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ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

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ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

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第7章 火に油が注がれる


 カレンがスネグーラチカについてきたのは、なんとかクリスマスを円満に終わらせたいがためだった。
(あんまり大差で勝負がついちゃうと、もっと心を閉ざしちゃいそうだもんね)
 スネグラーチカだってサンタの末裔、プレゼントを心待ちにしている子供達の事をきっと気に掛けているはず、と思っていたカレンだったが、今までのスネグーラチカの言動を見ていると、いまひとつそれが感じられない。配るのも機械的だ。いや、機晶ロボで配ってるからという意味じゃなくて……。
 スネグーラチカが、そんな事を考えているカレンの視線に気づいた。
「なんですの?」
「ううん、なんでもない」
 一緒に配ろうと、スネグーラチカの後を追って入った家で、カレンは彼女がプレゼントを荷物のように置くのを見ていた。
「あのね、」
 カレンが子供の幸せそうな寝顔の横で、勝負の空しさについて話そうと口を開くが、
「忙しいんですの。邪魔しないで下さる?」
 スネグーラチカはさっさと次の家へ向かってしまった。
「取り付く島もないって感じだね」
 しかしカレンはめげず、次のチャンスを狙おうと、自前で用意した『サンタのトナカイ』でスネグーラチカの後を追う。パートナーで機晶姫のジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が同じく『サンタのトナカイ』でカレンの横につく。
「2人を和解させるためとは言え、スネグラーチカの側に付くとは、我がパートナーも物好きだな」
「まあね。でも、どちらの側についたって、結局、」
「プレゼントを待つ子供達は変わらない、であろう? 子供達の為にも、全力で配達を手伝うぞ」
「もちろん!」
 そう、一番の目的は子供達に喜んで貰う事。そして、できればスネグーラチカがそう思ってくれる事。
 カレンはスピードを上げて、スネグーラチカの後を追った。

「勝負はどうなっていますの?」
 地区の拠点となっている場所に戻ってきたスネグーラチカは、機晶ロボから降りると、黎に状況を尋ねた。
「スネグーラチカ殿がやや優勢だが、油断は禁物という処だな」
「そうですの。もっとスピードを上げて、大差をつけておかなくてはなりませんわね」
 スネグーラチカの言葉に、黎の傍らのじゃわが悲しそうな顔をした。サンタさんが2人もいるなら、笑顔も2倍になるのだと思っていたのに、実際は、
「どうして、こんなに胸がちくちくするです?」
 じゃわは、自分の胸のあたりをきゅっと掴んだ。
 顔をあげ、スネグーラチカを見ると、彼女に危機が迫っていた。
「スネグーラチカ殿、あぶないのですっ!」
 じゃわは、スネグーラチカに向けて振り下ろされようとしたハリセンめがけてぽよんと飛び上がって体当たりし、ハリセンを持っていた蒼空学園の七枷 陣(ななかせ・じん)ごと倒れ込んだ。
「いてて……」
「にゅ…女の子に暴力はいけないのです……」
 2人の様子をスネグーラチカは呆れて見ていた。
「何事ですの?」
 陣はじゃわを横にどかして起き上がると、スネグーラチカに詰め寄った。
「何事ですの?やないやろ! 今まで黙って手伝ってたけど、もう黙ってられへんわ! 折角のクリスマスに勝負だの何だのと……。一番大切なモンを忘れてるんと違うか?」
 パートナーとともにスネグーラチカに同行してプレゼント配りを手伝っていた陣は、彼女の妨害やスマイル0円的大量生産な配り方にイラついて見ていたが、勝敗だけを気にするスネグーラチカにとうとう我慢が出来なくなった。
「言わせてもらうけどな、お前サンタの資格無いわ。お前の仕事はなんや? サンタやろ? 子供達にプレゼントを配るのがサンタだろうが! なのに同じ目的のフレデリカちゃん側を妨害するわ、スピード優先でぞんざいに配るわ。渡される子の事、考えてないのとちがうか? 見てみぃ!」
 そう言って、陣は近くでプレゼントを配っているパートナーの機晶姫、小尾田 真奈(おびた・まな)の方を指し示す。
 真奈は、『メモリープロジェクター』を使って自身のメモリーに蓄積した少し前の周囲の映像を空中に投影して壁を作り、実際の建物と映像との間に身を隠して子供部屋へと忍び込んだ。
 部屋の中の子供はかわいらしい寝顔を見せている。真奈は、もっていた大きな白い袋からその子へのプレゼントを取り出し、枕元にそっと置いた。
「今年一年、良い子でがんばりましたね」
 優しい眼差しでそう言うと、プレゼントの横に「来年も良い子でいて下さい」と書いたメッセージを添えて部屋を出た。
 陣は、どうだとスネグーラチカを振り返る。
「見たか! あれが子供らが求めてるサンタや! スピードなんて関係ない。お前に足りない物はな、サンタとしての情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ勤勉さ! そして何よりも、子供達への気配りが足りん! 渡される側として考えてみろ、大事に想いを込めて贈られるのと、ぞんざいに枕元へ置かれるの、お前ならどっちがいい? 前者やろ? そんな事も分かってない人間が、サンタやってんじゃねぇ!ってか、サンタの素人がこんな事を本職に説教する時点でオワットルぞ!」
 責める陣を、スネグーラチカが睨みつける。
「贈られる側? 眠っている子供に何がわかるっていうんですの? 目覚めた時にきちんと期待したものがそこにないというだけで、子供はサンタの全てを否定するのですわ。イブの間にプレゼントを配り終えられなければ、それだけでサンタの資格はありませんのよ。情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ勤勉? そんなもの、フレデリカよりわたくしの方が何倍も上ですわ。素人に言われなくても、サンタに必要な資質はわたくしの方が充分にわかっていますわ。でも、それだけではダメですのよ。それだけでは、サンタになれませんでしたのよ!!」
「あーもーっ、それがわかってないって言うてるんや!!」
 スネグーラチカと陣がどなりあうのを、戻ってきた真奈は見ていたが、たまらず間に割って入る。
「あの、やはり子供達の為にも仲直りして2人で配ってはいかがでしょう? 1人ではわからない事でも、2人ならばわかる事があるのではないでしょうか。そんな事が、正式なサンタクロースになるきっかけになるかもしれません」
 真奈の懇願に近いアドバイスに、スネグーラチカは背を向けた。
「お断りしますわ。わたくしは1人でだって立派にサンタを勤め上げられますもの!」
 そこへ、フレデリカを説教した明が、ようやくスネグーラチカを捜し当てて、次は彼女の番だと近づいた。
「あんたがもう一人のサンタ少女ね!」
 明はいきなりスネグーラチカの頬めがけて手を振り下ろしたが、
「うわっ、…っと」
 気付いたスネグーラチカが後方へ下がり、空振りした明が崩したバランスを慌てて立て直す。
「いきなり、何をなさいますの!」
 スネグーラチカの声に、明が怒った顔で彼女をまっすぐに見つめ返した。
「何で叩こうとしたか解るかしら。これはね、サンタからのプレゼントを楽しみにしている子供達の悲しみよ! 子供達が楽しみにしているプレゼントを私利私欲の勝負の道具にし、あまつさえ相手の妨害までしてるそうじゃない! そんな風に配られたプレゼントなんか、もらっても誰も嬉しくないわよ! あなた、そんなんで胸を張ってサンタって言えるの!? 子供たちに今すぐ謝りなさいよ!」
 サンタクロースを待っている子供達のために怒る明に背を向け、スネグーラチカは機晶ロボへと向う。
「待ちなさいっ、まだ話は終わってないわ!」
 後を追おうとした明を、雪娘達が止める。
「……話なんて、聞き飽きましたわ。子供達のため、サンタに相応しくない、そればっかりですもの。どうせ、フレデリカに言われて来たのでしょう? そう言えば、わたくしが諦めるとでも思っているなんて、相変わらず甘ちゃんですこと」
「ちがっ、フレデリカちゃんは関係ないわよ!?」
 明の言葉に、スネグーラチカが冷たく微笑む。
「誰が邪魔しようと、誰が認めまいと、サンタクロースになっていいのはわたくしの方ですわ。構いませんわよわよね? 先に卑怯な手を使ってきたのはあの子の方ですもの。わたくしが、反撃したとしても、無理のない事ですわね?」
 言い終わると同時に、機晶ロボの横から突き出たアームが機晶レーザーを放ったまま左右へ動いた。
 周りの者達は慌てて離れ、隠れ、防御の体勢を取った。
「だめっ!!」
 黎のアシスタントとしてついて来ていた歩が、機晶ロボに命令するスネグーラチカに抱きついた。
「こんなの、絶対だめ。こんなの、違うでしょう? こんなこと、したいわけじゃないでしょう?」
 歩の言葉に、スネグーラチカが辛そうな顔をしたが、それも一瞬の事だった。スネグーラチカは歩を突き飛ばすと、機晶ロボの頭部へと登り、機晶ロボに前進を命じた。機晶ロボは攻撃を止め、荒野を進み始める。
「誰もついてこさせないで!!」
 スネグーラチカの悲鳴に似た命令で、雪娘達が同行者達の前に立ち塞がる。
 歩は雪娘達の前に進み出ると祈るように両手を胸の前で組んだ。
「お願い、あたしたちを行かせて。スネグーラチカさんを1人にしたくないの!」
 道中、歩は2人のサンタ少女を仲良くさせるサプライズを仕掛けないかとずっと雪娘達に話し掛けていた。雪娘達は、2人を仲良くさせたいと言い、サンタクロースが2人いたら素敵な事だと語る歩に次第に好感を抱くようになっていた。雪娘達は、しばらく考えた末に身を引き、道を開けた。きっとこれがスネグーラチカの為になると信じて。
「ありがとう!」
 歩は急いで自分の軍用バイクに乗り、スネグーラチカの後を追った。それを見た他の者たちも、それに続いた。