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第1章 夢安組、始動 1



 森のなかをさまようように歩く男子生徒たちの集団がある。その先頭に、一見すればまともに見える特徴のなさそうな青年がいた。
 彼こそが夢安京太郎。金こそが正義だと信じて疑わない商人気質の青年であり、卑怯、卑劣、悪質といった三拍子の揃った、下馬評で言えば最下位に位置するような蒼空学園の男子生徒である。
 そんな夢安京太郎の頭に乗るのは、カーネと呼ばれる一匹の珍生物。お金を餌とする特異な生態をした蒼空学園のペットだ。ボールのような外見をしたまん丸生物は、『カァ〜♪』と一声鳴いて、餌をくれとアピールしていた。
「ちくしょー、いったいなんだってんだあの暴力女めぇ」
 ひとり愚痴をこぼしながら、手慣れたように彼はカーネにお金をあげる。硬貨をもらったカーネは、それをもぐもぐと喜んで口にした。
 と、肩を落とす京太郎に、後ろにいた男子生徒が言った。
「まあ、そないぶつぶつ言わんでもええやん。ちゃんと写真は撮れたんやろ?」
 葦原明倫館からわざわざ足を運んでくれた日下部 社(くさかべ・やしろ)だ。関東出身のくせに関西弁をしゃべるエセ関西人な青年は、気楽そうに笑みを浮かべていた。
「あのなぁ、だったら――」
 低く恨みがましい声。
 京太郎は、くるりと振りかえった。
「――てめぇもいっぺんオレみたいにボコボコに殴られてみろ!」
「アハハハハハハハ!! な、なんやその顔っ!? おか、おかし……ははっ!」
「笑うなっ!」
 京太郎の顔はなんども殴られたせいか、ゴツゴツとした岩のようになっていた。目元には青あざができて、鼻の穴には鼻血を止めるためにティッシュが詰められている。
 社だけではなく、仲間たちは皆、ゲラゲラと笑っていた。
「ひい、ひい……わ、笑い死ぬうぅ」
「…………」
 同じく京太郎の仲間である羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)は、涙目になりながらも爆笑する。
 唯一笑っていないのはノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)だ。ただ、彼は笑わっていない代わりに、軍人的な気質で音声信号を張りあげていた。
「そのような目にあうとは、精進が足りませぬぞ京太郎殿!」
「ドMのバカでかい機晶姫が言うなよ」
「むっ、それは機晶姫差別というものですぞー!」
「馬鹿っ!? ただでさえお前は目立つんだから、おとなしくしてろ!」
 3メートルをゆうに超えるロボット型機晶姫が暴れると、さすがに巨大な森と言えども木々がぐらぐらと揺れて、怪しいことこの上ない。
 本来はそれをコントロールするのが契約者の役割だろう、と京太郎は思うのだが、今回はノールの契約者であるルイ・フリード(るい・ふりーど)はいなかった。
 ノールいわく、なんでもティータイムを楽しんでいたらしい。
 京太郎は、筋肉ムキムキの彼がお茶を優雅に飲みながら、午後の余暇を楽しんでいるのを想像すると、どことなく嘘くさい気がしなかった。
 いずれにせよ。
 なんとかノールをなだめて、京太郎は仲間たちに向き直った。まだ青あざは目立っているが、さすがに仲間たちも彼の真剣そうな空気を察したのか、それ以上、彼を笑うことはなかった。
「さっきは写真は撮れたにせよ、ちょっと失敗しちまった。今度はそんなドジを踏まないようにいこうぜ。一人はみんなのために、みんなは一人のために」
「そしてチラリズムのために……やな」
 社が不敵に笑って言った。
 京太郎が頷く。
「ああ、チラリズムと……そしてこの世にいる全ての内気な男子のために、だ!」
「足フェチも忘れんといてな?」
「鎖骨だっていけるさ」
 もはや何の話だかわからないが、彼らは頷きあった。まるでお互いの気持ちを確かめるように。
「行くぜ、野郎ども!」
 そして、京太郎は動き出した。