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リアクション
第2章
ツァンダの一角……空。鈍い輝きを放つ小型飛空艇から、空気にこすれる音を立ててミサイルが放たれた。
「ちょ、ちょっと、本気!? うっきゃあー!」
ミサイルの標的……カノン・エルフィリア(かのん・えるふぃりあ)が急ターンをかけて進行方向を切り替える。そのすぐ横にあるビルにミサイルが突き刺さった。派手に爆風が広がる。
「ひ、人が少ない方向へ行かないと!」
短距離走者のような前傾姿勢。その背後から、さらにミサイルが雨と注ぐ。
「俺の命を狙ったなら、敵だ。……殺す」
飛空挺を操るレギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)が、滑空で速度をつけている。その顔には仮面が張り付いたように取り付けられている。
「仮面を怖そうとしただけだってのに! だ、誰か助けて!」
両腕を激しく振りながらのダッシュ。さすがに、空から狙われてゆっくり身を隠している余裕がない。
しゅぼ、とミサイルが発射された音が背後から聞こえた。
「……ちょっと、嘘でしょ?」
一ダース近いミサイルが一斉にカノンに向けて放たれている。路地に逃げ込めば身は守れるかも知れないが、市街にダメージが出ることは間違いない。
「ったくもう、これで最後にしてよね!」
ビルの上に飛び出したセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、立位の射撃姿勢で次々に引き金を引く。飛来するミサイルを打ち抜き、次々に爆発させる。
「セレアナ!」
「はいはい」
撃ち抜かれたミサイルの爆煙から飛来する撃ち漏らしとカノンの間に飛び出したのは、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。旋回させた槍の穂先で弾頭を滑らせ、カノンを守る。
「あーあ、これじゃあ私まで壊し屋呼ばわりされるわね」
次々に地面をえぐる着弾から身をかわしながら、槍を脇に挟んで槍を構え直す。
「あなた、大丈夫?」
「え、う……た、助けてくれるの?」
レオタードを着た美女に助けられて反応に困る様子のカノン。首を振ると、すでにセレンフィリティの姿はビルの上から消えていた。
「あの仮面にはうんざりだからね。手伝うわよ。さあ、こっち!」
セレアナがカノンの手を取って、細かい路地の間に飛び込んでいく。
「……邪魔をするなら殺すまでだ」
レギオンはつぶやき、飛空挺を加速させる。障害を光条兵器で切り払い、乱暴に路地の中に飛び込む。
「ヒュー。なんだって彼はシューティングゲームのボスみたいになってるの?」
時折槍と身のこなしでミサイルをかわしながら、問うセレアナ。
「最初は、私あたしがあの仮面を被ってしまって。レギオンはあたしを助けてくれたんだけど、もう一つあった仮面を被って……」
「ふうん。なるほどね。もうちょっとがんばれる?」
「う……うん!」
走る二人。追うレギオン。入り組んだ路地に入ったときだ。
「かかったぁ!」
レギオンの飛空挺に、横合いから飛びついてくるものがあった。ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だ。
「……っ!」
生身で飛びかかってくるミルディアに驚いて、レギオンが光条兵器をかざす。ミルディアの体ごとの突きをいなし、飛空挺を取り舵に切って避けた。
「ごめん! 外れ……ったああぁぁ……!」
ドップラー効果と共にその場に取り残されるミルディアを、後から追っていた和泉 真奈(いずみ・まな)が受け止める。
「無茶しないでくださいって、あれほど……」
「あはは……ま、まあ、なんとかなりそうよ?」
と、ミルディアが先を示す。と、いうのも、ミルディアをかわすために舵を切った飛空挺を立て直すため、レギオンの軌道が単調なものになったからだ。
「……っ!」
レギオンの鋭い感覚が前方からの殺気を捕らえる。だが、飛び来るものをかわそうとすれば墜落するしかない。
「そう、良い子ね」
素直なルートを取るレギオンの仮面に照準を合わせて、引き金が引き絞られる。セレアナの誘導により、セレンフィリティの狙撃ポイントに誘い込んでいたのだ。
「……くっ!」
放たれた重いゴム弾が、仮面をはじき飛ばす。飛空挺の運動エネルギーで、前方に放たれる仮面に向けて、セレアナが無造作に槍を突き出した。
ぱきん、と仮面が砕ける音を、カノンは背中で聴いていた。すでにレギオンに向けて走り出していたからだ。
「平気!?」
呆然としながらも、飛空挺をホバリングさせるレギオンに飛びつくように近づく。
「俺は……まさか、そんなことを……すまない」
「な、何謝ってんのよ! どう考えても謝るのは私の方でしょ!」
レギオンの右目の下が腫れている。ばつが悪そうに、セレンフィリティが窓に隠れた。
「実弾使わなかったんだから、私っておとなしいわよね」
「壊し屋のお株も奪われちゃったわねえ」
飛空挺に積まれたミサイルを撃ち尽くした様子にくっくっと笑って、セレアナが言った。
「……怒ってるのか?」
「誰が! 怒ってなんかないわよ! と、とりあえず、治療とかしないといけないでしょ!」
「若いわねえ」
ホバリングする飛空挺を引っ張っていくカノンの背中を見て、セレンフィリティは肩をすくめた。
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