百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第1回/全2回)

リアクション公開中!

【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第1回/全2回)
【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第1回/全2回) 【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第1回/全2回)

リアクション


第20章 アガデ炎上

 目の前で起きたバルバトスの凶行に、だれひとり動けなかった。
 まばたきにも満たない、わずかな刹那。
 肉眼では捉えきれない世界で、その悲劇は起きていた。


 縦横に切り裂かれた胸から一瞬遅れて吹き出した鮮血は雨粒のように辺りに飛沫を散らし、近くにいた者の上にも降りそそぐ。
 悲鳴ひとつ発することもなく。
 がくりと膝をついたアナトの体が横倒しになり、人形のように転がる。
 光を失っていく青灰色の瞳――それが、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)のかなしばりを解いた。

「あ、姐さん!!」
 椅子を蹴倒し、倒けつ転びつ駆け寄ったトライブ。膝をつき、アナトを抱きかかえてその手を握った。
 しかしアナトには握り返す力もなく、手はそのぬくもりを急速に失っていく。
 その胸から流れ出る大量の血がトライブの膝を濡らし、みるみるうちに周辺を血の海と化した。
「姐さん……しっかりするんだ、姐さんっ!」
 ――トラ……イ……ブ…… 
 それはもはや言葉ではなかった。
 血に染まった真っ赤な唇がつぶやいた己の名を、トライブはかろうじて読み取る。

「うそぉ……」
 ルカルカはいまだ目の前で起きた血の惨劇を受け止めきれず、呆然とつぶやく。

「――くそっ!!」
 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は真空波を放ったが、やすやすとバルバトスに散らされてしまった。
「バルバトス様を傷つけることは許しません」
 つかさのパイロキネシスが部屋を扇型に走り、テーブルや椅子を吹き飛ばす。
「優子、ヴァルナ!」
「ええ」
「分かってる」
 島本 優子(しまもと・ゆうこ)は前もっての打ち合わせ通り、すでにオートガード、オートバリア、ディフェンスシフトと次々と発動させて防御を固めており、間近で燃える炎の壁からの余波を防いでいた。
 そして島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)が、荒ぶる力でクレーメックの攻撃力増加を図る。次に幸福の歌を用いようとしたところで、しかし彼女は雄軒の粘体のフラワシに拘束されてしまった。
「あなたは面倒なので、そこで眠っていてください」
「あ……ああ……」
 強烈な締めつけにのどをふさがれ、歌うどころかもがくこともできず、ヴァルナはその場で失神する。

「ヤロゥ!!」
 バルコニーで一部始終を見ていたカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が咆哮し、対物ライフルで雄軒を狙った。
 だがトリガーを引くことはかなわなかった。
 彼は、月明かりで生まれた影を利用してシャノンの影から渡ってきていたマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)の放ったペトリファイによって石化されていた。
「えへへっ。ドラゴニュートの石像のできあがり〜♪」
 彼はそれをちょん、と指で押して、バルコニーから落下させる。


 どれもわずか、数秒に起きた出来事。


「……姫!」
 バァルがそちらへ駆け寄ろうとした直後、横の窓が、まるで真昼のごとき輝きを発した。
 巨大な爆発音が耳をつんざく。
「なに!?」

「バァル!! 外壁に沿ってクリフォトの樹が植えられている! そこから魔族たちが侵入してきているんだ!!」
 扉を蹴り砕かんばかりの勢いで飛び込んできた七刀 切(しちとう・きり)

 同時に。

「姐さん、駄目だ……!!」
 ため息のような息を吐き出して、それきり、アナトの呼吸は止まった。



 窓から見えるのは、都の至る場所で繰り広げられている魔族とコントラクター、騎士たちの死闘を示す光。
 かすかに聞こえてくる、逃げ惑う人々の悲鳴。

 炎上したアガデを前に、震えているのは足下の床か、あるいはわが身か。



 部屋に満ちたのは、バルバトスの哄笑だった。




『アガデ会談 第1回 了』

担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。
 今までで最長の遅刻をしてしまいました。大変申し訳ありません。
 前回からそうではないかと思っていたのですが、【ザナドゥ魔戦記】は、わたしにとってほかのシナリオ以上に力を使うシナリオだということが今回はっきりと分かりました。
 【ザナドゥ魔戦記】が終わるまで【ザナドゥ魔戦記】に集中し、ほかのガイドを出すのは控えさせていただこうかと考えています。


 さて。
 今回のシナリオについてなのですが。ガイドおよびマスコメにも書きましたが、魔族はイナンナの力によってアガデの都の内側には入れません。
 ロノウェ軍・バルバトス軍も来ておらず、アガデを訪れていたのはバルバトス、ロノウェ、ヨミのみです。
 ガイドのラストでバルバトスが話していた相手は魔族でなく、裏切り者たちでした。
 書き方をぼかしすぎたようで、魔族と解釈された方が何人かいらっしゃいました。反省点です。


 第2回はこの続きとなります。
 第1回にご参加いただきましたプレイヤーさんは、それぞれの場所からスタートしてください。
 街・居城・迎賓館のいずれかとなります。
 怪我等も引き継がれます。その上でのアクションがけをお願いします。



 それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
 次回は『【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第2回/全2回)』です。そちらでもお会いできたらとてもうれしいです。
 もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいなぁ、と思います。

 それでは。また。