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【新米少尉奮闘記】飛空艇を手に入れろ!

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【新米少尉奮闘記】飛空艇を手に入れろ!

リアクション

  4

「こちらローザ。ヒデ、そちらの現在位置は?」
 飛空艇内に侵入、探索中だったローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、無線機で秀幸を呼び出した。
 すでに無線機が使用可能であることは確認している。内部に侵入、各所を探索している突入班と情報共有ができるよう、情報網も整えてあった。
 わずかなノイズの後、無線機からは秀幸の声が返ってくる。
『こちら小暮。先ほどブリッジに辿り着きました』
「現在の飛空艇の損傷率はわかる?」
『少しお待ちを。――確認しました。皆さんのおかげで、5%未満に抑えられています』
「了解。それなら、多少の無茶もできるわね……」
『え?』
「なんでもないわ。通信終了」
 無線を切り、ローザは改めて現状を確認する。
 現在位置は飛空艇深部の格納庫の奥。広さは一般的な学校の教室の三分の二程度。
 同行しているのはパートナー、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)と、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)
 対峙する敵、近接戦闘型機晶姫――六体。
 三人で相手をするには少々骨が折れる戦力だ。
「ローザ、来るぞ」
「下がっていてください」
 ライザとジョーザが一歩前に出る。
 直後、一気に六体の機晶姫が三人に迫った。
 二人と六体は引き寄せられるように格納庫の中央で衝突、衝撃の余波がビリビリと室内全体を震わせる。
 ライザの双剣が一合でまとめて三体の機晶姫を薙ぎ払い、ライザの背後、機晶姫の死角に位置取ったジョーザは破星剣シャハブ――強化光条兵器を振りかぶる。
 シャハブの攻撃対象は機晶姫とガードロボに限定されている。光刃がライザの背中を突き抜け、その眼前に迫っていた機晶姫を二体、斬り払った。
 残る一体をグリントライフルによる点射で退けながら、ローザは思考を走らせる。
 単純にこの場を切り抜けるだけならそう難しいことではない。
 ローザが扱える光条兵器には対物ライフル級の代物がある。だが、そんな威力の弾を喰らえば、いくら機晶姫といえど即死だ。できればそうはしたくない。
「せめて機晶姫たちをこの部屋に閉じ込められれば――」
「その役、自分が請け負おう!」
 突如響いた声は、格納庫の入口からだ。
 現れたのはセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)。セオボルトは懐から何かを取り出すと、おもむろに機晶姫に向けて投げつけた。
「喰らうがいい、聖なる芋ケンピ!」
「……は?」
 呆気に取られるローザたちを他所に、放り投げられた何か――芋ケンピは、空中で爆発、機晶姫を怯ませた。
「今のうちにこちらへ!」
 ライザとジョーザが斬撃で道を開き、言われるままローザも入口へ向かう。
「ここは自分が引きつけましょう。今の内にあなたがたは探索を」
「しかし――」
「む。来ましたぞ」
 入口へ殺到した機晶姫を、セオボルトは真っ向迎え撃つ。
 龍麟化等の防御スキルを多重発動しているのか、急所以外への攻撃は身体ひとつで受け止め、喉元を狙ったトンファーブレードの切っ先は抱えたシールドで阻む。
 攻撃を阻んだだけで機晶姫は止まらない。もう片方のトンファーブレードを振りかぶり、さらに一撃を見舞おうとする。
 衝撃音。
 一撃を喰らったのは機晶姫の方だった。
 見れば、シールドからはパイルが飛び出している。パイルバンカー内臓シールドによるカウンターが見事に決まったわけだ。
 その後も、セオボルトは入口に迫る機晶姫をことごとく後退させ、格納庫内に閉じ込めることに成功した。
 これなら任せても問題ない。自分たちは飛空艇の起動に専念すべきだ。
 そう判断し、駆け出そうとしたローザに、セオボルトはひとつの袋を投げて寄越した。
 中身を検めると――芋ケンピだ。
 ローザはおそるおそるセオボルトを窺う。
「これ、爆発は――」
「それは普通の芋ケンピ。もとい、高級芋ケンピ。ぜひご賞味あれ。芋ケンピは至高のソウルフードですからな!」
 快活な笑い声を上げるセオボルトに苦笑と共に感謝の念を返し、ローザたちは内部の探索に戻った。


  5

「これでよし、っと」
 作業を終え、未沙はひとつ息を吐いた。
 飛空艇内、機関室である。
 機晶石を根幹に用いているとはいえ、飛空艇が飛空艇として機能するにはそれを支える機械類が必要不可欠だ。
 この飛空艇は発掘対象となる代物、機械にとって重要なメンテナンスもロクにされていない。応急処置もなしにいきなり起動しようというのが無理な話だ。
 そう考え、未沙は真っ先に機関室を探し出した。
 機関部をサイコメトリで探ると案の定、起動の要となる部分にいくつか致命的な老朽化が見つかった。
 ひとまず持ち込んだ機材による応急処置は済んだ。
 欲を言えば取り替えたい部品なども散見できるが、なんとか起動することくらいはできるだろう。
「未羅ちゃん、そっちはどう?」
 無線で呼び出したのはパートナー、朝野 未羅(あさの・みら)だ。
 未沙を筆頭とする『アサノファクトリー』の面々は、それぞれ飛空艇の要所に散っている。未沙同様、起動の障害となる不安要素を取り除くためだ。
 未羅は管制室で火器管制システムの掌握に臨んでいる。外で陽動班の脅威となっているガトリング砲の沈黙、飛空艇を発掘現場外部へ飛ばすための進路確保に使えそうな武装がないかの確認が目標だった。
『あ、お姉ちゃん? 大丈夫、こっちも無事に復旧できた! 飛空艇の出口を作るための武器も使えそうなの!』
「お、いい感じ。未那ちゃんとティナさんは?」
 朝野 未那(あさの・みな)ティナ・ホフマン(てぃな・ほふまん)は中央指揮所であるブリッジに向かい、それぞれ操縦システム、艦長席でのシステム起動を試みている。
『姉さんですか? 操縦システムの起動は成功しましたぁ』
『艦長席のシステム起動も完了したわ』
「よし。それじゃ早速、飛空艇を完全起動させて――」
 全システム掌握に湧きかけた面々だったが、その時、不吉なアラート音が飛空艇内部を響き渡った。
 各所の赤色灯が明滅。
 やがてスピーカーから、機械の合成音声が無機質に、告げた。


『警告。当飛空艇のシステムに侵入者。これより当該システムは鹵獲防止プログラムを作動させます。当飛空艇は10分後に爆破。内部に残っているクルーは至急退去して下さい。繰り返します。警告。当飛空艇のシステムに――』