校長室
ルペルカリア盛夏祭 ユノの催涙雨
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天の川をわたって いぐさの匂いに気持ちを和ませ、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)とアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)は小雨に濡れる庭を眺めていた。 ここは日本エリア。 朱里とアインはここで七夕仕様の結婚式を挙げようとしていた。 式は一度挙げているから、結婚式というよりは特別な記念の式だ。 朱里の誕生日が7月7日であることと少し時は過ぎたが、おめでたを祝いたいと思った。 妊娠してそろそろ四ヶ月から五ヶ月目に入るか。 そのため、朱里は体をあまり締め付けないデザインの織姫衣装に身を包んでいた。 朱里が体を冷やさないよう抱き寄せるアインは、ふと七夕伝説を思い出す。 「伝承の中の織姫と彦星は、恋に溺れて本来の仕事を忘れ、罰として引き裂かれてしまった。だが、自分達は『二人だけで』生きているわけではない。多くの友人や僕達のところに来てくれた養子、それから朱里のお腹にいるこの子──」 静かに話しに耳を傾けている朱里のお腹にそっと触れるアイン。 朱里は淡く微笑み、その手に自分の手を重ねた。 「多くの人に支えられて、世界に生かされていることを知っている。これを忘れないかぎり、僕達が引き裂かれることはないだろう」 「うん……忘れないよ。この子にも、教えようね。大切なこと、たくさん」 朱里はアインの胸に寄りかかった。 嬉しいことに雨はあがり雲もはれて、縁側から天の川を望めるようになった。 お茶を飲みながらくつろいでいたところに、スタッフが式の準備が整ったことを告げに来た。 案内されたのは、天の川に見立てた蓄光石が見事な庭園。 二人は手を繋ぎ、身を寄せ合って歩きながら地上の天の川を楽しむ。 やがて、淡い光の球をいくつも揺らす笹の前に、斎主と巫女が待っているのが見えた。 二人の前まで行ってわかったのは、笹を飾る光はよくできたガラスの球体だった。中に蓄光石が閉じ込められているのかもしれない。 位置につくと、神前結婚式と同じように斎主の御祓詞から始まった。 神棚の代わりに二本の見事な笹。その手前に玉串案。 斎主の詞が紡がれていくにつれ、朱里とアインは身が清められていくように感じた。 それから、斎主一拝、祝詞奏上と続く。 独特の声調の詞を聞きながら、アインはもう何度もした決意をもう一度胸の内で繰り返した。 ──朱里の生きるこの世界が幸福であるように。 ──二人が決して引き裂かれぬように、謙虚な心を忘れずに。 ──生涯かけて朱里を、朱里が愛するこの世界を守り抜く。 三献の儀はこれらを思いながら、とても神聖な気持ちで臨んだ。 朱里もそれは同じで。 天空と地上の星々の間に、自分とアイン、そして子供達と築く家族の、みんなの幸せを祈り願った。 その思いのまま誓詞奏上を経て、指輪の交換を行う。 二人が選んだのはペリドットの指輪。 お互いの指に輝く透明な明るいグリーンを目にした時、たとえこれからどんなに絶望的な困難が現れても乗り越えていける気がした。 神の代わりに織姫と彦星に玉串を捧げ、斎主と巫女に倣って一対の笹に一礼して式は終わった。 来た道をゆっくり辿りながら、朱里は声が震えそうになるのを何とか堪えて言った。 「あなたがいたから、私はここまでこれた……。アイン、私、幸せよ」 「それは僕も同じこと。君が僕にたくさんの感情を与えてくれたんだ」 「まだ……もっと、これからもたくさん」 「楽しみだ」 「そうだ、まだ言ってなかったね。──その夏彦の衣装、とても似合ってるよ」 何故だろう、その時アインは不思議に思うほど照れてしまった。 神秘的な雰囲気のせいだろうか。 それとも他の理由か。 和装は初めてではないはずなのに。 答えのないアインに朱里は首を傾げ、そして何となく彼の様子から心境を察して微笑むだけに留めた。 その代わり、繋いだ手に少し力をこめる。 それは特に不思議なことではないと言うように。 今日のような日は、好きな人からの甘い言葉はふだん以上に酔わされてしまうのだ。 きっと朱里も同じことを言われたら、と思った矢先。 「先に僕のほうが言うべきだったな」 続いた言葉に、朱里はうっとりと目を閉じた。 明日からまた日常が始まる。 ここはいつも賑やかだから、うつむいている暇はなさそうだ。 それでも下を向いてしまいそうな時には、きっと大切な人が支えに来てくれる。 あるいは自分が。 涙する大切な人のために。 世界中のどこにいても、必ず。
▼担当マスター
浅野 悠希
▼マスターコメント
浅野悠希マスターが急病のため、代筆いたしました冷泉みのりです。 浅野マスターのリアクションを楽しみにして下さった皆さまには、たいへん申し訳なく思っております。 リアクションは基本的に、浅野マスターによる判定とプロットから作成しております。 当時の皆さまの思いを少しでも反映できていれば幸いです。
▼マスター個別コメント