リアクション
● なにやら騒ぎが起きているな、とシェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)は思っていた。 どうやら肝試しに不穏な影が動いているらしい。 スタッフとして見回りをしていた彼は、神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)に視線を送った。着物姿の紫翠が、彼を見返した。 「レラージュと……瑠架が……心配……ですね」 そうつぶやいて、紫翠は騒がしい発信源のもとに向かった。シェイドがそれについてくる。 茂みを越えていった場所で、紫翠は騒ぎのもとを見つけた。 肝試しの参加者たちへ、お化けに扮した男子生徒たちが悪戯を仕掛けているのだ。 半ば呆れた目のシェイドが、男子生徒たちを見定める。するとその視線が、一点で止まった。 「レラージュ……っ」 仲間のレラージュ・サルタガナス(れら・るなす)が、お化けたちに悪戯されていた。彼女たちはお化けが男子生徒だと気づいていないのか、なすがままにされている。 浴衣が乱れて、大きめの豊かな胸がチラチラとのぞき、それをお化けに撮影されていた。 「瑠架も……います……ね」 レラージュとコンビを組んで肝試しに参加していた橘 瑠架(たちばな・るか)も、お化けに悪戯を仕掛けられていた。 レラージュほどの大きさはないものの、形の良い胸が撮影されている。さらに、裾からのぞく脚線も、お化けたちの興奮を誘っているようだった。 「まったく、こいつらは何してるんだ……」 シェイドは呆れ果てて溜息をつく。 そこに、お化けたちが参加者だと勘違いしたのか、紫翠を襲ってきた。思わず紫翠は、距離をとろうとする。 「あら……?」 彼は枝に着物の裾をひっかけて、間の抜けた声を発した。 破れた着物の隙間からのぞくのは、彼の美しい白い肌だった。一見すれば彼は女性のようにしか見えないため、お化けたちのターゲットになっている。 「大丈夫か、紫翠」 すぐにシェイドが屈みこみ、紫翠の乱れた姿をコートで隠した。 こいつの色っぽさはオレだけのものだ。見られてたまるか。と、いうような視線が、お化けたちを貫く。 「何をしてたのかしら? 覚悟できてますよね」 お化けたちが紫翠とシェイドに気を取られている間に、レラージュが彼らの背後にゆらりと立っていた。くすくすと、彼女は底冷えするような笑みを浮かべている。 お化けたちの悪戯は参加者にバレてしまったようだ。 「やっぱりお仕置きなら、これよね」 瑠架が、どこから取り出したものか、荒縄を見せて言った。 お化けたちは当然のように、目配せあってその場から逃げ出す。レラージュたちはそれを追って森の奥へと去っていった。 「やれやれ……」 残されたシェイドは頭を振る。 腕のなかにいる紫翠がこちらを見上げているのに気づいて、彼は優しげに笑みを返しておいた。 ● 葉月 ショウ(はづき・しょう)はのぞき部だ。 しかるに、彼はのぞきは推奨しているものの、盗撮は良しとしていない。 ブラックコートで気配を消して、ダークビジョンで視界を確保。夢安京太郎の仲間である男子生徒たちが、お化けに扮して機を窺っているのを、彼は背後の木の上から監視していた。 (のぞき部の掟……一つ、自分の目で見るべし) ショウは自分にも言い聞かせるように、そう唱えた。 手のなかにあるのは石コロである。それを空中に投げては、キャッチを繰り返す。 茂みにいる男子生徒たちに動きが見られた。 (いまだ) その瞬間、ショウは懐から取り出したパチンコで、石コロを放った。 石コロは男子生徒たちのカメラを破壊した。何事だ! と、口には出さずとも顔をあげた男子生徒たちより先に、ショウは飛び降りている。 「ぐっ」 ショウは男子生徒たちの首に次々と手刀を打ちおろして、彼らを気絶させた。 (これで心おきなくのぞけるなー) 自然と顔はにやけてくる。 退治したのは撮影担当のお化けだけだ。悪戯担当のお化けは反対側の茂みにいる。きっと、これから良い悪戯を仕掛けてくれるに違いない。 ショウはウキウキしながらそれを心待ちにした。 「何してんの?」 「いやー、のぞき部だからさ。やっぱり盗撮はいけないだろ? 女の子へ迫った魔の手を退治して、これで心おきなくのぞこうと思ってね」 頭上から聞こえてきた声に、ショウは何気なく答えた。 だが。 隠密に事を運んでいた自分に話しかけてくる者など、いるはずがない。嫌な予感がしつつも、彼は頭の上を見あげた。 「へー」 肝試しに参加していた女生徒が彼を見おろしている。 その後ろでは、悪戯担当のお化け役が、ピクピクと痙攣しつつ倒れていた。 「えーと…………」 「お前も同じじゃあ!」 女生徒の右ストレートがショウの顔面にめり込む。 倒れゆくショウの頭のなかでは、これまでののぞきが走馬灯のように蘇っていた。 ● |
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