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リアクション
第1章 開園 〜春は遊ぼう〜
少しずつ、少しずつ。
パークに近づくたびに、音楽がはっきりと聞こえてくる。
軽快な、これから始まる素敵な一日を演出してくれているかのような、音楽。
デスティニーランドは、あなたを歓迎している。
「ほら、ルーナ。みんなから離れないようにね。荷物は持った? 今迷子札を付けるから……」
「もう! あたしは大丈夫だから。それよりディアもちゃんと遊ぶんだよ」
ルーナ・リェーナ(るーな・りぇーな)の世話を焼きすぎて、逆に注意されているのはディアーナ・フォルモーント(でぃあーな・ふぉるもーんと)。
ルーナが注意もしたくなる。
今日、ディアーナは【春遊】の友人たちを連れて、ここデスティニーランドに遊びに来た。
世話焼き気質のあるらしい彼女は、友人たち一人一人に気を遣って細かな注意をしていたのだ。
「俺、遊園地初めてなんだよね」
湧き上がる期待を抑えきれない様子の五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)。
「折角だから、めいっぱい楽しみたいよね」
「私も、遊園地は初めてなの。一体何があるのかしら」
「何でも構いません。色々乗れるといいですね」
「それより、何か美味しいものはあるかしら」
同じく、遊園地初体験の羽切 緋菜(はぎり・ひな)と羽切 碧葉(はぎり・あおば)がはしゃいだ様子で口にする。
緋菜はどうやら乗り物よりも食べ物らしい。
「そう! どうせなら目指せ、全アトラクション制覇! ……って、どうしたの、美影?」
「……別に」
びしりと指を立てたテテ・マリクル(てて・まりくる)だが、カメラを持つ眠 美影(ねむり・みかげ)が微妙に不機嫌そうな様子なのが気になって顔を覗き込む。
(二人きりが良かったなんて……わがままよね)
頭では分かっているのだが、いまひとつ素直になれない美影だった。
「そうそう。迷子になった時の集合場所とか、決めておかなきゃな。周りからもよく見える、中央の時計台なんてどうだ?」
ふいに真面目な表情になって時計台を指差すテテに、思わず彼の顔を凝視する美影。
(やだ……今日のテテ、かっこいいかも)
「テテさんすごい、頼りになるねえ!」
尊敬するようにテテの顔を見るルーナに、テテは頭を掻いて答える。
「いやー、オレ、遊園地に来るたびに迷子になってたからね。迷子なら任せろ!」
(あ、気のせいだったわ)
えへんと胸を張るテテに、美影はがくりと肩を落とした。
「東雲のために、全面バックアップの準備は出来てるよ!」
「俺のことはいいから、リキュカリアも楽しめよ」
空飛ぶ箒を構えるリキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)に東雲はつい苦笑する。
「ボクはねー、えっと、絶叫マシンに乗ってみたいな!」
「絶叫といえば、コースターだね! ふっふっふ、この遊園地のコースターはどんなのかなー」
リキュカリアの言葉に即座に反応したのはネスティ・レーベル(ねすてぃ・れーべる)。
そんなネスティ達を見て、アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)はゆっくりと冊子を取り出した。
「あらかじめ聞いておいた皆の行きたい所を纏めて、行程表を組んできた。人気のあるアトラクションは開園直後、もしくはパレードの最中が狙い目だ。まずは、デスティニーランドの奥の方から入口に向かう形で乗り物に乗っていくのが効率的だ」
「さすがアルクラントさん。頼りになるねぇ」
「私もアルクラントさんについて行きます」
仲良く、親子の様に手をつなぎながら天野 木枯(あまの・こがらし)と天野 稲穂(あまの・いなほ)は称賛の声をあげる。
「そうだねー。アル君、頼りになるね……うふ」
何故かアルクラントを見ながらほくそ笑むシルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)。
「わあ、あの門可愛いなぁ」
「ほら清音ちゃん。今から写真撮ってたら皆にはぐれちゃうよ!」
カメラを構える音名瀬 清音(おとなせ・きよね)の手を引くのは【魔道書自称】音名瀬 明音(おとなせ・あかね)。
この二人も、ずっと手を繋いでいる。
「憧れてた遊園地に来ることが出来るなんて、思ってもみなかったなあ。楽しもうね、カノエくん。……カノエくん?」
「あ、あぁ。そうだな」
壬 ハル(みずのえ・はる)の楽しそうな声に、思わず頷く村雲 庚(むらくも・かのえ)。
(……ったく、ハルの顔を見てると、何だかこっちまで楽しくなってきちまったぜ)
あまり乗り気ではなかった筈の庚は、いつの間にか高揚している心に自分でも戸惑っていた。
(デジカメ持った。替えのバッテリーも持った。雨具も、そうだ、チケットは……!)
「う゛ぁるから誘ってくれるなんて珍しいね」
「い……いいだろっ、ばかずら……あ、いや、か、かずらちゃん!」
入園前から既にテンパり状態なのはヴァルベリト・オブシディアン(う゛ぁるべりと・おびしでぃあん)。
今日は気合を入れて愛しの南天 葛(なんてん・かずら)に楽しんでもらおうと考えていたのだが、いざ相手を目の前にするとついつい悪い方向に走り出してしまいそうになる。
(駄目だ駄目だ! 今日こそはちゃんとキメて、好かれるようにがんばらなくちゃいけないのに!)
「この間は再建のお手伝いをしたけど、せっかくだし今回はお客さんとしていっぱい楽しむぞー!」
おー、と一人元気に手を挙げる葛には、ヴァルベリトの空回りはいまいち届いてはいないらしいが……
そしてこちらにも、空回りをしているカップルが一組。
「そ、そのスカート、すごく似合ってる、ぜ」
「そうですか。慣れないの恥ずかしいのですが……」
赤くなりながらミニのタイトスカートを気にしているフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)と、それをなかなか直視できないベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)。
ベルクは舞い上がっていた。
あのフレンディスが、以前の約束があったとはいえ彼女の方から誘ってくれた遊園地デート。
デートという認識が彼女にあるのかどうかはあまり深く考えたくはないが、とにかく、二人っきり。
おまけに駄目元で頼んでみたお洒落の希望にも応じて貰えたし……俺、今が人生の絶頂期?
俺もしかしたら死ぬ? 明日死ぬ?
「……って」
思わず自分の頬を自分でつねってしまい、それはそれで何か違うことにも気づかないベルクだった。
(……あのエロ吸血鬼……ご主人様に何かあったらただじゃおかないんですよ……にしても楽しそうな音楽だなぁ……いやいやいや)
物陰からフレンディスとベルクの二人を眺めているのは忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)。
(そう、決してゆーえんちが目当てなわけじゃないんだ! ご主人様をだな……)
必死で考えながら、しっぽが音楽に合わせて揺れているポチの助だった。
素敵な、春の一日が始まろうとしていた。
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