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リアクション
海と忍、そしてロビーナは武尊を追って例の扉の前にきていた。
扉の先が不安定なように時々空間が酷く歪むので、距離としてはほんの数百メートルも無い
ここにたどり着くのにも結構な時間がかかってしまったのだ。
それにしても
「これは……どういう事なんだ?」
棚に残されたスタンガン。
床に転がっているさすまた。
武尊は外に出たという事なのだろうか。
「此処に居ても仕方ないでござるな」
「ああ、だな。
高円寺様、他を探そう」
忍に返事をしようとして、海は息を止めた。
――この臭い。化け物が近くにきてるのか?
声で居場所を悟られまいと忍とロビーナにジェスチャーで伝えると、海は反対側の廊下へ向かおうと
指をさし足を進めようとした。
その時
「ぐっ!!」
海の襟に急に衝撃が走り、扉に引っ張られる。
――まさか後ろにも!?
勢いで頭を打って白んでいる目がはっきりしてきて、海は倒れた彼を覗き込んでいる者に気が付いた。
よく見知った顔。
「海君、無事ですか!?」
杜守 柚(ともり・ゆず)。小柄で線の細い、海の何となく気になる少女だ。
「生きて会えて良かったよ」
柚のパートナー杜守 三月(ともり・みつき)は忍とロビーナを中に入れると苦笑しながら扉を閉じる。
「今ので死んだかと思ったがな」
打った頭をさする海に柚は思い切り慌てて居る。
「え? ああ! ご、ごめんなさい!
必死だったからつい」
ちょっとからかったつもりだったのだが。
――かわいいやつ。
海が柚の額に軽くデコピンをはじくと、柚は首を捻って額を抑えている。
「いいよ、オレも柚が無事で良かったと思ってる」
「へぇ〜柚だけ? そりゃ僕はどーでもいいんだろーけどーねー」
三月のからかうような視線に海は誤魔化すようにそっぽを向いた。
「で、ここは?
見た所イベントに用意していたスパークル福豆を保管してた倉庫みたいだが……」
「はい。私も三月ちゃんも良く分からないんですけど」
「あの変な化け物が現れた時にさ、すぐに柚とここに逃げ込んだんだ。
そしたらあいつ等何故かここに入ってこれないみたいでさ」
話の間に海は立ち上がって倉庫の扉を見ていた。
一部がガラス張りになっているはずだが、その部分はマジックかなにかで黒く塗ったかのように
暗くのぞき窓の先が見えないのだ。
「これでよくオレ達を見つけられたな」
「あ、あの……なんて言ったらいいのかな。
たまに霧が晴れるみたいに見える時があって……あ!」
柚が声を上げたのも無理は無かった。
海が覗いていたガラスの部分にまさに霧が晴れたように何かが見えてきたのだ。
その何かは、化け物に襲われる蒼空学園の生徒の姿だった。
海は直ぐに扉を開く。
が、生徒の姿は無い。一瞬の間に空間が違う所につながってしまったのだろうか。
海が諦めて扉を閉めた時――
「は、離すでござるよ!!」
ロビーナを化け物が掴んでいたのだ。
ロビーナはパニックで手足を思い切りばたつかせているので、忍は構えたハンドガンを打てないでいる。
「あの隙に入ってきやがったのか!?」
「ロビーナ様落ち着いて! これじゃ狙えない!」
「こんな状況で落ち着ける訳無いでござるよ!」
「一瞬止まってくれれば撃てるから」
「それがあたいに当たったらどうするでござるか!
ましてそれが顔に当たって傷になったりしたら……そんな事になったらあたい一生お嫁に行けない!!」
二人がやり取りをしている間、三月が既に動いていた。
うず高く積まれた豆の入った木箱の一つを持ちあげ三月は声を張り上げる。
「外・に・出・て・い・けーーーー!!」
そしてそのまま化け物に向かって箱を投げつけたのだ。
木箱は化け物のコメカミに当たり、床に箱の中の豆が散らばる。
手の中に力を込めて居た柚は、それをエネルギー弾にして悶えている化け物に向かって放った。
エネルギー弾は化け物の顔に当たり、そのまま後に倒れる。
しかしその後が意外な展開だった。
「ギィイイイイイイイイイイ」
散らばった豆の中に倒れた化け物は周りの音が全て聞こえなくなるほどの大きな悲鳴を上げ、
のたうちまわっているのだ。
仲間と同じように動揺していた海だが、刀を抜いて刃を化け物の首に突き立てる。
「今のは何だったんだ?」
血ぶりをしながら言う海に、忍が豆の一つを手にとって化け物の腹に置いてみる。
と、既に虫の息だった化け物が子供がイヤイヤをするように首を振り更に苦しみ出した。
「なぁ海、この豆なんなの?
なんだかやけに……神々しい程光ってるけど」
「イベント用に元々現地から調達してきたものなんだが、
その時お祓いをして貰ったとか」
「お祓い? ですか」
「一応福豆だしな。
何か高名な神社だかなんだかでやってもらったとか……」
「とかばっかだね」
「うるせ」
「ふふ」
「笑うなよ」
「ごめんなさい。でもそれでこう……なにか聖なる力が宿っちゃったんでしょうか?」
「可能性として考えられるのはその位だな」
「……うーむ。不思議な事もあるもんだ」
しばしの沈黙の後、柚が小さく呟いた。
「これで皆を助けられないかな」
自分の言葉に皆が顔を見合わせているのをみて、柚は慌ててしまう。
「あ、あのね、ちょっとそう思っ」
「なら入れるものが居るな」
「柚、投げる分はこのマスでいいよね」
「柚様、鞄か何かあるかな?」
「そこに入るだけ入れるでござるよ」
皆の言葉に柚はその日一番の笑顔で答えた。
「……はい!」
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