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リアクション
=第7章= 知識を集めて・・・・・・機晶姫モートンの暴走原因を解明せよ!
第4車両目は、避難してきた乗客で溢れていた。
なるべくうしろに座り、身を寄せ合うことで、車両自体の重しになるだろうという目論見もあった。
この騒然とした場所で、円陣を組むような形で座席の端に座り、足をぶらつかせているメンバーが6名。
その“会議”の中心人物――樹月 刀真(きづき・とうま)は、手に装備している籠手型HCをもてあそびながら、
唸っている。
とにかく唸っているのだ。
ロイヤルガードの一員として、難問を解決することに特化した彼でさえこの状況なのだ、相当、機晶姫の暴走原因は分かりにくいらしい。
「気候により機体がうんぬん、ということでもなさそうだ――月夜、空京鉄道局の方と、連絡は?」
「イコンの出動はひき止めてありますわ。でも、情報に目ぼしいものはないみたい」
うーーーーーん・・・・・・という間延びした感じも文字通りで、それはパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)も同じだった。
銃型HCを手に、月夜は主に外部――空京鉄道局と連絡を取り合っていた。
基本的にモートンを破壊するという考えの鉄道局員たちを、彼女の言葉が止めている状態なのだ。
「モートンの一番近くにいる影野陽太とも連絡し合っているんだが、モートンの外見からも怪しい点は見つからないと・・・・・・」
「第3者の干渉が原因でもないみたいなんです」
刀真の声に重ねて、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が会話に参加してくる。
「ディテクトエビルを使ったけど、反応なしですぅ・・・・・・」
ミレイユのパートナー、ルイーゼ・ホッパー(るいーぜ・ほっぱー)は、とろんとした目で言う。
収穫がなかったことが悔しいのか、ミレイユもルイーゼも、猫の耳が頭についていたら、ぺシャンと潰れているくらいの落胆のしようだ。
「実は、空京で誰かと待ち合わせしていて、遅刻しそうだから急いでいるとか」
「運行ダイヤが過密なトーマスにもモートンにも、そんなプライベートな予定はないと思うがな・・・・・・」
安易な考えを打ち出す夜月 鴉(やづき・からす)に、呆れ顔でユフィンリー・ディズ・ヴェルデ(ゆふぃんりー・でぃずう゛ぇるで)が
突っ込みを入れた。
暗礁に乗り上げた原因究明組は、6つの脳みそを合わせてなお解けない難題に、頭を抱えるしかない。
すると、6名の輪から外れて壁際に寄りかかっていた2人組が、わざわざ大きい声でその会話に割って入ってきた。
「鉄道の専門者たちが言ってるんです、今からでもモートン君を破壊するべきです」
「つばめさんに同じく」
一見、柔和で優しそうに見えるが、彼女――藤井 つばめ(ふじい・つばめ)の言っていることは、この列車内で、
必死に少女機晶姫を助けようとしている全員に反する意見だ。
憮然とした態度で隣に立っているパートナーの太刀川 樹(たちかわ・いつき)も、隙を窺うような目で刀真たちを見ている。
一瞬、言い争いが始まりそうな雰囲気になりかけた。
しかし、刀真は、怒るどころか反対に笑って返答したのだ。
「そんなことを言っても、俺は君の優しい人柄を知ってる。君は、喫茶【とまり木】で、いつも料理に奮闘してるだろ?」
「ど・・・・・・どうしてそれを・・・・・・」
「よく失敗するけど、料理を続けてるよね。いつも、そのパートナーの名前を呟きながら」
「それは、樹君が不器用だから・・・・・・その・・・・・・」
喫茶【とまり木】の常連客で、つばめとよく顔を合わせていた刀真・鴉は、つばめの真の優しさをよく知っていた。
料理を作る手にそれはあらわれる。
あれは明らかに、誰かのために何かをなそうとする腕だった。
「う〜ん・・・・・・では、君の観点から、モートンの暴走原因は何だと思う?」
「急に言われても、思いつかないですよ」
刀真に若干対応の優しくなったつばめだが、提供できる情報はないのだった。
そうこうしているうちに、この場にいるメンバーのHCというHCがけたたましく、通信を受け取っては吐き出し始める。
内容は、乗客の避難完了という知らせと、連結部の破壊、または切り離しが終わったという、嬉しい知らせだった。
<1車両目後部、連結器はずれたわ!>
まずは貨物車空を上から渡り、前方へ援助しに回っていたローザマリアからの一報。
<HCを借りて、失礼!2車両目後部、連結部解体完了!!>
マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)の声は、幾分震えて聞こえてくる。
手の離せない、連結部破壊組に代わり、通信を入れてきたのだろう。
後ろから橘 カオルが「くぅ〜、しもやけだぜ・・・・・・」と泣きそうな声で言っているのも聞こえた。
相当寒いに違いない。
<3両目後部、連結器・・・・・・見る影もないが・・・・・・一応、取り壊し完了した>
橘 恭司は、なにを見てそう言っているのか、いくらか残念そうな声音だ。
列車がガタンッと上下するのと、後方の車掌室のドアがバタンッと開くのは同時だった。
列車が揺れたのは、切り離されて列車が単体になって速度を落とし始めたからだろう。
ちなみに、車掌室から出てきたのは、【雷術】で爆薬貨車や列車を止めようと動いていた湯島 茜だ。
肩で息をしながら、なにやら一仕事終えたような達成感に溢れた表情をしている。
「機晶姫は、機晶石を動力に動いているんだよ。モートンの体内の機晶石に、何かしらの負荷がかかってると思うんだ」
「君は・・・・・・いったい、そこで何を・・・・・・?」
「え、あ・・・・・・ちょっと、車両の電気供給を、スパッとね」
そういえば、先ほどから車内が暗くて寒いとは感じていた。
まさか電気供給自体が断たれていたとは・・・・・・原因究明に熱くなって、周りの環境変化には皆、気付いていなかったようだ。
しかしながら、列車の動力がモートンの引く力だけになったというのは、大きな減速の要因になるだろう。
刀真の籠手型HCから、突如音声が流れだす。
先頭車両で連絡係を務めている、影野陽太からだ。
<刀真君・・・・・・いま、モートンに、明らかに不可解な点があることに気付きました!!>
「なんだって!それは一体?」
<煙突です!トーマスと違って、モートンの煙突から煙が出ていないんです!!!>
刀真は目を見開いて、危うくHCを落としそうになった。
それを、ドキドキしながら周囲が見守っている。
鬼気迫る、というのは、こういうことを言うのだろう。
(灯台もと暗し、か・・・・・・!!)
刀真は、すっくと立ち上がった。
*
空の車両を引くモートンは、重量から解き放たれ更なる加速をするように思えた。
けれど、集まった仲間たちの重なる努力のお陰で、その速度は初めと比べるとだんだん落ちてきている。
そんな中、初期メンバーとは違う顔が見えた。
遅れてきたヒーロー・・・・・・とは違うが、緋山 政敏(ひやま・まさとし)は、パートナーふたりとおそろいの携帯ラジオを小脇に抱え、
先頭車両が連結部から切り離され、孤立してから車掌室へやって来たのだった。
「モートン、あとは君が止まるだけだ・・・・・・大丈夫、この列車は、ちょっと“スリリング”な旅をしていたんだ」
モートンに語りかけるようにして言い、緋山は微笑む。
「政敏!空京鉄道局から通信がきたわ!ここから空京まで、あとはひたすらまっすぐよ!
鉄道局側が、切りかえポイントを操作して、曲線がないように計らってくれたみたい」
カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が声を上げれば、
「政敏!魔法の準備、OKよ!!」
リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)が指を天高く上げて、スキル【空飛ぶ魔法↑↑】をかけるタイミングを急かす。
客車を魔法で持ち上げるつもりだ。
無人の客車ならば、簡単に持ちあがると踏んでの行動だった。
「よし、いまだ!!」
「スキル発動!!――【空飛ぶ魔法↑↑】」
「「【空飛ぶ魔法↑↑】」」
緋山の掛け声に、リーンが続き、それに武神 牙竜とエヴァルト・マルトリッツの声も重なる。
ガッシャァァーーーーン!!!!
3倍の力で発動した【空飛ぶ魔法↑↑】は、先頭車両と共にモートンをつないでいた連結器もろとも上空に浮いて行った。
どうやら、モートンの暴走により加わっていた負荷が、ここへきて臨界点に達し、タイミング良く壊れてくれたらしい。
不幸中の幸い、とでも言うのか、まさに神懸かり的なタイミングだった。
――空京は、もうすぐそこまで迫っている。
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