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謹賀新年。黄金の雨の降り注ぐ。

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謹賀新年。黄金の雨の降り注ぐ。

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1章

「さーーあ、安いよ、安いよ!」
 大通りに威勢のいい声が響いている。
「今日だけ限定発売の福袋だよ! 舌のとろけるあまーい菓子から、美都夢の巾着、紗音羅の帯びしめ、譜羅々の
財布まで、まともに買ったら10ゴルダはくだらねえ品ばかり入って、僅か1ゴルダ! さあ、早くしねえと売り
切れちまうよ!」
 叫んでいるのは伊勢屋の店員だ。いわゆる、苦味ばしったイイ男……というやつがよく響く声で通りを行く人々
に呼びかけている。
「美都夢ですって?」
「譜羅々ですってよ」
 声に釣られて、晴れ着姿の娘達が蜜に吸い寄せられる蝶のごとく店に駆け込んでいく。既に店の中は超満員だ。
 その雑踏の中に緋柱 透乃(ひばしら・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の姿もあった。透乃は鮮やかな赤色の着物
を着ている。明倫館生でありながら、普段は全然着物は着ないのだが、今日は、陽子との今年一発目のデートとい
う事もあり、折角なので着てみたのである。
 店に入ると、さっそく福袋を買った。
「何が入ってるかなー?」
 わくわくしながら袋をあける。すると……そこには、女性用の下着がびっしりと詰まっていた。
「普通の下着かあ……」
 透乃は、少しがっかりしたようだ。
「下着ですか」
 陽子は福袋の中身を見た。そして、少し照れる。あらぬ妄想をしてしまったのかもしれない。
 透乃は言った。
「パンツはいいけどブラは私には小さいね。流石にこういうのにB101のHカップに丁度いいのなんて入ってない
よねぇ……」
 数名の男女がこちらを振り返る。透乃の声が聞こえたようだ。陽子は顔を真っ赤にして言った。
「と、透乃ちゃんこんなところで何を言っているんですか!?」
 しかし、透乃はおかまいなしで……
「陽子ちゃんはどう? って95のGカップにもきついよねー」
 周りから感歎の声が漏れる。陽子は恥ずかしさのあまり消えたくなった。
「それ以上言わないでください! ぅぅ、恥ずかしい…」
 こうして、しばらく福袋の中身を吟味した後、
「それじゃあ、下着売り場へレッツゴー!」
 透乃はさっさと歩き始める。
「下着売り場ですか?」
「うん! 目標は私達に合うサイズのセクシーランジェリーだよ! 福袋で外しちゃったし、私達のサイズだと普
通に買うと高いからねー。この機会に色々買っておきたいね」
 透乃の言葉に、次々と人が振り返った。陽子はますます恥ずかしくなる。
「やめて下さいってば! ぅぅ」
 耳まで真っ赤だ。
 しかし、下着売り場までの通路はとてつもなく混んでいた。
「人が多くて動きにくいですね。はぐれないように手をつないだ方がよくありませんか?」
 陽子は透乃に手をさしだした。
「そうだね」
 透乃は陽子の手を握った。こうして、二人はしっかり手を繋ぎ、離さないようにして進んでいった。
 そして、しばらく行った時……
「!?」
 不意に、透乃が立ち止まった。
「どうかしましたか? 透乃ちゃん」

 陽子がいぶかしげに言うと、
「うん。今すれ違った人、異様に人ごみの中を進んでいくのが上手いなと思って」

 と、透乃は今さっきすれ違った男の背中を見つめた。男は、するすると人ごみの中を進んでいく。伊勢屋の紋の
入った羽織を着ている。どうやら、店員のようだが……。
「それより、下着売り場にたどり着きましたよ」

 陽子が言った。その言葉に我に返ると、透乃はさっそくランジェリーを物色し始める。そして、一つひとつを手
に取りながらじっくりと考えた。

「夜のお楽しみの時に陽子ちゃんを悩殺できるようなのや、陽子ちゃんに着せて思わず襲いたくなっちゃうような
のは買えるかなー?」

 一方、陽子は、気を引き締めながら下着を見ていた。
 下着売り場で商品を眺めたりすることは好きなのだが、陽子は少々妄想癖があるのでセクシーな下着を見てそれ
を着ている透乃の妄想に耽らないよう、必死で自分に言い聞かせていたのである。


 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、今年のお正月は恋人(LC)と葦原で過ごそうと思い、
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)とともに赴いて来た。二人とも振袖姿で一見すると艶やかな着物美人……に見
えなくもない。
 そこかしこで行われているお餅つきや、コマ回しや凧揚げに興じる子供たちの姿、そして華やかな和装で行き交
う人々見ては、やはり葦原の正月は他のところと違って情緒があっていいなあ、といつつ、元気いっぱいに動きま
わっていた。
 セレアナがそんなセレンを窘めている。
「お正月からそんなに飛ばしてると後で息切れするわよ」
「大丈夫、大丈夫、それより見て見て、葦原神社よ! 初詣していきましょうよ!」
「まったく……本当に元気なんだから」
 でも、まあ、大人しくしているセレンも変なので、それでいいかとセレアナは苦笑いした。
 そして、二人は、葦原神社で有名な縁結びの鈴をためし、その後恋みくじや恋愛成就のお守りを買って初詣を済
ませる。そして、しばらく行くと書き初め大会をやっているのに遭遇。そこで悪筆ながら「幸福一番」と書いたり、
ほかに色々しながら正月ムードな葦原の街をブラつく。
 やがて、二人は伊勢屋の前にさしかかった。
 セレンの目に「新年大安売り」と「福袋」の文字が飛び込んで来る。
「行きましょうよ!」
 セレンはセレアナを引っ張って伊勢屋に入っていった。店内は混雑している。
「早く前に行かなくちゃ!」
 二人は人ごみをかき分け、前に進んでいった。
 その時、二人の目にその人ごみの中を、やけに器用に進んでいく男の姿が入った。服装を見ると店員のようだが、
店の使用人にしてはどこか不敵な印象で、わりにイケメン(?)だ。セレアナはその男の存在が気にかかり、時折
そいつに目を向けてながら、前へと進む。
 しばらくして、やっと二人は福袋を手に入れる事ができた。
 ゲットした福袋の中身は、結構高価な着物だった。
「うわー、これマトモに買ったら軽く給料が半分くらい飛んじゃうわよ!」
「結構得したよね」
 セレアナが言う。彼女の袋の中身も同じ、高価な着物と小間物類だ。
「ほんと、ほんと!」
 などとテンションあがりまくりでいると、

「いやあああーーーーー!」

 人ごみの中でいきなり悲鳴があがった。
 見ると、いかにもお大尽の奥様といったおばさんが金切り声をあげて「財布がなくなった」とか騒いでいる。そ
の悲鳴に気を取られていると、今度は店の方で叫び声が上がった。
「売り上げが全部消えてるぞ!」
「ウサギ小僧だ!」
「ウサギ小僧が出たぞーーーー!」
 その言葉にセレン達は振り返る。
「ウサギ小僧? それって、あちこちで噂になってる?」
 振り返った二人の視界に、仮面をかぶった男が千両箱を抱えて逃げていくのが見える。
 そして、セレンの脳裏にさきほどのやけに不敵な男の姿が蘇った。
「そういえば、さっきやけに不敵な印象で、わりにイケメンな店員がいたけど……」
 セレンも同じ人物を思い出してつぶやいた。
「もしかして、さっきのあいつが……」

 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)は、伊勢屋から少し離れたところにある梅坂屋
で福袋を選んでいた。梅坂屋は片島屋とならび伊勢屋にひけをとらぬ大店だ。
「やっぱりこういうのは運が物を言うからね。運試しも兼ねて買ってみるよ」
 そして、陳列棚の上に並べられた福袋を、じっくり選んで手に取った。
「うーん…よし、これだ!」
 さっそく開けてみると橙色の着物が出て来た。
「これ結構いいじゃん。いい買い物したぁ」
 レキは喜んだ。そして、ミアに向かって言う。
「着物自体はお祖母ちゃんから貰った物があるけど、ミアには無いんだよね。だから、丈を調節してミアにあげる
ね」
 すると、ミアが答える。
「着物か……動き難いのは苦手じゃが、レキがどうしても一緒がいいと言うならば付き合っても良いぞ」
「やったー」
 レキは両手を上げて万歳した。
 それから、二人は梅坂屋を後にした。
 「いい物を GETした」と、ふんふん鼻歌を歌いながら帰っていくレキ。
 その道すがら、面を被った男とすれ違った。
「あれ?」
 レキは、ただならぬ雰囲気に振り向いた。既にそこには誰も居なかったが、気配だけは残っている。
 と、突然、前方から声が聞こえる。
「ウサギ小僧! どこにいやがる! おとなしくお縄につけ!」
 声とともに、前方から岡っ引き達が走って来て、二人の脇をすり抜けていった。その後を追って、伊勢屋の店員
達も駆けていく。
「ウサギ小僧? そう言えば、神出鬼没な盗賊が居るって噂を聞いた様な?」
 レキは首をかしげた。そして、さっきすれ違った面の男を思い出す。
(もしかしてあれが噂の…)
 その気配は、まだ、この辺りに漂っていた。それを感知して、ミアが言う。
「わらわはウサギ小僧とやらに興味は無いが、レキとの楽しい時間を邪魔するような輩は放置はせぬ」
 そして、『神の目』を展開。強烈な光とともに、物陰に潜んだウサギ小僧の姿が露に。
「そこじゃ!」
 ミアはブリザートを撃った。氷の嵐がウサギ小僧に襲いかかる。しかし、ウサギ小僧は印を結び氷の嵐を払いの
け、すばやく屋根の上へと逃げた。どうやら、魔法攻撃には強いようだ。見ていると、するすると火の見櫓へと上
っていく。
「あんなところに逃げてしまったぞ」
 すると、レキが銃型HCを取り出して言った。
「あそこまで追いかけるのは大変だね。でも、きっと探している人がいるだろうから、この情報を銃型HCに流し
て皆に伝えるよ」
「そうじゃな。あのような輩に構っている時間が惜しいわ。わらわ達は町の散策を続けよう」



「見つかった!」
 ハヤテは銃型HCを手に叫んだ。レキからの情報がハヤテの銃型HCにも届いたようだ。
 (ちなみに、この銃型HCは日下部家の当主、藤麻から借りたものである)
「どうやら、梅坂通りの火の見櫓に逃げたらしい」
「早速、梅坂通りに行ってみましょう」
 竜胆は立ち上がった。