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機晶姫トーマス

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機晶姫トーマス

リアクション



=第8章=   原因発覚!狙うは、モートン!?



 空に広がる青。
 その下で大爆走する列車――もとい、少女型の機晶姫がひとり。 
 爆走する機晶姫を止めようとする、もうひとりの少女型機晶姫がひとり。

 そして、機晶姫たちを援護し、励ます仲間、多数。



 機晶姫モートンの速度は、確実に落ちてきていた。
 うしろに引く列車も今や空の上で、乗客を心配することのなくなった現状、あとはモートンを止めるだけなのだ。

 しかし、完全停止まではまだ安心はできない。

 これまで、完璧に情報伝達のパイプ役に徹していた影野陽太は、ここでやっとトーマス減速のために立ち上がった。
 懐に隠すように持っていたロケットを開き、その中の写真を見て、気合を補充する。


 「スキル【レビテート】を発動!!」


 もちろんこの速度では、サイコキネシスと変わらぬ微弱な効果しかもたらさないが、それでもプラスになることは確かだ。

 陽太はそこで、不意に周囲を視線を走らせたところ、片隅に映る人影があることに気がついた。


(なんだろう、あれ・・・・・・?)


 奇抜な格好のふたりだ。
 どんどん近付いてきて、ふたりの格好が視認できるほどにまでなる。

 それは、パートナーのフォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)にまたがって、こちら――モートン目がけて走って来る、
 御弾 知恵子(みたま・ちえこ)だった。

 野次馬根性で知恵子はモートンの暴走にかけつけたのだ。
 自分の速度ではどうにもならないと、パートナーの機晶姫に乗って・・・・・・。


「フォルテュナ、あの煙突だね!」
「そうだ!少女型じゃない部分をなくせば、暴走は止まるはずだぜ!!」
「よし、いくよ!」


 知恵子は【アルティマトゥーレ】を、猛然とモートンの頭の上に放った。
 もちろん、モートンの周りで彼女を止めている仲間たちは、寸前でその暴挙(!)をかわす。
 土壇場のミラクルプレーだ。

 モートンの頭の上で、髪飾りのような形に突き出ていた煙突は見事に氷に包まれる。


「お、おい!何をする気だ!?」


 仲間を代表して、武神 牙竜が慌てて声を上げる。
 だが、知恵子は作業真っ最中なのでそれには答えずに、思い描いていた作戦を実行しようとする。

 だが、いかんせん、いくらか速度が足りない。
 思ったようにモートンに近づけず、知恵子は舌打ちする。


 その時。


「ギャザリングヘクス!!でもって――スキル【奈落の鉄鎖】!!」
「刀真から、モートンの暴走は煙突の異常が原因だと言う連絡が入った!!援護する!!」


 小型飛空艇に乗ったエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が、
 颯爽と現れて、能力を放った。

 効力の増幅された【奈落の鉄鎖】と【サイコキネシス】がモートンに更に圧力をかけ減速させる。

 すると、後ろから更に飛行して近づいてくる影があった。
 レッサーワイバーンに乗り車両の状況を見に行っていた、朝霧 垂が戻って来たのだ。


「遅れてすまない・・・・・・現状を報告する!爆薬は安全化完了そ、切り離し完了!それぞれの車両はすでに切り離され、
 乗客の安全も確保!!」


 気がかりはすべて払拭されのだ。 
 その報告を聞き、これまで無口だったトーマスが、少し、ほんの少しだけ言葉を漏らした。


「――――あ、あとは、モートンちゃん・・・・・・モートンちゃんが、止まるだけだよ・・・・・・!」


 助けに来た者たちももちろん必死だが、一番長時間稼働しているのはトーマス自身に他ならず、疲労だとて誰より高いに違いない。


 ここで、知恵子とフォルテュナを援護する手が差し伸べられた。
 “そのふたり”により、途端に、走行の要であるフォルテュナの速度が上がる。

 自分を支える手が誰のものか、フォルテュナは振り返る。


「うちの、のえるも同じ機晶姫だから、お手伝いするんだよ!」
「ボクじゃ力不足だけど、少しくらいは足しになると思う、からっ・・・・・・!」


 知恵子と同じようにパートナーに乗っかったネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は、ここでトーマスにスキル【ヒール】を振りかけた。
 ネージュのパートナーの御神楽ヶ浜 のえる(みかぐらがはま・のえる)は、加速ブースターをフル回転して、
 なおかつそのスピードをフォルテュナに転換すべく、彼女の機械ばった体に手を添える。

 フォルテュナの速度は、2倍近くになった。


 諦めずにモートンを励ますトーマスと、協力してくれる仲間の姿を見て、知恵子の心に火がついた。


(これを止めなきゃ、女がすたるってもんだよ!!!!)


 確実に見定めて、知恵子は機関銃を放つ。
 フォルテュナな細心の集中力を持って、ピンポイントに工事用ドリルをモートンの煙突に突き刺した。



 ガッ、ガガガガガッ!!!!

 ガコンッ!!!!



 何かが、ッコーーン・・・・・・という情けない音と共に吹っ飛んで行った。
 それは、モートンの煙突だった。

 すると数秒もせず、大変化が訪れる。



 ッシュ、シュポォォーーーーーー!!!!!!!



 その場にいた誰もが目を丸くしただろう。
 機関車特有の煙が、工場の煙かと言うほどに大量に吐き出されたのだ。
 ほんの数秒、モートンの周りは視界不能になるほどの煙で満たされ、全員がゴホゴホとせき込んだ。


「視界ガ不明瞭デス。危険、危険!」
「攻撃はやめろ!敵ではないぞ!!」
「む、こちらに武器を向けるでない!味方なのだよ!!」


 アーマード・レッドが煙を危険と判断し攻撃しそうになるのを、重攻機 リュウライザーが寸前で止め、
 レイオール・フォン・ゾートは自分にレッドの武器――六連ミサイルポッドが向けられたことに慌てふためいた。




 線路は一直線に伸び、もう少し行けば、空京の構内に入る直前のところまで来ていた。
 しかし、もう全員が何かにやきもき、思考錯誤する必要はなくなった。


 なぜなら、モートンは急激に減速し、多くの仲間たちを抱えたまま、完全停車したのだから。