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【新米少尉奮闘記】飛空艇を手に入れろ!

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【新米少尉奮闘記】飛空艇を手に入れろ!

リアクション

  4

「陽動班がうまくやってくれてるみたいね。今のうちに急ごう!」
「うん。私が先行するから、騎沙良さんたちは様子見てから来てね!」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)に応えるなり、琳 鳳明(りん・ほうめい)は待機していた土嚢の影から身を乗り出し、地面を蹴った。
 ダッシュローラーの速度を活かし、一気に飛空艇までの距離を詰める。詩穂や、パートナーのセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)も後に続いた。秀幸と、その護衛役数名も一緒だ。
 飛空艇西側の後方部。陽動班が北側に敵の大部分を引きつけてくれているおかげで、飛空艇の起動が可能なクラスの人員を中心とした鳳明たち突入班も動きが取りやすくなった。
 囮になってくれている陽動班の負担を軽減するためにも、速やかな飛空艇への侵入、起動を目指す。
 まだわずかに地面に埋まっている飛空艇は、わずかに後方へ傾いている。船尾甲板は、この場にいる人間の身体能力があれば十分に跳び乗れる高さだ。
「!」
 目標まであと二十メートルの地点で、鳳明は足を止めた。身ぶりで背後の仲間たちにも制止を求める。
 目指す船尾甲板に人影がひとつ。機晶姫だ。武装はトンファーブレード、近接型か。
 機晶姫は姿勢をわずかに前傾させ、甲板のへりを蹴った。一直線に鳳明目がけて飛来する。
「鳳明!」
 セラフィーナの声を背中で聞き、鳳明は迎撃体勢に入った。
 頭部を狙って振るわれたブレードを、腰を深く落とすことで回避。空を薙いだ機晶姫の右腕をすかさず掴み、引き寄せる。
 地面が砕けるほどの威力で右足を踏み出し、震脚。突き出した右肘で機晶姫の腹部をえぐる。
 八極拳が一手、裡門頂肘。
 八方の極遠に至る威力を目指して練られた武術の技だ。自身の落下速度を上乗せたカウンターで受けた以上、さしもの機晶姫でも一撃で行動不能に陥るに十分な威力だったはず。
「……まあ、そんなに上手くはいかないよね」
 鳳明の肘撃を、機晶姫は咄嗟に左手のブレードで阻んでいた。
 それでも収穫はあった。片刃の長太刀の表面には亀裂が走っている。
 鳳明は左のつま先を跳ね上げ、機晶姫の顎先を狙った。機晶姫はのけぞるように辛くもこれをかわしたが、鳳明の攻勢はここからである。
 左足の接地を待たずに右脚を振り上げ、機晶姫のトンファーブレードに蹴撃。
 八極拳、連環腿に打ち抜かれたブレードは、今度こそ砕け散った。
 これで敵の武装の片方は排除。鳳明は掴んだままの機晶姫の右腕を振り回し、体勢を入れ替える。
 自分の背後に飛空艇を置いた立ち位置で、機晶姫の胸部へ右肩から体当たり。
「みんな、行って!」
 鉄山靠で機晶姫が吹き飛んだ隙に、後続の仲間たちへ声を張る。
「え、でも……」
 流石に一対一の状況で残していくことに不安を覚えたのが、わずかに詩穂が躊躇した様子を見せた。
 その肩に、セラフィーナが手を置く。
「行きましょう。今の一合で敵もだいぶダメージを負ったはず。鳳明なら大丈夫です」
「……わかった。鳳明ちゃん、すぐ起動してくるから、がんばって!」
「うん!」
 飛空艇に向かう仲間たちの足音を確かめつつ、鳳明は起きあがろうとしている機晶姫へと肉迫する。
 この場は任された。後は、信じてくれた仲間たちを自分も信じ、ここを守り抜くだけだ。

「みんな伏せろッ!」
 鳳明に機晶姫を任せ、飛空艇のすぐそばまで辿り着いた一行の一人、源 鉄心(みなもと・てっしん)は、異変に気づいて声を張った。
 仲間たちを伴って近くの遮蔽物に身を隠し、機晶シールドを展開する。
 響き渡るおびただしい砲声。
 凄まじい衝撃の波が、シールド越しに遮蔽物を震わせる。
「ガトリング砲か……」
 飛空艇船尾から一門のガトリング砲がせり出し、砲身を回転させている。
 口径は二〇ミリ以上、対物火器クラスの凶悪な代物だ。この場にいるのは鉄心を含めて七名。詩穂もシールドを展開してくれているので、なんとか遮蔽物全体をカバーできている。ただ、機晶シールドの強度と石の遮蔽物だけでどこまで持ち堪えられるかはわからない。
 まあ、ガトリング砲がまだ生きていること自体は想定の範囲内だ。鉄心はパートナーのティー・ティー(てぃー・てぃー)に顔を向ける。
「ティー。予定通り、俺たちで引きつけるぞ」
「わかりました」
「引きつけるって……何をするつもりですか!?」
 血相を変えて二人に詰め寄って来たのは秀幸だ。
「言ったままだよ。俺たちであのガトリング砲を引きつける。その間にみんなは飛空艇に」
「危険すぎます!」
「そうでもないですよ」
 穏やかなティーの断定に虚を突かれたのか、秀幸は言葉を噤んだ。
「鉄心も私もそれなりに丈夫ですし、鎧や龍鱗化、盾もあります」
「し、しかし――」
 なおも言い募ろうとする秀幸。
 時間もないし、どう説得したものかと鉄心が頭を掻いていると、不意にシールド越しの衝撃が止んだ。
「あわわわわっ!」
 代わって、左後方から聞き慣れた声……正確には悲鳴。
 声の主が遮蔽物に跳び込んで来ると、シールド越しの衝撃も戻った。
 ヘッドスライディングの要領で鉄心のそばに現れたのは、治療要員として後方に置いてきたはずのパートナー、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)だった。
「うう、ひよこエプロンをしてなければ危うかったですの……」
「い、イコナちゃん?」
「イコナ、お前なぁ……」
 ひよこエプロンの有無で一体どんな危険が回避できたのかはわからないが、ひとまず置いておく。
「危ないから後方で待機しておけって言っただろ?」
「だ、だって……独りぼっちで寂しかったんですもの……ノー・モアお留守番ですのっ!」
 涙目で開き直ったイコナの頭に手を乗せてやりつつ、鉄心は溜息を吐く。
 と、イコナのおかげで妙案が思いついた。
 イコナを持ち上げ、秀幸に向き直る。
「小暮少尉、紹介するよ。俺のパートナー、イコナだ」
「あ、はぁ。どうも……」
「初めまして、ですわ」
「聞いての通り、うっかりここまでついて来ちまった。流石にガトリングの掃射の中を連れ回すわけにもいかない。そこでキミに頼みがある。イコナを守ってくれ」
「え。自分が、ですか……?」
「ああ。俺とティーはやっぱりガトリングを引きつける。このままじゃジリ貧だし、シールドが破られたらイコナも危ないからな」
「それは確かに、そうですが……」
 まだ何か悩む様子の秀幸の肩に手を置き、鉄心は微笑む。
「頼んだ。よし、ティー!」
「はい!」
 秀幸の返事は待たず、鉄心とティーは遮蔽物の外へと駆け出した。
 移動体に反応し、ガトリング砲は砲口を二人へ向ける。
 すでに砲身の移動速度、反応パターンは掴んでいた。
 弾雨をかいくぐりながら、鉄心はガトリング砲を鋭い眼差しで観察する。砲身のやや上にはセンサーと制御装置を兼ねているらしい小型の機械が据えられているのが見えた。
 秀幸たちが艇内に突入次第、あれを潰す。
 自分たちの突入はその後でも十分だ。
 ガトリング砲の照準を引きつけつつ、いつでも狙いを実行に移せるよう、鉄心は腕のアクセルギアの調子を確かめた。
 その瞳には己への慢心も、恐怖もない。
 あるのはただ、仲間たちへの信頼だけだ。

「……急ぎましょう」
 鉄心とティーがガトリング砲を引きつけてくれたのを確認し、秀幸は立ち上がった。
「了解しました」
 応じるなり、秀幸の護衛役、叶 白竜(よう・ぱいろん)は秀幸の身体を小脇に抱え上げた。もう片脇にはイコナも抱えている。
 その扱いに秀幸はやや物申したい気分に囚われるが、自分の身体能力では迅速に甲板へ跳び移ることもままならない。大人しくされるがままになっておく。
 遮蔽物から一行が駆け出すと、ガトリング砲のセンサーと情報を共有しているのか、二体のガードロボが立ち塞がった。
「私が引きつける。小暮少尉、あなたたちは先に」
 そう言って先頭に出たのはクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)である。
「しかし……大丈夫なのですか?」
 敵は二体。
 先輩であり上官でもある彼女には要らぬ心配だと知りつつ、秀幸はつい声をかけてしまう。
「君らが甲板上に跳び移るまでのわずかな時間だ。問題ない」
 冷静な断定を残し、クレアはガードロボたちとの距離を一息に詰める。ガードロボの反応が遅れるほどの鋭い踏み込みだ。確かに問題はなさそうだ。
「舌噛まないようにね」
 飛空艇まで一度の跳躍で取りつける位置へ到達。白竜のパートナー、世 羅儀(せい・らぎ)の忠告と同時に強烈なGが秀幸を襲う。
 飛空艇目がけ加速後、跳躍。わずかな浮遊感を挟んで、着地。周囲を見れば、すでに船尾甲板上である。
 着地音が続々と響き、羅儀や詩穂、セラフィーナも甲板上に到着した。
「それじゃあ、いってらっしゃいー」
「世殿……?」
「オレはここで警備の足止め」
 怪訝そうに眉をひそめた秀幸に、羅儀は両手の拳銃を示して見せた。
「っと、言ってる内に早速」
 羅儀は甲板下に銃口を向け、引き金を絞った。秀幸が下を覗くと、ガードロボが二体、秀幸たちが遮蔽物にしていた石壁の辺りまで迫っている。甲板上へ侵入を許したことで、飛空艇の警備シス
テムが呼び寄せたのか。
「わかりました。我々は先へ急ぎましょう」
 鉄心の時のように言い合っていても始まらない。今度は迅速に、秀幸は判断を下した。
 作戦上、飛び道具の使用はあまり好ましくないが、羅儀はスナイパーだ。
 安定した足場の助けもあるのか、ガードロボの関節部分へ次々と命中弾を送り込んでいく。仮に跳弾があったとしても、拳銃弾なら飛空艇への影響は小さくて済む。少なくとも甲板上から敵の動きを阻害するためだけに使うなら、無視しても問題ない範囲だろう。
 白竜はパートナーの腕を疑っていない様子。軽く目配せしただけで次の行動に移っている。
 秀幸とイコナを甲板上に降ろすと、油断なく周囲を窺いつつ、手近な扉に向かう。素早く解錠。
 ダッシュローラーで突入した詩穂が内部の安全を確認後、秀幸たちも後へ続く。
 自分たちを送り込んでくれた仲間たちのためにも、起動を急がねばならない。
 緊張と、自分でも不可解な高揚を胸に、秀幸は内部の探索を開始した。


   第三章

  1

「のう、本気でやるつもりか……?」
「当たり前だろ」
 魔鎧化したパートナー、カスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)の不安げな問いに、斎賀 昌毅(さいが・まさき)はきっぱりと答えた。
 その手には、登山用の頑丈なザイルが握られている。現在地は発掘現場南側の壁、高さは飛空艇の甲板上が見渡せる位置だ。
 飛空艇直上の天井には、先ほどカスケードが投擲したフランキスカの刃はほとんど壁に埋まっている。柄の部分にはザイルの端がしっかり結びつけられていた。
 昌毅の目的を一言で表すのなら――ターザンだ。
 いわゆるターザンロープの要領で飛空艇に直接飛び移る。ザイルは思った以上にしっかりと固定できたし、不可能ではないはずだ。
「思い直すなら今のうちじゃぞ……」
「おまえも腹くくれって。よし、行くぞ!」
「まあ、無策で突っ込むよりはマシなのかのぅ……」
 何かを諦めた様子のカスケードには構わず、昌毅は思い切りよく壁を蹴った。
 少しの浮遊感の後、ザイルが天井と昌毅の手の間でビンッと張りつめ、昌毅の身体はぐんぐん加速していく。飛空艇の甲板も、あっという間に目の前だ。
「よっし、いけそう……!?」
 後はタイミングよく飛び移るだけ――というところで、嫌なものが目に入った。
 ガトリング砲。
 その砲口が最大仰角、ほぼ直角に近い角度で昌毅を睨んでいる。
 身がまえた瞬間、けたたましい砲声。
「あだだだだだッ!」
 カスケードが魔鎧化とディフェンスシフトで守ってくれているとはいえ、凄まじい衝撃が全身を穿つ。昌毅は必死にザイルを掴み、衝撃に耐えた。
 ガトリング砲の照準が正確なおかげもあるが、ザイルが千切れなかったのは奇跡と言って良い。
 着弾の衝撃でザイルは当初のコースを逸れ、グルグルと飛空艇の前部上空で円を描くように回る。
 飛空艇の各部に取りつけられた何門かのガトリング砲は、昌毅が近づく度にそれを遠ざけるような砲撃を繰り返した。
 図らずも、地上の仲間たちにとって厄介なガトリング砲を一手に引き受けた形である。

「なによアレ……?」
「さあ? でもチャンスじゃない?」
「そうですわね。とにかくこの機を逃す手はありませんわ」
 飛空艇南側。
 上空の昌毅の姿を眺めて呟くパートナー、アム・ブランド(あむ・ぶらんど)本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)早見 涼子(はやみ・りょうこ)のやり取りを背に聞きつつ、マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)は小型飛空艇ヘリファルテの速度を上げた。
 数体のガードロボや機晶姫の間をすり抜け、一直線に目標の飛空艇まで辿り着く。
 ガトリング砲の妨害でなかなか近づけずにいたが、涼子の言う通り、この機を逃す手はない。
 ヘリファルテを降りると、飛空艇を背にしたマーゼンはスキルを発動。まず『庇護者』の使用で、同行している突入班を含めた仲間全体の防御力を上昇させる。次いで『女王の楯』『エンデュア』で自身の防備を固め、『武器の聖化』により武装に光輝属性を付与。
 追ってきたガードロボに肉迫し、強化スーツの拳で一撃を見舞った。ガードロボがのけぞった隙に、身ぶりでパートナーたちへ指示を出す。
 アムは魔法の箒でガトリング砲の近くまで上昇、直上を向いた砲身に手を当て、氷術を詠唱した。
 ミシ、と鈍く軋む音が響く。凍りついた砲身の回転がぎこちないものに変じ、やがて止まった。
 ガトリング砲の沈黙を確認し、『我は纏う無垢の翼』で飛行能力を得た涼子が滞空。甲板上に降り立ち、すかさず光条兵器で眼下のガードロボたちを穿つ。もちろん、光条兵器の攻撃対象はガードロボに限定している。跳弾による飛空艇への被害は心配ない。
 ガードロボもやられてばかりではなかった。
 背面のポッドからホーミングミサイルを放ち、後続の突入班を狙う。
 だがそれすらもマーゼンたちにとっては計算の内だ。
 細かく裁断したアルミ箔をマントに縫いつけておいた飛鳥が、魔女の箒にまたがり突入班とミサイルの間を飛行。戦闘機のチャフの原理でガードロボのレーダーを撹乱、ミサイルを自身に引きつけ誘爆させる。
「今の内に!」
 飛鳥の声に応じ、後続の突入班は次々と飛空艇への距離を縮めて行った。

「オレの太刀、うけてみな!」
 気合一閃。
 マーゼンたちの援護を受けた突入班の一人、橘 カオル(たちばな・かおる)が木刀を鋭く振った。行く手を塞いでいた近接型機晶姫は、辛くもトンファーブレードでこれをしのぐ。
 どうやら容易く倒せる相手ではなさそうだ。
「先に行ってくれ!」
 怒涛の攻勢で機晶姫を後退させ、後続の仲間たちのための道を開く。
 見咎めた機晶姫は追撃に入ろうとするが、眼前に迫った蹴りに阻まれ、再度蹴りの主――カオルへと向き直った。カオルを先に排除すべき敵と判断してくれたらしい。
「カオルさん、気をつけて!」
「おう!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の声を背中で受け、地面を滑るように疾駆。振るわれる両手のトンファーブレードを器用に木刀で受け流し、柄頭で機晶姫の顎先を一閃する。
 後方へ吹き飛ばされた機晶姫はぎりぎりで踏み止まり、地を蹴った。一瞬でカオルの眼前まで戻り、頭上で交差させたトンファーブレードを袈裟掛けに振り下ろしてくる。
 カオルはこれをスウェーでかわし、上体を戻す反動を利用して右脚を振り上げる。鋭いハイキックにこめかみを屠られ、機晶姫は再びバランスを崩した。
 カオルはさらに踏み込み、機晶姫の足元を水面蹴りで刈る。たまらず倒れこんだ機晶姫だが、追撃に先んじて地面を転がり、カオルから距離を取った。
 いける。
 確信を以て、カオルは木刀を握る手に力をこめた。

 カオルの援護を受けた突入班が飛空艇の目前まで迫る。だが、目指す飛空艇側面、貨物搬入用のハッチが自動的に開いたことで、突入班の緊張はにわかに高まった。
「ちょ、予備戦力があるなんて聞いてないよ!?」
「警備システムとしては合理的な布陣だな」
 ルカルカの悲鳴じみた声に、パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は冷静な感想を述べる。
 ハッチからは新たに五体のガードロボが滑り出して来たところだった。
 ダリルに負けず劣らず冷静なのは月島 悠(つきしま・ゆう)だ。
「侵入者が囮を使うことも考慮しているわけか。確かに合理的だ」
「ガードロボか……入学したての頃を思い出すな。よし、ここは俺たちで引きつける!」
 言うなり、朝霧 垂(あさぎり・しづり)は走る速度を上げた。
 真空波で牽制しつつ、ガードロボの一体へ肉迫。仕込み竹箒から刃を抜き、勢いそのまま『疾風突き』を放つ。
 バランスを崩した敵へ追撃を加えようとする垂。その垂に、他のガードロボが襲いかかる。
「たれちゃん!」
 が、ルカルカの放った光条マシンガンの弾幕がそれを阻む。
 流石に五体をそれ以下の人数で相手取るのは危険ではないか。このままダリルたちだけを行かせ、自分もここに留まるべきか――逡巡したルカルカの視界に、こちらに背を向け敵に追撃を加える垂の腕が映った。
 伸ばされた腕の先、右手の親指は空へと向けられている。サムズアップだ。
『ここは任せろ』
 垂が発した無言の、しかし力強いメッセージに、ルカルカは意を決した。
 悠やそのパートナーたちもガードロボとの戦闘を開始している。ここは信じよう。
「ミサちん、ダリル、行くよ!」
「おっけー!」
「ああ。……10分いや5分だ。5分だけ支えてくれ」
 飛空艇内にまだ敵の予備戦力が残っていないとも限らない。
 自分にできることはダリルや朝野 未沙(あさの・みさ)たち、起動担当の人員を内部で守ること。
 改めて目標を定め、ルカルカは飛空艇内へと足を踏み入れた。