百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

五月のバカはただのバカ

リアクション公開中!

五月のバカはただのバカ

リアクション




第8章


「ククク……世界を支配するのはこの私――ダークライカだっ!!」
 と、ライカ・フィーニス(らいか・ふぃーにす)は声高に宣言した。

 まあ今、街のみんなはフェイク騒動に忙しいので、誰も聞いてないわけだが。

「フフフ……愚民どもめ、自分たちの置かれた状況にも気付かずに気楽なものだ。
 だが貴様らが安穏としている間に私は世界征服の準備を着々と進めておくのだ!!
 気付いた時には世界はこの私の手の中というわけよ!!
 ははは、はっはっは、はーっはっはっはーっ!!!」

 と、言いつつもそのダークライカ――まあ一応補足しておくと、ライカ・フィーニスの普通紙フェイクだ――は、世界征服の準備を開始した。

「――で、何やってんの?」
 と、そこに尋ねたのが本物のライカである。
「ククク……言うまでもなかろう……こうしてバナナの皮を仕掛けておけば、道を歩く愚民どもが次々にすっ転ぶという寸法よ!!」
 誇らしげに笑うフェイク。
「あ、そうなんだ……でも、バナナの皮を踏んでも、実はそう簡単には転ばないよね?」
 本物ライカの突っ込みにもダークライカは動じない。
「フ……そう思うのが素人のあかさたなよ、何しろこのバナナの皮はしっかり熟成して全面がスィートスポットで覆われるほどのまっ黒っぷり!
 まさにバナナの皮の中のバナナの皮!!」

「バナナの皮の中のバナナの皮――言いにくいね」
 何と言うか、どこに焦点を合わせていいのかわからない。ぼんやりとした返答をするライカに、ダークライカは畳みかけた。
「ククク……それだけではないぞ、見ろ、スタンダードなジャイアント・キャベンディッシュにこの辺ではちょっと珍しいアップルバナナ、それにわざわざ日本から取り寄せたシマバナナだ!!」

 正確にはその皮、であるが。

「えーっと……そろそろいいかな?」
「む、何だ?」
 延々とバナナの講釈を続けるダークライカを、本物のライカはビシっと指差した。


「おのれ、私の姿を真似した小悪党め!!
 世界征服など、このライカ・フィーニスが許しはしないぞ!!」
 遅っ!!


「フハハハハ、貴様に何ができるというのだ!!
 この私を止めることができるというなら、やってみるがいい!!」
 挑発するダークライカに、本物のライカは飛び掛った!!
「何をーってあれ、この構図どこかでゲフっ?」
 とまあ、当然のようにバナナの皮を踏んで後頭部を強打するわけだが。

「ハーッハッハッハ!! 貴様などバナナの皮の足元にも及ばぬわ!!」
 と、高笑いを残してダークライカは街を走って行った。

 その様子を見たライカのパートナー、レイコール・グランツ(れいこーる・ぐらんつ)は呟いて、目をこすった。


「どうも私は疲れているようだな……ライカがもう一人いたような気がするよ……」
 今日もお守り役、お疲れ様です。


                              ☆


 そんな残念な偽者、ダークライカが走り去った先では、もう一人の残念なフェイクが暴れていた。
 いや、暴れようとしていた。

「いけーっ、惨殺人形アカリ!!!」

 と、茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)のフェイク『残念なエリス・マーガレット』は、自らの友を模した惨殺人形のフェイク、茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)を操り、道路を走る車を一刀の元に切り捨てた!!

 いや、切り捨てようとした。
 普通紙で作られたフェイクのエリスに、そこまで強い人形が作れるわけもない。
 辛うじて人の形を保っていたのが奇跡のようなその『ざんさつにんぎょうあかりちゃん』は、走行中の車に轢かれて木っ端微塵に砕け散った。


「ア、 アカリ! アカリーーーッ!!!」


 亡き友の姿を模したつもりの人形を失って失意に暮れるエリス。
 そんな残念すぎるフェイクを後ろから発見して、オープンカフェで飲んでいたシェイクを盛大に吹いたのが本物の茅野瀬 衿栖であった。
「なんじゃありゃーーーっ!!」
「わ、衿栖汚い! やめてよもう!!」
 そのシェイクを避けて飛び上がったのが本物の茅野瀬 朱里でもある。

「ああ……あれがカメリアさんからメールがあったフェイクって奴ね……それにしても、ちょっと残念すぎる……」
 と呟いた衿栖は、立ち上がって泣き崩れるエリスに近寄った。

「えーと、あなたが悪の人形師ね、そんな奴はこの私が許しはしないわ、人形操作の腕前で勝負よ!!」
 と、エリスの立場を考えて人形勝負を挑んで上げる衿栖だった。
 その一言に涙を拭いたエリスは立ち上がり、他の人形を取り出した。
「う、うん……ぐすっ。この私に敵うと思うなよっ!!」


「人形操作勝負――第一戦、人形豆移し!! 右の皿から左の皿へと人形を使って豆を移しきったほうが勝ちよ――って早っ!?」
 意外や意外、エリスは普通紙フェイクだったので素早では本物の衿栖以上だった!
 ゆえに一本目、エリスの勝ち!!

「ぬぬぬ……意外とやるじゃない……では第二戦! 人形あっちむいてホイ!!」
 操り人形でじゃんけんをし、さらにあっちむいてホイまでを高速で行なう高等技術!!
「じゃんけんぽい、あっちむいてホイ! ホイ! ホイ!」
 ここではスピードは関係ないので、正確さで本物の衿栖の勝ち!!


「ねえ……何してるの?」
 そこに通りがかったライカは、その勝負を暇そうに眺めている朱里に尋ねた。
「人形操作勝負第三戦――人形あやとりだそうよ……衿栖も付き合いいいわね……さっさと真っ二つにしちゃえばいいのに……」
 朱里の言葉通り、衿栖とエリスは、お互いの人形同士であやとり勝負の真っ最中。
 ただでさえ難しい人形の操作に加えその小さな指であやとりをしようというのだから、確かに技術は凄いのだが何かが間違っている。

「ほうきっ!!」
「2段はしごっ!!」
「東京タワーっ!!」
「ならば必殺、東京スカイツリーっ!!」
「奥義、タシガン海峡!!」
「何のっ、超爆裂アトラス火山!!」

 どういう技なのかはご想像にお任せします。

 ところで、そのエリスと衿栖の足元で何やらモゾモゾと動いているのはダークライカである。
「やっと追いついたか……あれは――何をしているのだ?」
 と、レイコールは本物のライカに尋ねた。
「うん……たぶん……」


「ふぅ、なかなか決着がって――いたっ!!」
「きゃあっ!!」
 衿栖とエリスの二人は、あやとり決戦の途中で足をダークライカに取られ、バランスを崩した。
 ダークライカは衿栖とエリスが勝負に熱中している間に、ブーツの靴紐を解いて、お互いの紐と結んでしまっていたのだ!!
 そのため、二人の衿栖は互いにお頭をぶつけてしまい、その衝撃でエリスは似顔絵に戻った。

「なんというか……世界征服のわりに、やってることがセコいのはどういうわけかね?」
 とレイコールは呟いた。だが、ライカはそんなレイコールに告げる。
「そんなことないよ、あれはあれで恐ろしい世界征服の第一歩なんだよきっと!!
 今のうちに食い止めなくっちゃ!! レイ、コレを使って!!」
 と、ライカはレイコールに得物を手渡した。

 その得物を握ったレイは、力強く――


「よし、このハリセンさえあれば百人力、っていつ作ったのだーーーっっっ!!!」
 

 本物のライカをひっぱたいた。


                              ☆


「待てやコラーーーっっっ!!!」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、街中を自分のフェイクを追っていた。
「うふふ、つかまえてごらんなさ〜いっ♪」
 と、追われるフェイク・ラルクは軽やかな軽身功で逃げまわった。
 ただでさえ身の軽い普通紙フェイクが、さらにプロミネンストリックまで使用しているので、そのスピードは熟練のコントラクターであるラルクでも捉えるのは難しい。

 ちなみに、フェイクのラルクは裸エプロンである。
 そのまま猛スピードで逃げているものだから、動くたびにめくれたエプロンの奥の秘密の花園が見え隠れするのである。


「おお……すごい……あれがHENTAIか……生で見るのは初めてだ……」


 と、道にバナナの皮を撒いていたダークライカは感心したように呟いた。
 そのバナナの皮にプロミネンストリックが引っかかって、フェイク・ラルクは派手に転倒した。
「きゃああぁぁぁーっ!?」
 だが、そこは腕の立つコントラクターのフェイクだ、転倒でダメージを受ける事がないようにしっかりと受身を取って、地面に転がる。
 そのめくれたエプロンの奥の、世紀の大秘宝をうっかり目の当たりにしたのが、ダークライカを追ってきた本物のライカとレイコールであった。


「おお……すごい……これがHENTAIか……生で見るのは初めてだ……」


 そのライカの顔を一瞬で覆うレイコール。
「み、見るんじゃない!!」

 と、そこに本物のラルクが追いついてきてフェイク・ラルクを踏みつけた。

「ようやく追いついたぜ、くそったれ!!」
 そのダメージでフェイクは似顔絵に戻った。
 二人のライカは、同時に呟いた。
「おお……HENTAIと同じ顔だ」
「誰がHENTAIだっ!!」
 ラルクは、あくまで軽く手加減した鳳凰の拳を放った。
「てっ!!」
 本物のライカはかるくこづかれた程度だが、ダークライカはそのダメージで似顔絵に戻ってしまった。
 消えてしまったダークライカに、ぼそっと本物のライカは呟いた。


「あー、もっと遊びたかったのに……」
「やっぱり遊んでたのかっ!!」


 そのライカの後頭部を、レイコールが再びハリセンでひっぱたいたのは言うまでもない。


                              ☆