場所を目指した。

 一方、ヒラニプラの住宅街でサンタをしている蒼空学園のレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、今年のサンタの中で一番の露出度を誇るサンタ服で『ピッキング』のスキルを使い、子供部屋に侵入しようとしていた。上下に白いファーのついた赤いニットのチューブトップの上着は、レディシアの豊かな胸のせいでビキニのようになっているが、本人は気にしている様子はない。少し離れた物陰で荷物番をしているパートナーの守護天使、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)の方がよほど布が多いというのに、恥ずかしそうにサンタ服のスカート丈を気にしている。
 やがて、『隠密の術』を使って身を隠し、子供部屋にプレゼントを置いてきたレティシアがミスティのところに戻ってきた。
「さて、次の場所に移りましょうかねぇ」
 レティシアに促され、ミスティが先ほどから言いたかった事を口にする。
「あのね、レティ。確かに説得された時、手伝うって言ったし、潜入する技術なんて持っていないから荷物運びくらいしかできませんけどね。……だからって、ソリを引っ張らせなくても良いんじゃないかしら」
 2人は乗り物を持っていなかったため、ホームセンターで購入したソリ遊び用のソリにサンタのプレゼント袋を乗せて運んでいた。数日前から積っていた雪のおかげで運搬に支障はない。配る場所も移動が少なくて済む住宅密集地を割り振って貰っている。その分、煙突がない家もあるが、レティシアのスキルでカバーできた。だが、ミスティの気持ちは複雑だ。ミスティはついでにもう一つ、疑問に思っていた事を聞く。
「それと、この服ですけど、本当に普通のサンタ服はなかったんですよね? これが一番普通だったんですよね?」
 ミスティの言葉に、レティシアがもちろんだと頷く。
「それが一番、普通に可愛い服でしたねぇ」
 普通の定義は難しいようだ。ミスティは諦めたように溜息をついた。
「まぁ、子供達の笑顔を見たいのは私も一緒なんで手伝いますけどね」
 レティシアに急かされ、ミスティはソリを引く手に力を込めた。そうして2人が次の場所へと向かおうとした時、彼女達を跳ね飛ばしかねない勢いでスネグーラチカの機晶ロボが通り過ぎていった。
「あっぶないですねぇ! ちょっと!」
 レティシアが、スネグーラチカを追って走り出すのを、ミスティはプレゼントを引きずりながら慌てて追った。

 スネグーラチカは近くでプレゼントを配っていた。身軽に家から家へと飛び移り、器用に煙突にもぐりこむと、見事な速さでプレゼントを置いて出てくる。とてもじゃないが、真似できそうになかった。
 すぐにこのあたりを配り終え、先へ行こうとするスネグーラチカを、ようやく追いついたレティシアが呼び止めた。
「スネグーラチカさんは、それでもサンタクロースなんですかねぇ!」
 レティシアの言葉に、スネグーラチカがこちらを睨む。
「サンタクロースといったらトナカイのソリが基本だよねぇ。百歩譲って改造ソリなら良いけど、流石にメカに頼るのはじゃダメじゃん! そんなのサンタクロースじゃないじゃん!」
 レティシアの言葉を、スネグーラチカが笑った。
「そんな伝統、わたくしが変えればすむことですわ。来年から、この地区ではそんな古臭い方法で配るサンタはいなくなりますもの!」
 スネグーラチカはそう言い捨て、レティシアの制止を聞かず、機晶ロボと共に去って行った。
 レティシアはその後ろ姿を睨みながら不敵に笑った。
「ミスティ、どんどん配るよ!」
 そんな彼女の闘志に水をさすように、雪娘達が、彼女達の配る予定の子供部屋の窓を叩き子供達を起こして回っていた。
 ミスティが難しい顔をする。
「難易度が上がったわね」
「上等ですねぇ。こうなったら絶対、ぎゃふんって言わせてやりますからねぇえええっ!!」
 レティシアの怒りの咆哮の後、更にいくつかの窓に明かりが点る事になった。