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リアクション
「葵〜なに、ぐずぐずしてるにゃ!
タダ券がイングリットを待ってるにゃ!」
開会式が終わると同時に、即行で校門を抜けるイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)。
特徴は、飽きっぽい性格と燃費の悪さかな。
遠足自体は面倒くさいと思いつつも、食券という餌につられて参加を決めた経緯がある。
「うにゅー、いないにゃー」
ゆえに、ほかに興味が移ってしまえば、それまでだ。
パートナーを見失い、周囲をきょろきょろ。
「腹が減っては戦ができにゃいっていうにゃー」
(いまのイングリットには、あんみつ分が不足しているにゃー)
そうして、甘味処へと導かれていく。。。
「これ食べたら再開するにゃ……ジィ〜」
お品書きを、ものっすごい近距離で見つめたら?
「おねぇさん!
白玉あんみつ大盛にゃー」
店外にも聞こえるくらい大きな声で、イングリットは注文を叫んだ。
と思ったら、またもやメニュー表に視線を落とす。
「おねぇさん!
わらびもち大盛追加にゃー」
(お財布の中身なんて気にしないにゃー)
こんな調子で注文を繰り返していたもんだから、机の上は甘味でいっぱいになってしまった。
だが食べるのも早くて、すぐに器は空っぽっぽ〜♪
お店としては、嬉しい反面てんてこまいになっていた。
「葦原にはなかなか来る機会がありませんので、ゆっくり見てまわりたいですわ。
想い起こしてみれば、これまでも用事を済ませるだけでしたものね」
「マホロバ出身の私にとって、それほど目新しいものはありませんが……それでも、この空気は懐かしいですね」
学校から続く大通りを、セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は満面の笑みで歩いている。
幸田 恋(こうだ・れん)も、セシルにつられて笑顔を浮かべた。
「セシル殿の出身は『あめりか』という国でしたよね。
やはり、葦原のものは珍しいのですか?」
「えぇ、そうですね。
洋食や洋菓子は得意ですが、和風の物はあまり詳しくありませんので……和風の料理やお菓子も楽しみたいですわ」
恋さんはマホロバ人ですから、こちらの文化にも詳しいですわよね?」
育った環境が違えば、知っていることも当然異なるわけで。
「少なくとも、セシル殿よりは、ですね。
いつもお世話になっていますので、ここは私が案内とか解説を……」
「本当ですか、嬉しいですわ!」
「がんばりたいと思います」
「よろしくお願いしますわ」
「あ、茶店がある……おいしそう……」
「れっ、恋さんっ!?」
「セシル殿、早くおいでください!」
店外のショーウィンドウを覗きこみ、ぱぁっと明るくなる恋。
嬉しそうに、セシルの手をひき駆け出した。
(ふふふふっ……恋さんも、和食の方が馴染み深いのでしょう。
ここで学んで、今度つくってさしあげたいですわね)
恋を想い、心中で笑むセシルである。
「あのー、ゲイルって人、知らない?」
「え、ごめんなさい、わからないわ」
「お役に立てず、すみません」
「いえ、ありがとう」
入ろうとした茶店から出てきたのは、緋王 輝夜(ひおう・かぐや)。
すれ違いざま、セシルと恋に探し人の行方を問うた。
「ふう……エッツェルのやつがいろんな人に迷惑かけるから、たいへんだよ」
休日であるうえ遠足ということで、城下町はいつも以上に人の往来が激しくなっている。
しかも探し人は、簡単には見つかりそうにないときた。
「ったく、ゲイルって人も、どこにいるんだか……」
これまで数十人に訊ねたが、誰も知らない。
遠足の主旨を聴いたかぎりでは、たとえば変装した本人に声をかけたとしても、真実は明かさないだろう。
「あの馬鹿め……少しはあたしの苦労を知れよな!」
義理の親子のような関係だとはいえ、ともすれば腹も立つ。
輝夜が、パートナーに文句を言っている頃。
「へくしゅっ……風邪か?」
自宅にて、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)がくしゃみをする。
エッツェルは本日も、怪しげな研究にいそしんでいた。
「ごめん、ゲイルって人、知らない?」
それでも輝夜は、質問を繰り返す。
なんとか見つけ出してきちんと謝らなければ、今日は帰れない。
しかし、やはり知らないと言われてしまった。
「ふぅ、また駄目か。
お菓子を手土産につくってきたけど、甘いものって好きなんだろうか?」
包みを膝に乗せ、輝夜は公園のベンチへと座り込む。
中身は、お手製の『芋ようかん』だ。
「ま、とりあえず本人を見つけないとねw」
見つからないのも、なんだか少し楽しくなってきた輝夜。
焦らずゆっくり捜索しようと、次に声をかける対象へ近づいていった。
「ふぅ〜美味しかったぁ」
「そうね♪
このあんみつっていう食べ物、初めて食べたわ!」
甘味処にこだまする、元気な女性達の声。
正体は、ルクセン・レアム(るくせん・れあむ)とリリアン・ネイル(りりあん・ねいる)である。
葦原島のパンフレットを片手に、城下町を散策していた。
「お友達から聞いていたとおり、ここには珍しいものが多いわね」
「うん、うきうきしちゃう!
それに2人でこういうことするのも久しぶりだもんね!」
「そういえばそうかも。
最近、いろいろと忙しかったもんねぇ」
器に残った蜜を綺麗にすくいとって、2人はスプーンを置く。
向かい合って、笑った。
「さ、次はどこへ行く?」
「そうだなぁ……あ!」
「もしかしていま私達、同じこと考えてるかも?」
「せ〜のっ!」
「「学校!」」
「だよね!」
「うんっ!」
そう、2人にとって珍しいのは、城下町だけではない。
支払いをすませたら、葦原明倫館を目指して歩き始めるのであった。
「……葦原に来たからには団子を食わずには帰れん」
腕を組んだまま、柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)はどすんと腰を下ろす。
団子屋の前に置かれている長椅子が、ちょっときしんだ。
「主人、団子をよりどり30人前注文だ!」
注文数を聴き、慌てて店内へと駆け込む主人。
たいして、氷藍は余裕をぶっこいている。
「……ふぅ……やはりこういう場所は落ち着く……」
(ツァンダにも、もっと和風文化があってもいいと思うんだがな)
ゆったり流れる雲を眺めて、しみじみそんなことを感じた。
葦原島の文化が、島外へ進出する日も近いかも?
そして、椅子の端に団子の山。
「ん、やっぱ神社たてよ。
そんでそこに住もう……もちもち…………主人、おかわり」
数人前ずつ出される団子を、出されたそばから食べ尽くす。
皿を返すごと口癖のように発してしまうので、いったい何人前を頼んだのかよくわからなくなっていた。
「にゅふ〜♪
ボク、いまとっても幸せだな〜!
家康とお茶できて!」
「……なんじゃ、遠足には向かぬ天候じゃの……」
氷藍の横では、なにやらかみ合わない会話が。
黒崎 椿(くろさき・つばき)と徳川 家康(とくがわ・いえやす)の2人だ。
椿が話しかけるのを、家康は必死に躱しているようにみえる。
ちなみに天候は、午後から少し下り坂になっていた。
「ねぇねぇ、家康?」
「ん?」
「正直に言ってね?」
「あ、あぁ……」
「ボクのこと……好き?」
「それはつまり……嫁にしろということか!?」
「うんっ!」
「わっ、わしは、貴様の昔の恋人とは違う!
……貴様が望むような恋人にはなれぬ……ましてや、伴侶になど……」
「もちもち……」
(家康のやつ、まだ煮え切らんのか……。
……こいつ、変なところで自己嫌悪したりするしな……。
おおかた、椿の想う『恋人』像を壊したくないんだろう)
団子をほおばりながら、気になるのはパートナー達のこと。
いい雰囲気になりながらも、あと一歩が出ないよう。
(ちょっと脅してみるか……)
「いいか家康!」
「なっ!?」
「こいつはお前のことを想って、牛乳ガブ飲み人体改造までしたんだぞ!?
そんな覚悟も受け入れられん懐の小さい御仁じゃあないだろうが」
「っ……わしは、そのような器の小さき男ではない!」
椿と家康の関係を進展させるため、氷藍は家康を脅しにかかる。
そして、まんまとのってきた。
「……よいか、正直なことを話す。
わしは己の妨げになるのなら、妻も息子も殺すような者じゃ。
それでも構わぬというのなら……わしのそばにいろ。
貴様が我が妻にふさわしいか否か、この眼で見定めてやるわ!」
「本当!?
本当の本当!?
それって好きってことだよね!?
ボク、嬉しくて泣いちゃいそうだよ……!」
「……かっ、勘違いするな!
そばにいろと言っただけじゃ!」
(……お、言えた言えた)
「これでお前らは結婚を前提としたお付き合いの仲ってことだな」
「氷藍、貴様も話を飛躍させるなっ!!」
「家康?」
「なんじゃ?」
「手、繋いでいい?」
「う……まぁ、よいぞ」
「家康、ありがとう。
そしてこれから恋人としてよろしくね。
にゅふ♪」
また1つ、恋が実った瞬間である。
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