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機晶姫トーマス

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機晶姫トーマス

リアクション



=第6章=   ひとりはみんな、みんなはひとりのために




 「おおおおお、おれ、おお、俺も、手を貸すぜ、ぇええ!!!」


 おかしな区切りで叫びながら、夢野 久(ゆめの・ひさし)がペットの魔獣を連れて、なんと人間に乗って走ってきている。
 もちろん人間は乗り物ではないし、走っても速度が機晶姫に追いつくはずはない。
 けれど、その人間―ルイ・フリード(るい・ふりーど)は、スキル【神速】で、超人的な速さで機晶姫と同じ速度で走っているのだ。
 久と魔獣達は、その【神速】をもらい、更に自分たちも彼と一緒にやって来たというわけだ。

 やって来た巨人と一般男性。
 彼らは、トーマスを後ろから抑えにかかる。


「このマッスルボディ!あなたたちを助けるために!鍛えてきたのですから!」


 ルイの筋肉が、スキル【鬼神力】で唸る。

 そしてその後ろから、光る箒で追想する少女が増えている。
 夢野 久から、魔獣散歩について行きそこね置いてけぼりを食ったルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)だ。
「私に一言もかけずに出かけちゃうなんて、もう!」・・・・・・と、ルルールはプンスカしている。

 しかし、目の前の事態は見過ごすわけにはいかない。
 すぐに思考を切りかえ、自分は回復役にまわることにする。


「片っぱしから回復よ――ヒール!!!」


 さすがに魔女のヒール、力を奪うパワーの方が勝り効果は微弱にしか見えないが、確実に全員の表情は生気に満ちた気がした。

 ここから、魔法でサポートをするメンバーが充実し始める。
 非科学的な力ではあるけれど、やはりこういう場面では大いに頼りになる。
 頼り切るのではない、それに頼りながら、また己も最大限の力を出しきるのが目的なのだ。


 小型飛空挺に乗って、咲夜 由宇(さくや・ゆう)アレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)が現れた。


「大丈夫ですかぁ?ぜったいに、助けますからねぇ!」


 アレンが飛空挺を操作しモートンと並走すると、由宇は【幸せの歌】を歌い、スキル【荒ぶる力】を全体に発動した。
 【幸せの歌】は、実質的には何も起こしていないのだが、その歌声だけで場が和んでいる。

 本当ならアレンも由宇に助力したいのだが、彼女から飛空挺の操縦をおろそかにするなと言われて、それに専念するしかないのだった。


(きっと次に出る言葉は「アレンくん!急いで止めないとですよ!」だろうなぁ。はぁ・・・・・・)


 先が読める展開に、アレンはため息をつきながら、手元はしっかりとハンドルを握っている。


 その横に、なんとも美しいペガサスが並んで飛び始めた。
 

 「トーマスちゃん、モートンちゃん、頑張って!!」


 黒い長髪の美少女・・・・・・のはずなのだが、現在、彼女――師王 アスカ(しおう・あすか)は、普段より高身長になって、
 頭に羽型の4本の角が生えている。
 スキル【鬼神力】で力を倍増しているのだ。
 パートナーの蒼灯 鴉(そうひ・からす)も、その容姿はアスカと同じだ。
 美人が勿体ないと思うだろうが、ふたりは鬼のような形相になっても、気高く美しい容姿なのだった。


「限界まで足掻き続けてみせろ・・・・・・絶対助けてやる!」


 鴉が、トーマスとモートンに叱咤激励を飛ばす。

 ふたりと、ワイルドペガサス、そして小型飛空艇・ヘリファルテが、トーマスの後ろに回り後押しする。
 鴉のスキル【パワーブレス】も相まって、その力は倍増しており、強力な戦力だ。


 そこに、バイクで颯爽と天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)がやってきた。
 バイクを乗り捨て、ガシッと彼女を捉える。


「私も頑張るんだもん……トーマスちゃん、モートンちゃんも、頑張るんだよ!」


 体は小さいが、今は周りの魔法での援護もあり、結奈も大事なサポート要員になっていた。
 くっ、と表情はつらそうだが、不安感は微塵も感じさせない。


 そろそろ、援軍も尽きるかと思われた時、最後にやってきたのは3人組の少女たちだった。
 男性陣が目を見張る美少女美人だらけだ。
 
 レッサーワイバーンに乗った朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、「怪力の籠手」をいじりつつも、地面に降りる素振りは見せない。


(いま、客車ではどうなってるのか、確認しなけりゃいけないぞ・・・・・・)


 大ごとになっているのは、なにも機晶姫の周りだけではないだろう。
 客車の方でも、事態に気付いた者たちが動いていてしかるべきだ。
 それを調査する要員も必要だ。


「ライゼ、栞。俺は客車の方へ行って来る。ここのサポートは任せたぞ!」
「わかったよ!!」
「了解だ」


 男らしい物言いだが、垂はれっきとした女性だ。
 
 ワイバーンを旋回させ、背中を見せた垂に、パートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)朝霧 栞(あさぎり・しおり)は交互に返事する。


「みんなに元気と力を!」


 残されたふたりより、少し大きいくらいのトーマスやモートンに乗り移るのは無理と判断し、ライゼは宮殿用飛行翼で飛んだまま、
 少女機晶姫を止めようと必死になるメンバーたちに、駄目押しの【パワーブレス】を放つ。


(俺は、状況を見て臨機応変に援護するか)


 栞は難しい体制でも、見事に役目をこなし続けた。





 一方、客車の状況は、だんだん好転しつつあった。

 第3車両目、水原 ゆかりと同じ空間で、叶 白竜(よう・ぱいろん)は乗客を誘導している。
 この時、外部から騎沙良 詩穂も乗客避難に加わっており、叶は主に、窓から彼女に乗客を安全に渡す作業に追われていた。

 詩穂は、スキル【空飛ぶ魔法↑↑】も併用し、効率よく安全に、着実に乗客を地面へ降ろして行っていた。


「あとは、直に動いた方が早いかな?任せてもいいですか〜?」
「ありがとう、詩穂君。あとは私たちが、車内で避難活動を引き継ぐ」
「まっかせました!では〜」


 詩穂はペガサスで、飛んでいった。
 その後ろを、セルフィーナ・クロスフィールドが「待ってくださいぃぃ〜!」と情けない声をあげて、あたふたとついていった。

 
 叶は連結部に移動すると、パートナーの世 羅儀(せい・らぎ)を呼ぶべく、掛け声をあげる。


「來(ライ)」


 「来い」の意味の言葉を発すると、ゴゴゴッという音がすぐさま聞こえた。
 世 羅儀は、軍用バイクで連結部の近くを並走しながら、叫ぶ。
 その手には、銃型HCが装備されている。


「待ってたぞ、状況はどうだった!」
「この速度は、引っ張ってる機晶姫の暴走によるものらしいぜ!」
「暴走だって・・・・・・?」
「ああ。そして、なんとこの列車はイコン用の爆薬を、最後部の貨車に積んで走ってる」
「爆薬・・・・・・!」

 
 先ほど別れたばかりの、詩穂が持っていた銃型HCからも、同じような通信が入っていた。
 世は報告を続ける。


「現在、機晶姫を止めるグループ、叶みたいに乗客を避難誘導するグループ、車両同士を切り離すグループ、
 爆薬を安全化してるグループとある」
「なるほど、この連結部での作業はそのせいか」


 振り向くと、橘 恭司とコンクリート モモが連結部を攻撃している、知らない者から見れば異常な光景があった。
 状況を把握した今、大事なのは、爆薬を積んだ貨車が切り離されるか、モートンが止まるか、というわけだ。



 *




 第4車両目では、伏見 明子(ふしみ・めいこ)が、避難してきた乗客たちに、状況の説明と、平常心を保つように呼びかけていた。


「みんな、とりあえずこの車両の後ろに集まって!――ほら、男衆はお年寄り子供に手を貸す!!!」


 避難すべき対象である乗客の中から、男性のみを大声で呼んで、明子は誘導係にあてていた。
 4車両目に仲間が少ないので、それは仕方ない対処なのだが、乗客も怒鳴られて何が何やらと言った感じだろう。
 恐るべき女性の力だ。

 彼女のパートナー鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)も、その手助けをしている。


「ちょっと待ってて下さいね〜、退屈だったら私が話相手になりますから〜」 


 六韜は、見た目が子供に近いので、そのほんわかとした雰囲気を十分に発揮して、乗客の恐怖感を安心感へと変えていっている。


「こら、引っ張らないで。まったく、子供は元気ですねぇ」


 そのちんまりとした容姿は子供たちに大人気?のようで、いくらか困り顔になりながらも、順調に誘導していくのだった。


 こうして、乗客の外部への避難、そして3・4車両目に移動させる行動が、そろそろ終わろうとしていた。