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ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

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第11章 ツァンダの攻防


 蒼空学園の久世 沙幸(くぜ・さゆき)は、今年もプレゼントを配る為にツァンダの街を飛び回っていた。ミニスカサンタ姿で『光る箒』に乗っているその姿が青少年へのプレゼントと言えなくもないが。
 沙幸は、フレデリカと再開を喜びあい、お手伝いする事が自分からのクリスマスプレゼントだと言った時のフレデリカの笑顔を思い出して微笑んだ。
「だって友達だもん、手伝わないわけにはいかないよね」
 沙幸は続けて、スネグーラチカと機晶ロボの事も思い出す。
「妨害かぁ。こんな素敵な日に、そんな事をしてくる方が痛い目を見るのがセオリーって奴だよね♪」
 聖なる夜には、そんな力がいつもよりちょっぴり強くなってくれる気がする。
「あっ、いい事思いついちゃった」
 沙幸は、計画を思い描きながら、目当ての家の煙突から中へと入って行った。

 蒼空学園のアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、今年も一年の感謝をこめて、ツァンダでパートナー達と共にサンタクロースに励んでいた。
 トナカイのスズちゃんがひくソリにパートナーの剣の花嫁の天穹 虹七(てんきゅう・こうな)とともに乗り、精霊のファリア・ウインドリィ(ふぁりあ・ういんどりぃ)はソリに並んで飛んでいる。
 アリアは隣の虹七を見て満足げにほほ笑んだ。ファリアと一緒に仕立てたサンタ服を着た虹七は何度見ても可愛くて仕方がない。
「今年も可愛いわ、虹七ちゃん!」
 アリアに続きファリアまでもが虹七のサンタ姿を褒めそやす。
「虹七ちゃん、とっても可愛いですわ〜♪ アリアさんと一緒に一生懸命仕立てた甲斐がありましたわね」
 2人の言葉に、虹七が頬を染めて笑顔を返す。
「えへへ……今年もありがとう、アリアお姉ちゃん、ファリアお姉ちゃん! お姉ちゃん達も、とってもステキだよ」
 虹七の言葉に、ファリアが嬉しそうにくるりと回転して見せた。天使をイメージした白いドレスが風をはらんでふわりと揺れる。
「ふふふ〜、形は違いますが、羽を活かした衣装にしましたのよ〜。6枚羽は、天使だったら重役ですわね〜♪」
 フェリアは輝く6枚羽をパタパタと動かした。楽しそうなその様子に、一緒に来て良かったとアリアと虹七は笑顔を交わした。

 配達先の家に到着すると、アリアはソリをフェリアに任せ、煙突へと向かう。アリアが煙突から家に入ってプレゼントを置きに行く係、フェリアが袋からプレゼントを探し出す係、そして虹七がフェリアからプレゼントを受け取ってアリアに渡す係と役割を分担して配る事にしていた。
 フェリアがソリの後ろに積まれた大きな白い袋から、配達リストと照合してプレゼントを取り出す。
「このお家は、これですわ〜♪ あら、少し重いですわね〜、虹七ちゃん、持てるかしら〜?」
「ちゃんと持てるもん! 虹七も強くなったんだよ!」
 虹七は、えっへんと胸を張り、フェリアからプレゼントを受け取る。一瞬、ぐらついたが、虹七はプレゼントをしっかりと持ち、煙突に入ってそれを待つアリアの元へと慎重に運ぶ。
「んしょっ、ツァンダの街に夢を届けるのー!」
 その様子に、アリアは去年まで重いプレゼントに苦戦していた虹七を思い出す。アリアは頼もしくなった虹七の成長を喜んだ。
 その時、雪娘がプレゼントに当たるようにして虹七の近くを飛んで行った。虹七の手からプレゼントが落ちる。虹七はプレゼントを守ろうと、慌ててそれを抱き取る。しかし、重いプレゼントは虹七のバランスを簡単に崩し、虹七は屋根から滑り落ちた。
「虹七ちゃんっ!!」
 アリアが叫び、フェリアがすぐに助けに行く。虹七まで落ちると思っていなかった雪娘も急いで戻って来たが間に合わない、と思った瞬間、『空飛ぶ箒』に乗った蒼空学園の芦原 郁乃(あはら・いくの)が地上すれすれで虹七の体を抱き止めた。
「大丈夫?」
 郁乃が声を掛けると、虹七はプレゼントを抱えたまま何度も頷いた。郁乃は一度地上に降りて虹七を『空飛ぶ箒』に乗せ直すと、屋根の上のパートナー達のところへ連れて行く。
「虹七ちゃん、良かった」
 泣きそうなアリアとフェリアが何度も郁乃に礼を言う。
「あれがメッセージに書いてあった妨害なのかしら。ひどいわね!」
 郁乃ににらまれ、雪娘は申し訳なさそうに飛び去った。
 虹七が、おずおずと郁乃に礼を言う。
「あの、お姉ちゃん、助けてくれてありがとうなの」
「どういたしまして。あら、可愛いサンタ服ね。手作り?」
 郁乃に服を褒められ、虹七に笑顔が戻る。
「うん! お姉ちゃん達につくってもらったの!」
 虹七が自慢げに言うのが可愛くて、郁乃は思わずその小さな頭を撫でていた。
「優しいお姉ちゃん達だね。それじゃ、可愛いサンタさん、頑張ってね!」
 郁乃はそう言うと、『空飛ぶ箒』に跨った。アリアが郁乃に声を掛ける。
「本当にありがとう! そっちも気をつけてね!」
「お互い頑張りましょう!」
 郁乃も言葉を返し、『空飛ぶ箒』で飛び去った。
 手を振って郁乃を見送ったアリアは、虹七の守ったプレゼントを今度こそ受け取り、子供へと届ける。
 ソリに戻ったアリア達は、周囲を警戒しながら、次の家へ向かおうとトナカイのスズちゃんに手綱で合図する。
「もうひと頑張り、行くよー!」
 妨害になんて負けない。街の子ども達に夢を届けるのだと、アリア達は再びプレゼントを配り始めた。

 妨害を目の当たりにした郁乃は、周囲に気を配りすぎて、部屋の中の子供がまだ起きている事に気付かなかった。
「サンタさん?」
 幼い声で問いかける女の子の問いに頷き、口に指をあてて静かにするようにとお願いする。
(サンタ服、借りてて良かったわ……)
 さもなければ、ロープで煙突を降りて来たただの不審人物だ。気配を探るが、親が起きている気配はない。
 郁乃は女の子に小声で話し掛けた。
「サンタさんを待ってたの?」
 女の子が頷く。自分にもサンタクロースを起きて待っていた思い出があるので、気持ちは分かる。
「サンタさんだよね? ほんものだよね? すごい、サンタさんにあえたよ!」
 はしゃぐ女の子は可愛かったが、郁乃は慌てて女の子に静かにするよう頼む。親が起きては大変だ。
「サンタはいい子にしかプレゼントできないの。サンタに会ったって言わないって約束してくれるならプレゼントあげられるんだけどなぁ?」
 郁乃が大げさに困ったフリをすると、女の子は両手で口を押さえて、頷いた。ブンブンと音がしそうな勢いに、郁乃は笑いをこらえてプレゼントを渡すと、女の子の頭をぐりぐりと撫でた。
「ごめんね。いろいろお話してあげたいけど、まだプレゼントを配らなきゃならないの」
「うん、わかってるよ。サンタさん、プレゼントありがとう。来年もいい子にしてたら来てくれるよね?」
 無邪気な瞳でまっすぐに見つめてくる女の子が可愛くて、郁乃は彼女を抱きしめた。
「もちろんだよ。来年も、きっと来るよ」
 女の子に別れを告げ、郁乃は『軽身功』でロープを上り、家を後にする。
「私もいつか、ああいういい子がほしいなぁ」
 知らない中じゃないフレデリカのため、一肌脱がねば!という思いで手伝いを買って出たが、こういう出会いがあると、子供達の為に頑張らなきゃと思ってしまう。
(フレデリカもこういう喜んでくれる子どもの笑顔があるから頑張れるんだろうなぁ)
 ちょっぴり、スネグーラチカがどうしてもサンタクロースになりたいと思う気持ちがわかるような気がしなくもない。
「妨害はダメだと思うけどね。さぁ、もう少しだ! 行くぞぉ!」
 郁乃は自分を鼓舞して、次の子供の元へと向かった。

 蒼空学園の樹月 刀真(きづき・とうま)もパートナー達と一緒にキマクでプレゼントを配っていた。
 剣の花嫁の漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、家にあったサンタの服をフレデリカ風に改造し、英霊の玉藻 前(たまもの・まえ)、守護天使の封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)とともに可愛らしいミニスカサンタになっている。
 刀真は、見つからなければ何を着ていても同じと言ってサンタ服に着替えず、それよりもまとう者の気配を殺す『ブラックコート』の方が役に立つだろうと、漆黒のコート姿でプレゼントを積んだ『サンタのトナカイ』を御していた。
 それに月夜が不服を漏らす。
「刀真、やっぱりその格好で配達するの?」
 白花も月夜に味方する。
「その格好のまま他人の家でコソコソしていると、不審者と間違われると思います」
 刀真は大丈夫だと2人を宥めた。
「万が一、見つかった時の事は考えているから心配ない」
 そういって、なぜか『クリスマスケーキ』を手に煙突へ入っていった刀真を見て、月夜と白花は顔を見合わせた。
 白花が月夜に聞く。
「万が一って何をするつもりでしょう?」
 月夜は内緒話をするように、白花に顔を寄せた。
「刀真の事だから、きっと威力の低い『轟雷閃』あたりで気絶させるつもりだと思う」
 月夜の言葉に、白花が得心した顔で頷く。
「それで『クリスマスケーキ』を持って行ったんですか。いざという時のお詫びに使うんですね」
 月夜がさらに予測する。
「事故だとかって言い訳しそう」
 玉藻は、刀真の行動分析で盛り上がる月夜と白花を見て、にやにやと笑いながら家の中の刀真に心の中で呟いた。
(完全に読まれておるぞ)
 外がそんな事で盛り上がってるとは知らない刀真は、家の中に侵入すると、音を立てないよう気をつけて子供部屋へ向かう。辿り着くと、ぐっすりと眠る子供の枕元にプレゼントを置き、さっさと家から出た。クリスマスケーキの出番がなくてほっとするが、ソリに戻ったとたん、月夜と白花に「危なくて任せられない!」と詰め寄られ、配達係を交代する事になった。
 屋根の上に降り立った月夜が荷物番の刀真と玉藻を振り返る。
「それじゃ、行ってくる」
 そんな月夜と白花を困ったように刀真が見つめる。
「その服、サンタにしては、きわどくないか?」
 刀真の言葉に、白花が驚いた。
「これってサンタクロースの制服ではないんですか!? どうりで袖がないし、襟元開きすぎですし、裾が短いと思いました。これじゃあ少し裾が捲れただけで下着が見えちゃいますよ……」
 白花の不満を、月夜が無邪気に解消する。
「でも、フレデリカはこんな感じだったし、白花も玉ちゃんも似合ってる、可愛い!」
 可愛いと言われて、白花が照れている間に、月夜はその手を引いて、煙突へと向かった。
「ああ、でも月夜さ〜ん、これやっぱり恥ずかしいです〜……」
 そんな白花の訴えは、2人の姿とともに煙突の中へと消えていった。

 なんとか子供部屋にたどり着いた月夜と白花は、ぐっすりと眠る子供の寝顔を見ていた。
「寝ている子供達にプレゼントを配るお仕事なんて、素敵です」
 白花が言うそばで、月夜がプレゼントを子供の枕元に置いた。
 刀真の元へ帰ろうと2人が帰ろうドアに進みかけた時、
「ひゃっ」
 何かに躓いた白花がテーブルの上の本を落としてしまい、その音を聞いた男の子が目を覚ましてしまった。
「ど、どうしましょう、起こしてしまいました…」
 動揺する白花に、月夜がこそりと耳打ちする。
 ―――色気で誤魔化そう!
 月夜の提案に白花はさらに混乱するが、とりあえず月夜を真似て男の子のベッドに腰を下ろした。ちょうど、月夜と2人で男の子を挟む形になる。
 月夜は精一杯のお色気ボイスで男の子に話し掛ける。
「私達はサンタクロース。あなたが良い子にしていたからプレゼントを持ってきた。……大人には内緒だよ?」
 男の子はごくりと喉を鳴らして、何度も頷いた。
 白花も何か言わなくてはと思うが、気の利いた言葉が出てこない。
「……ええと、起こしてごめんなさい。私たちはもう行きますから、お休みなさい」
 最後のお休みなさいの声が男の子の背筋を震わせる。2人はトドメとばかり男の子の耳元で囁いた。
 「「メリークリスマス♪」」
 そう言うと、月夜と白花は男の子の両頬に左右からキスをする。
 両頬を抑え、男の子がぼーっとしている間に2人は家から脱出した。悩める少年が増えそうなクリスマスイブだった。

 その頃、外では刀真と玉藻が妨害に来た雪娘と対峙していた。ソリを壊そうと攻撃してくる雪娘の放った氷術を、刀真は『煉獄斬』で炎をまとわせた大剣『トライアンフ』の刀身で防ぐ。届かないまでも刀真はトライアンフを雪娘に向かって振り下ろした。熱を帯びた風圧に怯えて雪娘が下がる。その頬を、玉藻の『魔道銃』から放たれた魔力の弾丸が掠める。
「残念。外したか」
 そう言って再び照準を合わせてくる玉藻とトライアンフを構える刀真に睨まれ、雪娘は妨害を諦め去って行った。
「月夜達がいなくてよか……っ!!!!?」
 刀真は傍らに立つ玉藻を見上げ、慌てて顔をそらした。
「た、玉藻、し………………下着はどうした!!!
「下着? そのようなものは、元からつけておらん」
「いや、お前が普段着ているような着物ならつけないと聞いたことはあるが、その服でつけてないのは、色々と…マズイだろう。とにかく、あれだ、隠せ!」
 刀真は何かないかとあたりを見回すが、宙に浮いたソリの上に余計な着替えがあるはずもなく、仕方なしに自分の着ていたブラックコートを脱ごうとした。その懐に、するりと玉藻が入り込んで来る。
「気になるなら、お前が隠せ」
 玉藻はソリに座ってトナカイを運転している刀真の脚の間に体を割り込ませ、背中を刀真の胸に預けると、彼の着ているコートの前を合わせて自分ごと包んだ。
「これで良い。我は暖かいし、お前は我を隠す事ができる。一石二鳥だな?」
 玉藻はそう言って刀真に頬ずりした。
「玉藻、動きにくい。甘えてもダメだぞ。ほら、コートを貸すから離れろ」
「断る」
 玉藻は刀真の懐から動く気はないようだ。刀真は仕方がないと溜息をつき、玉藻を後ろからそっと抱き締めた。
「落ちるなよ」
 刀真の言葉に、玉藻は小さく笑った。刀真はいつもこうなのだ。玉藻から脅して契約を強いた関係であっても、何だかんだと言いながら、本気で切り捨てようとか追い出そうとした事はない。今もこうして一緒にいてくれる。玉藻の胸に愛おしさがこみあげた。
「これは礼だ。黙って受け取れ…我の刀真」
 玉藻の唇が刀真に触れる。
「っ!!!!? た…玉藻っ、お前、何すんだよ!?」
 突然の事に動揺するも、玉藻が落ちる事を心配して、トナカイの手綱を握る刀真は身動きが取れなかった。
 刀真のそんな様子に玉藻は更に愛おしさを募らせる。
 そこへ、配達から月夜と白花が戻って来た。
「あ、玉ちゃんが刀真に甘えて抱きしめられてる」
 月夜の面白くなさそうな声に、半信半疑だった白花が目の前の光景にショックを受けた。
「しかも、玉藻さんが……キス!?」
 2人には刀真が大人しくキスされているように見え、なんとなくむっとした。
 涙目の月夜と白花は、刀真と玉藻に近づくと、その頬をぎゅうっとつねった。
「む〜」
「月夜、イタイイタイ…痛いよ」
 玉藻が苦笑して月夜を宥める。
「白花…スゲー痛い」
 ぎゅうぎゅうとつねってくる白花に理不尽なものを感じながら刀真が一応抗議してみるが、
「知りません!」
 涙目の白花と月夜はしばらく刀真と玉藻の頬から手を放そうとしなかった。

 蒼空学園の葉月 ショウ(はづき・しょう)もフレデリカから借りたサンタ服姿で、パートナーで剣の花嫁の葉月 アクア(はづき・あくあ)、黒猫の獣人の葉月 フェル(はづき・ふぇる)とプレゼントを配っていた。去年も手伝ったので、今年はよりスムーズに配れているようだ。
 ショウは、翼のない兵士用に作られた人工翼の『宮殿用飛行翼』を装着し、アクアとフェルの乗るソリ風にデコレーションされた小型飛空艇と並んで飛んでいる。
 アクアは『銃型HC』に入力しておいたプレゼントを配る家庭の地図を確認する。
「ここのようね。子供部屋は2階。階段を上って右奥の部屋よ」
 アクアの説明にショウが頷き、フェルに視線をやった。
「フェル、頼むぞ」
 ショウの言葉にフェルが笑顔で返事をする。
「うん! フェル、プレゼント配りを頑張って、お腹いっぱいプレゼントを貰うにゃー!!」
 元気良く欲張るフェルに、ショウは突っ込むべきか悩んだが、
(……まあいいや。やる気になってるんだし)
 仕事を優先させた。フェルのやる気が空回りしない事を願うばかりである。
 フェルは、どうしても連れて来ると言い張った愛猫の「セレス」と「ディア」をアクアに預ける。2匹のネコは、アクアにトナカイ色のベストと、トナカイの被り物に着替えさせられていた。
 フェルは小型飛空艇から2階の窓をピッキングで開け、ショウからプレゼントを受け取って家の中に入って行く。
 続いてショウも中に入り、『超感覚』で周囲を警戒する。見つかりそうになった時の事を考え、『小人の小鞄』を用意する。今年もサンタ服を着せられた『小人の小鞄』の親指大の小人は、起きている子供たちの注意をひいたりと色々と役に立ってくれるだろう。
 前を忍び歩くフェルの耳がぴくりと動き、フェルは伝説の傭兵ばりに用意してきた段ボールの中に身を潜めた。
「………気のせいだったにゃ。問題ない、作戦を続行するにゃ」
 フェルは段ボールをしまい、子供部屋へと向かう。そんなフェルを見てショウは拳を握りしめて堪えた。
(………ツッコミてぇ)
 段ボールがどこから出て来てどこに仕舞われたのかとか、傭兵についてとか。だがそれをやっては家人に気づかれる危険が増す。
 結局、ショウの忍耐力のおかげで子供も起きず、家の者にも気づかれずに済んだが、ショウは精神的にひどい疲労を感じていた。
 その隙を狙われ、家を出たショウは、『超感覚』で気配を感じとったが危険を避けきれなかった。ショウの背後に現れた雪娘はそのままショウの背中へと伸しかかる。別の雪娘は空中でもがくショウの正面からその首へと両腕をまわし、地上へ引きずり降ろそうとした。
 そのショウと雪娘にアクアが『バニッシュ』を放つ。2人の雪娘とショウが慌ててそれを避けた。
「アク、俺まで巻き添えにするな!」
 ショウの非難に、アクアが謝る。
「ごめんなさい、つい」
「つい、じゃないだろ!」
 文句を言うショウに、フェルが無邪気に笑った。
「でも、ショウ、女の子に抱きつかれて嬉しそうだったにゃ」
 確かに、抱きつかれていたと言えなくもない。
「何言ってんだ、相手は敵だぞ!」
 見れば雪娘達は少し離れた空中に浮きながら、ショウ達に妨害を仕掛けようと隙を狙っている。アクアは無言で『その身を蝕む妄執』の術を発動させる準備に入った。心なしか狙う方向が違う気がする。
「アク、待て、誰を狙う気だ!?」
 そこへスネグーラチカが機晶ロボに乗って現れた。ショウ達を見つけたスネグーラチカが雪娘に視線を移す。「わたくしがこのあたりを配り終えるまで、足止めしておきなさい」
 そこへどこからともなく声が聞こえた。
「ちょっと待った!!」
 見れば、銀のマスクに赤いマフラーを棚引かせる正義のサンタクロースこと蒼空学園の風森 巽(かぜもり・たつみ)が、配り終えた家の煙突の上に立っていた。そんな巽に、サンタのトナカイに乗ったパートナーの剣の花嫁、ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が小声で教える。
「タツミ、後ろ、汚れてる!」
 巽は慌ててお尻についた煤を払い、改めて、雪娘達に向き直った。
「聖なる夜にやってきて、子供達(カップル除く)に夢とプレゼントを届ける者! 仮面ツァンダーサンタ3、見参!!」
 巽の名乗りにショウが首を傾げる。
「サンタ…3=さん?」
「サンじゃない! スリャァァァッッ!だ」
 巽はそう叫びながら『軽身功』を使い、地上へと降り立った。
「サンタからのプレゼントを心待ちにしている子供達をよそに勝負ごと、あまつさえ妨害するなんて許せない。それで公認サンタになりたいなどと笑わせるな! クリスマスはサンタのものじゃない、ましてやカップルのものでもない! プレゼントを待つ子供達の物だ!……言っておくけど断じて非リア充の僻みじゃないからな。それはともかく! 子供達の笑顔を曇らせ、サンタクロースが何の為にプレゼントを配るかも忘れたようなサンタは、この仮面ツァンダーサンタ3が相手だ!」
 巽の言葉に、スネグーラチカが暗い表情のまま微笑んだ。
「まったく、あなたたちときたら……。許せないのはこちらの方ですわ。わたくしの邪魔をしないで!!」
 機晶ロボのアームから機晶レーザーが放たれ、巽達が飛び退く。
「こっちも足止めしておきなさい!!」
 スネグーラチカは雪娘にそう命じて機晶ロボで先を急ぐ。スネグーラチカを追おうとする巽の前に、雪娘達が立ちはだかった。
 巽は他の者達を守るようにして身構えた。
「子供達が待ってるんでね。邪魔するって言うんなら……手加減無用で押し通るぞ!」
 それを合図に、雪娘が『ブリザード』を発動させ、氷の嵐が巽達に襲いかかる。
 ティアは気乗りしない様子で呟いた。
「あまり、住宅街とかで使いたくないんだけどなぁ……範囲調節…ファイアストーム!」
 ティアは氷の嵐に炎の嵐をぶつけて相殺する。
「ここは俺達に任せて、配達の方を頼む!」
 巽がパートナー達を守るショウに叫ぶ。
「でも!」
 ためらうショウに、巽が更に言う。
「子供達のために、行ってくれ!」
「………わかった。すまん!」
 ショウは、思い切りのつかないパートナー達を急き立て、配達を再開する。雪娘がそれを追おうとしたところを、近くの塀に上った巽が彼女めがけてジャンプする。覆いかぶさるようにして雪娘ごと地上に転がった巽に、別の雪娘の『氷術』が巽を襲う。巽はそれを避けると、避けた先に待っていたティアの乗るソリを足がかりに『軽身功』でジャンプして、空中の雪娘に迫った。
「お熱いのはお好きかな? チェンジ! 爆炎ハンド!」
 巽は装備していた『籠手型HC』で空中の雪娘めがけ『爆炎波』を放った。巽の攻撃が雪娘を掠める。炎に焼かれダメージを受けた雪娘を、他の雪娘が背に庇う。巽と雪娘達との間にじりじりと緊張感が高まった。
 そこに、『光る箒』に乗った沙幸が駆けつけた。
「ちょっと、こんな街中でなにやってるの! 皆、起きちゃうじゃない!!」
 沙幸の言葉に周りを見れば、暗かった家に灯りがともり、窓に人影が揺れる。
 それを見て、雪娘達は飛び去った。彼女達の去った方を見るとスネグーラチカが新たな地区で配り始めていた。
 巽が眉間にしわを寄せた。
「スネグーラチカに先を越されたな。調子に乗って子供達を泣かせてないといいが」
 巽の言葉に、沙幸が尋ねる。
「スネグーラチカ、いたの? どっちに行ったかわかる?」
「えっとね、あっちだよ」
 ティアが指差した方向をみて、沙幸がにっこりとほほ笑んだ。
「なら大丈夫。あの辺に、ちょっとしたトラップ仕掛けておいたから」
 巽とティアがスネグーラチカのいる方に目をこらすと、スネグーラチカの周りの家の子供達が窓を開け、機晶ロボにはしゃいでいた。中には部屋から外へ出ようとして起きた親に止められている子、上手く抜け出して機晶ロボに上ろうとする子、騒ぎに目を覚ましてそれに加わろうとする子が次から次に現れ、スネグーラチカ達を足止めしていた。雪娘達はスネグーラチカの命令で子供を機晶ロボから離すのに苦労している。
 沙幸が、あえてスキルを使わずに配達し、起きていたり目が覚めてしまった子供達に、
「いい子にしてたら、機晶サンタロボも遊びに来てくれるかもしれないよ?」
 と吹き込んでいた結果だ。
「こういう妨害なら罰が当たらないよね?」
 悪戯っぽく沙幸が言うのに、巽が悩む。
「まあ、子供達が喜んでいるし。……いいか」
 沙幸が巽達に言う。
「あっちの妨害の動きがとれないうちに、早く配ろう! 子供達がプレゼントを待ってるよ!」
「そうだな」
 沙幸と巽達は、プレゼントを待つ子供達のもとへ急いだ。