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五月のバカはただのバカ

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五月のバカはただのバカ

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第10章


「くっ……カメリアを助けに来たのはいいが……相手もカメリアだと……やりにくいな」
 と、鬼崎 朔は呟いた。可愛い少女の味方『月光蝶仮面』は、カメリアと同じ顔をしたカメリア・シャドウにも攻撃を加えることができないのだ。
 結果として襲い来るカメリア・シャドウからカメリアを庇いつつ防戦を行ない続けることになる。

「朔、いいから倒せ! あれはただの偽者じゃ、儂ではない!!」
 そうカメリアは言うものの、やはり信条としては少女に手は上げたくない。


「こっちだ!! ならばこの俺がダーク正義マスクを説得する!!」
 やけにきりりとした声で呼びかけたのは、クド・ストレイフ……のフェイクだった。

「あれ、お兄さんがもう一人!?」
 本物のクドは目を丸くした。そこには自分と全く同じ顔をしたフェイクがいる。
 だが、どうも様子がおかしい。フェイク・クドの周囲の一般人の皆さんが、やたらとフェイク・クドの心配をしているのだ。

「あ、あんた! さっきはありがとう……え、あの暴れてる奴を止める? やめときなよ、危ないよ!!」
「そうよ、あなたさっき私が落とした財布を一緒に探してくれたじゃない、そんな危ないことしないでいいのよ!!」
「そうそう、あんたさっき道に迷ったお年寄りを交番に案内してたじゃないか、そんイイ奴が危ないことをすることはない!!」

 どうやら、フェイク・クドは地道に困っている一般の方々を助けていたらしく、いつの間にか地元の皆さんに絶大な人気を得るに至っていたようだ。
「くっ――今までお兄さんが築き上げてきた地位を横から掻っ攫うとは……なんてぇふてぇ野郎だ!!」
 と憤る本物のクドとフェイク・クドを見比べていたハンニバル・バルカはボソッと呟いた。

「うん……ボクもあっちの綺麗なクド公の方がいいのだ」
「じ、実のパートナーにまでっ!?」


「がはははっ!! このダブルモヒカンコンビに勝てると思うなよっ!!」
 ゲブー・オブインとフェイク・オブインはダーク正義マスクに戦いを挑んでいる。
 真面目な硬派でいい奴のフェイク・ゲブーに感化されたゲブーは、すっかりフェイク・ゲブーの親友になっていた。

「おらおらおらぁっ!!」
「ドラドラドラァッ!!」
 フェイク・ゲブーは普通紙のフェイクなので動きは早いが威力はない。
 その弱点をカバーするため、フェイク・ゲブーがかく乱して本物のゲブーが確実にダメージを与えていく。

 だが、上質紙フェイクであるダーク正義マスクの実力もなかなかのものだ。
 ブレイズ・ブラスはかけ出しの正義のヒーローとして日々修行を積んでいたが、思い込みや助言で自分の実力以上の力を発揮するタイプ。
 今回は、『闇の力に飲み込まれた』という嘘設定を上質紙フェイクが信じ込むことで、本来にはなかった力を発揮しているのだ!!

「――ふんっ!!」
「おわぁっ!?」
 二人のゲブーの攻撃を受けつつも、本物のゲブーに爆炎波を放って応戦するダーク正義マスク。

 そこに、フェイク・クド――綺麗なクドが駆けつけた。

「やめるんだ正義マスク!! 本当のお前はそんなヤツじゃない筈だ!!」
「――うるせぇっ!!」
 しかし、ダーク正義マスクは綺麗なクドの言葉を聞き入れることはなく、無情なとび蹴りを持って応えた。
「ぐあああぁぁぁっ!! む、無念……」
 いかにいい人であっても、綺麗なクドは普通紙のフェイク、その蹴りに耐える事はできずに、ただの似顔絵に戻ってしまった。

 それを見たバルカは悲痛な叫び声を上げた。
「あああーっ!! 綺麗なクド公が!! 
 なんということなのだ、どうしてこっちの汚れたクド公が生き残って綺麗なクド公が消えなくてはいけないのだ!!」
「……ところで、汚れたクド公って、誰のことですかねぇ?」


 もちろん、本物のクドのことである。


「おい、汚れたクド公!! 今からでも遅くない、ちょっと行って取り替えてもらってくるのだ!!
 交換なのだ、トレードなのだ!! T・R・A・D・E!!!
 何、できない!? S・H・I・T!!」
「そんな言葉、どこで覚えたんですか」
「うるさいのだ、こうなったら汚らわしいクド公が綺麗なクド公の敵を討つのだ、お前なんかどうなってもいいから全力で頑張るのだ!!」
「あの、さすがにちょっとヒドくないで」

「うるさーーーいっ!! とっとと行くのだーーーっ!!!」
 バルカにお尻を蹴飛ばされてダーク正義マスクに向かって行くクド。


 さすがに納得行かなかったという。


「たあああーっ!!!」
 ギガントガントレットでダーク正義マスクに殴りかかるのは、小鳥遊 美羽。
 コハク・ソーロッドも美羽のサポートをするが、ダーク正義マスクは意外に素早く、なかなか攻撃が当たらない。
 今も本物のゲブーとフェイク・ゲブー。そして美羽の3人を相手にしているというのに決着がつかないでいる。

「いい加減にするんだ、ブレイズ!!」
 そこに鳴神 裁も参戦する。
 すると、そこに本物のブレイズが現れた。

「待たせたな、裁!!」

 ダーク正義マスクをすっかり本物のブレイズだと思いこんでいた裁は、二人を見比べて目をぱちくりさせている。
「あれ……ブレイズが二人? 闇の力に飲み込まれて暴れてるんじゃないの?」
 だが、ブレイズはオルベール・ルシフェリアから受け取った『シャイニーマスク』を取り出し、裁に告げた。

「違うんだ、あれは俺の偽者だ。俺はもう間違いはおかさない……俺はもう二度と心の闇に囚われないと誓ったのだから!!
 ――変身!!!」
 そのマスクを装着すると、ブレイズの身体が眩しく光り輝いた――ような気がした。
「正義マスク・ブライトフォーム!!!
 これはすげえ、身体の奥から光の力が溢れてくるような気がするぜ!!」

 もちろん、気のせいである。

 そこに、カメリアと朔、そして物陰からついて来るフェイク朔がやってくる。

「おお、コハクではないか、こっちに来ておったのか!!」
「あ、カメリア! なかなか攻撃が当たらなくて苦戦しているんだ……ボクたちの挟み打ちで一斉に攻撃を仕掛けて、足を止めようと思うんだけど」

 そんな相談をしていると、多くのコントラクターに囲まれたダーク正義マスクの元に、一人の少女が手助けに入った。
 カメリア・シャドウだ。

「ふはははは!!」
 多くの人間がダーク正義マスクに注目している間に、無差別に火術を放って攻撃するカメリア・シャドウ。

「――危ない!!」
 その炎から本物のゲブーを庇って、フェイク・ゲブーはダメージを負ってしまった。
「バ、バカ野郎!! なんてことを……!!」
 フェイク・ゲブーは普通紙のフェイクだ。その身体は一撃の火術にも耐えられない。
 メラメラと燃え上がりながら、フェイク・ゲブーは本物のゲブーの手を取った。

「――いいんだ……偽者は所詮偽者……消え行くのが運命さ……楽しかったぜ兄弟、ありがとよ……」
「お、お前、俺の偽者だったのか!!
 だが……これだけは言えるぜ、お前のモヒカンは本物だったって!!」
 爽やかな微笑みと共に、フェイク・ゲブーは消えていく。何故かその場にモヒカンだけが残され、そのモヒカンを胸にゲブーは叫んだ。

「ちっくしょおおおっ!! お前の敵はこの俺が討ってやるからなあああっ!!!」


 その間に、戦況は変化していた。


「そ……そんなバカな!!」
 朔は叫んだ。

「ふふふ……こうなれば我々の力……ひとつに集結してやろうじゃないか……!」
「おお、それは良い……所詮戯れに作られた儂らじゃが……最後に意地を見せてやろうぞ……!」

 何ということだろう、多くのコントラクターが見守るなか、ダーク正義マスクとカメリア・シャドウは見る見るうちにひとつの人影に合体してしまったのだ!!

「ふははは!! 我々はもとより紙で出来た存在……、こうして折り重なればひとつになることなど造作もないこと……!!
 我々が、いや、我こそは『ダークシャドウマスク!!』」
 もはやブレイズとカメリアの面影はどこにもない。


「……だが、これはかえって好都合ッ!!」
 朔は叫んだ。合体したダークシャドウマスクは、闇と影の効果で全くの黒い人影であり、個人を判別できる容姿ではなくなっている。
 カメリアの姿を攻撃できないという理由で躊躇していた朔には、かえってこのほうが攻撃しやすいのだ。

 しかし、向こうもただ合体したわけではない。
 その全身から強力な闇の炎を吹き出してその場の全員に攻撃する!!

「喰らえ!!!」

 闇の炎が一瞬にしてあたりを埋めつくした。

「ああっ!!」
「しまった!!」
 その攻撃で、物陰に隠れていたフェイク朔は似顔絵に戻ってしまう。
「あぅぅ……ごめんなさいぃぃ……」
「ああ……けっこう可愛かったのに……」
 と、朔は残念がった。
 少しだけ、昔の自分の戻れた気がしたのに、と。

 強力な炎の攻撃で、ダークシャドウマスクを取り囲んでいたコントラクター達も、とりあえず包囲の輪を広げざるを得なくなっていた。
 相手は上質紙フェイクが2枚分合体した実力を持っている。
 その力は未知数で、まだ何か隠し玉があるかもしれない。そう思うとうかつには手を出せないのだ。

「く……このままでは……」
 カメリアが唇を噛んだその時。


「弱音を吐くな、情けないぞ、それでもお主はカメリアか!!!」
 上空から声がした。

「……はい?」
 カメリアが呆気にとられていると、その眼前に5人の人影が飛んできた。
 5人は名乗る。

「カメリアレッド!!
 カメリアブルー!!
 カメリアイエロー!!
 カメリアグリーン!!
 カメリアピンク!!」

「……おい」
 そのどう見ても5人揃ったカメリア本人たちは、一斉に叫んだ。


「ツァンダ地祇戦隊、カメリアン!!!」


                              ☆