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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(前編)

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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(前編)

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第7章

 夜明けが近づいている。
 街の入口にほど近い場所に、調査隊の協力を得て持ち込んだ資材で組み立てた急造の建物。
「これくらいでいいですか?」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が、屋根にのぼり、『ピースメーカー』と書かれた看板を釘で打ち付けながら聞いた。
「ええ。急いで作ったわりには、なかなかうまくいったのではないでしょうか」
 看板の角度を確認して、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が頷いた。
「しかし……質屋とは、考えましたね」
 ふたりのやりとりを眺めていた本郷 翔(ほんごう・かける)は感心したように呟いた。
「大変だったんですよ。パラミタで宝石やゴールドを手に入れて、こっちで買い手を見つけて資金を増やしたり……もちろん、私たちはよそ者ですから、店を建てるための資材集めだって……」
 はーやれやれと肩を叩きながら、灯が言う。調査隊という組織からのバックアップはもちろん、彼女の奔走があってこそ、よそ者でありながら店を建てることができたのだ。
「だが、誰かが先に苦労しておけば、後々みんなが動きやすくなります。今後は、ここで俺たちがゴルトを換金するのです」
 屋根から降りた武神が言う。さらに言えば、調査が終わった後にここを拠点としてもっと大きな商売を考えているのだが、今は秘密だ。
「ほーぉ。そりゃあ、楽しそうな話じゃのう」
 かつかつとブーツの音と共にルメンザ・パークレス(るめんざ・ぱーくれす)が現れ、立てられたばかりの店を眺める。その背後には、どうやら無法者らしき男達が並んでいるようだ。
「……何か、ご用でしょうか?」
 怪しい空気を察した翔が聞くと、ルメンザはにやりと笑みを作った。
「なーに、簡単なことじゃ。ここで店をやるつもりなら、無法者から脅迫が来るかも知れんじゃろう。そんなときのために、守ってくれるもんが必要やないか?」
 コートのポケットに手を突っ込んだまま、ルメンザが聞く。
「幸い、ジャンゴに反感を持つ無法者らはけっこうおったからのぉ、自分が彼らとの交渉を引き受けてやってもいいぞ」
「場所代を払えてことか」
 と、牙竜。
「人聞きの悪い言い方はよしちょくれ。自分らとしては、ジャンゴからキミらを守りたいんじゃ」
 資金力を背景に、ルメンザは勢力を張りはじめているらしい。方法は違えど、牙竜と同じやり方だ。……少なくとも、今の状況が落ち着くまでは、むやみに対立すべきではないだろう。
「……分かった。でも、もうすぐ客が来ることになってる。少し後で話をしよう」
「おう、分かればええんじゃ。それじゃあ、朝になったら使いのもんをやる」
 そう言って、ルメンザは引き上げていった。
 代わりに近づいて来るものもある。酒場のウェイターにしてサンダラーを追うガンマン、ジェニファー・リードだ。
「ああ、よかった。どうぞ、こちらへ。お茶会の用意は調っております」
 翔が頭を下げ、まだ陳列がされていないピースメーカー』の中に用意したテーブルを示す。
「……あのねえ、一応、あたしは酒場に勤めてるんだけど。お金をとってないみたいだからまだいいにしても、こっちの商売敵になるつもり?」
 酒場があるにもかかわらず、お茶会に呼ばれたジェニファーはいくらか不機嫌な様子だ。それでも、腕を組んで席に腰を下ろした。
「失礼。でも、あの酒場では誰が聞いているか分からなかったですから」
 と、牙竜が言う。
「俺たちの知っていることを、ジェニファーにも知っておいてもらおうと思ったんです」
 やがて、契約者たちが集まってくる。そうして、調べあげた情報がまとめられた。
「……つまり、こういうことですね。
 猛々しき賢者が、この地に『大いなるものを封じたという伝承があった。
 その封印された遺跡がこの世界のどこかにある。
 サンダラーは、もともと市長が雇ったガンマンだった……分かった事は、これぐらいですか」
「それじゃあ、サンダラーは市長と繋がってるってわけ?」
 情報をまとめた牙竜に、思わずジェニファーは怒りの表情を浮かべた。
「分かりません。あくまで、雇われていたことがあるというだけで、今はどういう関係なのか……」
「そう……そうね。でも、あんたたちが来て、いきなりあいつらのことがわかりはじめるなんて……案外、異郷より来たりし者がどうこうなんて伝承も、バカにできないかもしれないね」
 ジェニファーもぽつぽつと呟く。
「俺たちも聞きたい事があります。契約者の中には、大会に何かがあると考えているものも多いですし、サンダラーと戦う必要を感じているものも多い……サンダラーやジャンゴはどんな戦い方をするのか、聞いておきたいんですが」
 言われて、ジェニファーはしばし口をつぐむ。が、翔が茶のおかわりを注ぐ間に何を考えたか、小さく頷いた。
「……あたしだけでサンダラーと戦えないことぐらい分かったわ。それじゃあ、知ってることだけ。
 サンダラーは狙撃手と早撃ちのコンビだってことは分かったでしょ? だから、必ずふたりで一緒に戦う……それから、手や脚を撃たれても、まるでけがなんかしてないみたいに戦い続けるって聞いたわ。
 ジャンゴは手下が裏切らないことを考えてる。だから、一度に何人もと戦えるような武器を使うって聞いたことがあるわ」
「……なるほど。後は、大会に何があるのか……知らなければなりませんね」
「ここを拠点にみんなが動いてくれれば、きっと対策も分かりますよ」
 灯が呟く。それでも、不安はぬぐいきれるものではなかった。


「……んん、なるほど。契約者ってのはそんなに強いのか」
 ジャンゴのアジト。手下からの報告を聞いて、ジャンゴは呟いた。
「腕っ節に加えて、知恵も回る。厄介な連中だ」
 サルヴァトーレ・リッジョが、ジャンゴの呟きに頷いた。
「……だったら、そんな連中が俺様についてくれる幸運を祝うべきだな。なあ、俺様の勘なら、サンダラーはおめえらの誰より強い」
 葉巻をくゆらせながら、サンダラーは告げる。
「だが、俺様とお前たちが手を組めば……何人もの契約者の力があれば、やつらを倒すこともできるはずだ」
 ジャンゴがにやりと笑う。
「大会の朝、お前たちが俺と一緒に広場に来てくれることを待ってるぜ」
 ジャンゴはサンダラーに対抗しうる契約者の力を、封じるよりも利用する手にかけたらしい。
 サルヴァトーレは目を細めて、そう感じていた。
「さて……大会では、いかにすべきか」
 大会の朝は、目前に迫っていた。

担当マスターより

▼担当マスター

丹野佑

▼マスターコメント

 本シナリオのリアクション執筆を担当させて頂きました、丹野佑と申します。
 シナリオに参加していただき、あるいはリアクションを読んで頂き、まことにありがとうございます。

 本リアクションの執筆中、ウイルス性の風邪にかかり、一週間ほど寝込んでいました。
 そのため、大幅に執筆期間が延び、公開が遅くなってしまったことを謝らせてください。
 本当に、申し訳ありませんでした。

 世界の性質上、普段は見られないような様々なアクションが飛び交う展開となりました。
 大きな展開の一部だということもありますが、それ以上にこの第四世界を楽しんでアクションをかけていらっしゃるのが伝わってきて、判定にも気合いが入りました。

 今回も、活躍や内容を踏まえ、何人かの方に称号を贈らせて頂きました。

 さて、後編ではついに大会が始まり、第四世界に眠る謎もさらに明らかになっていく……はずです(もちろん、謎を暴くのは皆さんのアクションです!)。
 暴力あり、謀略ありの第四世界、果たして栄光と勝利を掴むのは誰か……
 ぜひ、自分の未熟なマスタリングを、すばらしいアクションで盛り上げて頂きたく思います。