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リアクション
「自分は!草刈子幸と申します!!何卒宜しくであります!」
武者行列に続き、葦原城前の広場で行われる、演武。
その舞台に立った草刈 子幸(くさかり・さねたか)たちに、群衆からやんやの声がかかる。
先程の武者行列での鷹匠の技を見ていたのだ。
「うおおおおお!燃えてきたであります!さぁツキ殿!」
「ほいほ~い」
朱曉の【三連回転式火縄銃】から撃ち出される弾丸を、《光条兵器》で次々と切って捨てる子幸。
その見事な太刀さばきに、観客から喝采が上がる。
「バ、バクヤどのぉ!」
「ん?なんだ?」
「……は、腹が減ったであります!」
「あ?周りがうるさくて、よく聞こえねぇぞ!」
「腹が減ったのであります!!」
「は、腹って……。大勢の前で、恥かかせんじゃねぇ!演武の最中くらい、ガマンしろよ!」
「そ、それが、既に限界で――」
皆まで言う前に、その場にズデン!と倒れこむ子幸。
しかも子幸の振るう光条兵器が、まるで切れかけた蛍光灯のようにチカチカと明滅している。
明らかに、子幸の力が衰えているのだ。
「ッたく、こんな所でまでおひつ係かよ!あぁ、やってらんねぇなぁ、もう!」
捨て台詞と共に、子幸目がけて紅白の何かを投げつける莫邪。
それを子幸は、フリスビー犬よろしく、跳び上がってくわえ込んだ。
着地した子幸の口一杯に詰め込まれた――はずの紅白の餅が、一瞬で口の中に消えていく。
子幸の、早食いの至芸である。
「旨い!」
途端に、輝きを増す光条兵器。
「バクヤ殿、ツキ殿!ジャンジャン来るであります!」
「わぁったよ!ホレ!」
「ほいじゃあ、ばくやん、ドンドン行くでぇ~」
常に携帯しているお櫃から、ヤケクソ気味に餅を次々と投げつける莫邪。
目にも留まらぬ早業で、弾を込めては撃つを繰り返す朱曉。
交互に襲ってくる餅と弾を、器用に切り捨て飲み込んでいく子幸。
「うううおおおおお!どんどん食ってどんどん舞うであります!」
「わっはっは、こがぁ祭もたまにゃええのぉ!」
「全く、お前らしいバカ芸だぜ!」
群衆の手拍子の中、3人の芸はドンドンピッチを上げていった。
異様な盛り上がりを見せた子幸たちの演武が終わり――。
舞台下で待機するフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)には、心中、期する物があった。
(『葦原一の忍者さん』になるため、先生方に私の実力を認めて頂くために――)
「そろそろ出番だぞ、フレンディス」
レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)の声に、フレンディスは、自分の思いから引き戻された。
「心の準備は、出来たか」
「はい」
「お前の能力は、お前が自分で思っているほど低くはない。ただ、その全力が出し切れていないだけだ」
「それは……、自分でもわかっています」
目立つことが嫌う故の萎縮、思い込みや不注意からくる失敗。そうした『壁』を克服するためのきっかけを、この演武で掴めたら――
今回の参加には、そんな思いもある。
「今日の演武、我も楽しみにしていたのだ。こんな舞台を与えられるチャンスなど、滅多に無いからな。それに――」
「それに?」
「以前から一度、フレンディスと手合わせしてみたかったのだ」
「えっ?レティシアさんが?」
「そうだ。だからお前も楽しめ、フレンディス」
「――ハイ!」
「よし。我は極限まで加減をする気はない。フレンディスも、くれぐれも手加減をしようと考えるな、怪我をするだけだぞ」
「ハイ!」
「では、往くぞ」
舞台への階段に足をかけるレティシア。
フレンディスも、その後に続く。
舞台は、中天高く上がった太陽から降り注ぐ、光に照らされていた。
その光の向こうに、広場を埋め尽くした群衆が見える。その先には招待客たちと、そしてハイナの姿も――。
フレンディスは、レティシアと並んで立つと、群衆に向かって一礼した。
「隠密科所属フレンディス・ティラ」
「並びに士道科所属レティシア・トワイニング」
「日頃の修行の成果をお見せ致したく、演武を披露させて頂きます」
もう一度一礼して、舞台の左右に別れる。
「おぉ、あれがフレンディス・ティラか」
「隠密科の所属らしいぞ」
「隠密って?」
「忍者よ」
「ドジっ子なんだって?」
「だがいざ戦いとなると、別人のように苛烈になるらしいぞ」
フレンディスの《名声》を耳にした見物客が、様々に噂をする――が、フレンディスの耳には、届いていない。
彼女の意識は、既にレティシアに集中していた。
(いざ――参ります!)
【忍刀・封龍刀】と【鉄扇子・華鳥風月】を構え、一直線にレティシアに突っ込むフレンディス。
上段に構えた【碧水翼剣】を、派手に振り下ろすレティシア。
観客への効果を考えて、敢えてオーバーアクションにしてある。
剣の切っ先が、フレンディスを捉えるかに見えたその刹那、フレンディスは力一杯舞台を蹴った。
陽光を背に、フレンディスの身体が宙を舞う。
「なんのっ!」
両腕に、全身の力を込めるレティシア。同時に、剣を力一杯蹴る。
剣が、有り得ない軌道を描き、落下してくるフレンディスへと戻っていく。
既に自由落下に入っているフレンディスに、これは避けられない。
「キャア!」
誰かが、叫んだ。
「ゴッ!」という鈍い音がして、何かが舞台に転がる。
丸太だ。
フレンディスの、《空蝉の術》である。
「覚悟っ!」
レティシアの懐に着地したフレンディスが、もう一度舞台を蹴る。
レティシアの急所目がけ、忍刀が吸い込まれていく。
その攻撃を、振り上げた剣に引きずられた体勢のまま、身体を仰け反らせて躱すレティシア。
舞台にめり込んだ剣を軸にして、勢い良く身体を跳ね上げる。
大きく伸び上がったレティシアの足が、下からフレンディスの顎を襲う。
「なっ!」
咄嗟に、鉄扇を広げるフレンディス。
「くっ!」
鈍い音と共に、激しい衝撃が鉄扇越しに彼女を揺さぶる。
その隙に、レティシアはフレンディスと距離を取った。
この間、わずかに数瞬。
見ている群衆のほとんどは、一体何が起こったのかも分からない筈だ。
「ヤーッ!」
今度は、レティシアの方から仕掛ける。
「たあっ!」
レティシアの連撃を、巧みに捌きつつ、刀で反撃を加えるフレンディス。
一転して、激しい乱打戦となる。
目にも留まらぬ攻防の後――。
「せいっ!」
「はあっ!」
フレンディスの眉間に迫る、碧水翼剣。
レティシアの喉元に突き立てられた、封龍刀。
一歩間違えば、即死しかねない一撃だ。
「「「おぉーーーっ!」」」
群衆から、どよめきのような声が上がる。
両者引き分け、という形で、演武は終わった。
互いに武器納めて一礼し、最後に群衆に一礼して舞台を去る2人。
その背に、惜しみない賞賛が浴びせられる。
「――どうでした、レティシアさん?」
「楽しかった。言いようもなく、楽しかった。お前はどうだ、フレンディス?」
「私もです」
2人は、満足気に笑い合った。
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