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機晶姫トーマス

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機晶姫トーマス

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=第4章=   それぞれの活躍





 3車両目で、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)も懸命に乗客を誘導していた。
 2車両目うしろでも、3車両目のうしろの連結部でも、なにやら大仕事をしているようなので、
 その作業を休め休めにさせながらの誘導は、骨が折れる。


「次の方。はい、両手を取って・・・・・・足元に気をつけて」


 ゆかりは、大人には凛々しく、子供には優しくと、声音を使い分けて次々と3両目に乗客を移して行く。

 連結部の周囲は「ほろ」に包まれているわけでもなく、むき出しのままであるため、
 連結部をまたぐ際には細心の注意が必要だった。


「急ぎすぎたか・・・・・・連結部を切り離すことばかり考えて、人が通ることは想定していなかった」 


 3車両目後ろの連結部――橘 カオルがしょげた顔をしてそう呟いているところで、マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が、
 ズイッと、武器のエンシャントワンドを差し出す。


「これから、連結部の上は人が通ります。すみませんがいまは、【氷術】で固めさせてもらいますよ」
「客車が無人になれば、後は何も気にせず作業に集中できる・・・・・・か・・・・・・!」


 マリエッタがエンシャントワンドから【氷術】を放つ。
 カオルも、マリエッタと同じ魔法で援助する。


(連結部を切り離すといっても、タイミングは合わせなくていいのか)


 運を天に任せるタイミングだけは、ぴったりと合っているが、
 やはり、非常用のブレーキを探すほうがよかったのでは・・・・・・と、酒杜 陽一はひとり密かに思ったのだった。





 *




 先頭車両から3・4車両目をつなぐ連結部にやって来ていた橘 恭司は、仲間を増やし2名で連結部を壊しにかかっていた。
 恭司は、どうやら4車両目のみでは乗客全員を乗せきれないと、HCでその情報を仲間へ回しながらの作業だ。

 この状況は、籠手型HCで神拳 ゼミナーとセルマ・アリスにも伝えられている。
 3車両目は間に挟まれた車両であるから、情報は流れ作業的に回っているだろう。
 現在、全車両で、この緊急事態は認知されているはずだ。


「スキル【機晶技術】!」


 途中で増えた仲間、コンクリート モモ(こんくりーと・もも)が、工事用ドリルをフル回転し、連結部にダメージを加えている。
 容姿からは考えられぬモモの雄姿は、拍手喝さいものだ。


「モモ、この列車やばそうネ・・・・・・」


 そんな荒々しい作業をするモモの、手にさがったバスケットから、ハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)が顔を出し、
 バスケットに一緒に入っていた銃型HCからの通信を聞いて、恐々と主人に言う。


「そんなこと、わかってるわ、よ!」


 再び、勢い付けてドリルを連結部に差し込む。
 その姿を横目に、恭司はたくましい男でも見るような目つきで、感心している。
 この轟音では、乗客たちが騒ぎに気付くのも先の話ではないだろう。


(それにしても、4車両目の後部にいた男は一体・・・・・・)


 恭司が様子見に第4車両の連結部へ向かった時、すでにそこで連結部を切り離す手伝いをする男に会っていた。




 *




 ・・・・・・事件勃発当初、影野 陽太と合流したばかりの橘 恭司に爆薬の貨車のことを伝えた張本人――閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、
 籠手型HCを片手に、ックシュ・・・・・・と、くしゃみをしていた。


「目の前で氷、氷のオンパレード、それにこの豪風・・・・・・体も冷えるってもんだ」


 爆薬を積んだ危険な貨物車の連結部にて、静麻は上杉 菊、カルキノス・シュトロエンデ、そしてルカルカ・ルーと共に、
 連結部の切り離しおよび破壊を手伝っていた。
 スキル【破壊工作】で、極小の爆弾を作り、他のメンバーが【火術】で氷を溶かした後の連結部に設置・・・・・・爆発、という手順を繰り返している。

 本当ならば、積み荷の爆薬を使って、車両に爆風をくらわせる算段だったのだが、それをしようとし始めたとたん、
 先に貨物車内にいたダリル・ガイザックにぴしゃりと止められてしまったのだ。


「切り離しってより、破壊作業に近い気がするんだがな・・・・・・って、ダリル、貴様!念のために爆薬は持ち上げて一つ一つ凍らせるんだ!
 もしもの場合、まとめて固まってたら、そこからネズミ式に全部爆発するだろうが!」


 爆薬の知識を他より豊富に持っている静麻は、特にダリルを注視して、爆薬凍結の指揮も執っている形だ。
 静麻の計画頓挫により、自然、連結部を破壊する役割に回っているパートナーたちは、口々に言葉を発する。


「静麻、楽をしているように見えて、実は一番忙しそうですね・・・・・・」


 【氷術】をかける役割に回っているレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)は、静麻を見て感想を告げている。


「静麻お兄ちゃん、がんばって〜!」


 【氷術】【火術】をタイミング良く使い分けながら閃崎 魅音(せんざき・みおん)は応援を投げかける。


「器用貧乏もいいところ、だわっ・・・・・・」


 【火術】を放ちつつ、貨物車へスキル【奈落の鉄鎖】を発動し、少しでも歯止めになればと、神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)
 奮闘している。
 ゆるい会話を続けているが、静麻のパートナーたちは、至って真面目に与えられた仕事を全うしているだけなのだった。

 いかんせん、女性が多い事で、一種のハーレムにも見えかねない、閃崎 静麻の周囲の様子だった。




 *




 頭上を、グオォォォオオ!!!とものすごい音をたてて、ドでかい機体のようなものが通って行った。
 こんな大変な時に、大変な突風の吹く連結部にいた少女の、不思議なツヤを放つ黒髪がバサッと風に流され踊る。
 少女は籠手型HCを手に握り、物見遊山のようにそれを眺めていた。


「今日は大層な浮遊日和なのだな〜」


 少女――リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は、小さい手荷物を片手に、
 パートナーユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)と並んで上空を見上げて楽しんでいる。

 彼女たちは、いま2.3車両目をつなぐ連結部にいる。
 車両の中がうるさかったからという気まぐれな事情もあったが、一番の理由は、この車両を引いている機晶姫モートンが暴走したと
 籠手型HCでの通信で耳にしたからだ。
 そこには、連結部を、すでに壊すように攻撃している橘 カオルと酒杜 陽一がいた。


「大事件の様相を呈しているのだな」
「なにをしているのですか?」


 一生懸命に作業しているカオルと陽一に、続けざまにリリとユリが問いかける。


「事情が分かってるなら、連結部を壊すの手伝ってくれよ」


 必死に作業している側としては、手が空いているなら助けてもらいたいというのが本音だ。
 カオルは眉根を寄せてリリの見る。


「とはいえ・・・・・・いまは他のメンバーも、こんな状況で頑張ってるかもしれないから、偉そうなこと言えないが」


 陽一も同意しながら、凍ってバリバリになっている連結部の上を、乗客たちが避難していくのを見ている。
 リリとユリはその言葉を聞いて、ふと浮かんだことを口にした。


「壊すよりも、魔法を併用して連結部を脆弱にした方がいいのではないか?青年、見れば、【氷術】【火術】を使えるのだろう?」
「凍っている状態から、今度は熱すれば、機械はもろくなって壊れやすくなると思います」


 リリは、「まさかこんなところで歳暮の残りが役に立つとは・・・・・・」とゴニョゴニョ呟きながら、荷物からサラダ油の缶を取り出す。
 言葉通り、『火に油を注ぐ』つもりらしい。

 カオルと陽一はハッと顔を見合わせる。
 今まで野生的に考え過ぎていたのだ、と悟ったような顔だ。




「――みなさんが、連結部を壊しているという人たちですか!」




 呆然とする面々に、ずいぶん近くから声が投げられた。
 それもそのはず、長原 淳二(ながはら・じゅんじ)は小型飛空艇を操縦しながら、連結部を見下ろす位置で飛んでいたのだ。


「俺の他にも、仲間が集まってきてます!ここからが本番ですよ!」
「ほんとか!よーし・・・・・・!!」


 乗客を救助に向かうため、淳二の姿はすぐに遠のいて行ったが、それを見つめながらカオルは改めて気合を入れなおした。
 彼が言った通り、ここから状況は急転直下、変わるだろう。

 絶対に、トーマスもモートンも、乗客も全員無事に助けられる。