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朱色の約束

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:対ビショップ・ゴーレム 後方・南東側






「単体になったら、随分と攻撃的になられましたね」
 空飛ぶ箒ファルケでビショップ・ゴーレムの周囲を飛び回りながら、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が独り言のように言った。それを受けて、更に一つ上空で蹂躙飛空艇から状況を見下ろすイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が「そうだな」と応えた。
「マディ・ゴーレムを指揮する存在だ。本来は将として前線へ出るタイプだったのであろうよ」
 今は、その統率を取るはずのキャッスル・ゴーレムが正常に機能していない故に、その真価を発揮していないのだろう、と続けるのに、ふむ、と二人の契約者である非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が、愛機E.L.A.E.N.A.I.の操縦席で納得の声を漏らした。
「それでこのレーザー性能、というわけなんですね」
 連射も早く、射程もそれなりに長い上、球体のせいか発射角が広い。守護者というよりは、確実に攻撃のためのそれである。
「納得していないで、もう少し接近していただかないと困りますわ」
 サブパイロットの席で、ぷう、と頬を膨らませ気味にそう言ったのは、火器担当のユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)だ。ビショップを攻撃するのに、最も有効な武器を測りたいところなのだが、E.L.A.E.N.A.I.が中々こちらの武器の射程まで接近しない、いや出来ないでいるのだ。
「そうは言いますけど、レーザーの連射速度が速すぎるんです」
 ノータイムで射出されるレーザーは、気を抜けばコクピットを撃ち抜かんとばかりの正確性で次々と繰り出されてくるのだ。距離を取っていても紙一重でかわすのが精一杯で、接近はかなり困難を極めているのだ。
「もう少し、何か……ビショップの意識をそらせるものがあれば」
 僅かな焦燥を滲ませたのは柊 真司(ひいらぎ・しんじ)だ。ゼノガイストの操縦席では、
ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)も難しい顔でビショップのデータと睨みあっている。
「イコン二機の火力では、撃破は難しいです」
 二機とはいえ、攻撃力や回避力に不足があるのではないが、問題はこのレーザーだ。攻撃に転ずるためには、囮となるものが必要だが、仮に一方が囮になったとしても、有効射程内に入ればビショップの猛攻は攻撃側にシフトしてしまうのだ。軍勢を率いるブレインではあるが、思考構造は単純であるのが、今は逆に災いしていると言えた。
 そんな、じりじりと焦燥に近遠たちの表情が険しくなろうとしていた、その時だ。皆が認識していなかった方向からの一撃が、宝玉に着弾した。
「誰です?」
 近遠が目見で見回したが、姿は見えない。それもそのはずで、サオリ・ナガオ(さおり・ながお)はカモフラージュで身を隠していたのである。急な要請でイコンへ搭乗が間に合わなかったために、持てる力を総動員し、生身のまま現場にかけつけてきたのだ。
「宝玉を狙うだけなら、歩兵でも可能なはずですぅ」
 火力が必要なんでしょう、と続けるサオリの言葉に、柊と近遠は殆ど同時に同意の声を上げた。そんな中、サオリのパートナーである藤門 都(ふじかど・みやこ)だけは、やや呆れたように息をついていた。
「全く、そのお人好し加減は困ったものですよ」
 ビショップに接近するまでは同行していた都は、今は巻き込まれるのを避けてやや距離を取っているところだ。
「宝玉を狙っていたら返り討ちにされた、なんてことの無いようにお願いしますね」
 心配しているのにしては、微かに毒の混じったような言葉を背に受けながら、サオリは続けざまに宝玉を狙撃していく。一撃、二撃。勿論それを黙って受けるようなビショップではないが、カモフラージュによって姿が見えないために、狙撃を受けてからその方向へ反撃するため、そのラグのせいでサオリに中々当たらないのだ。
「これなら……いけるかもしれませんね」
 近遠が呟き、機体を加速させると一気にビショップへと距離を詰める。果たして予想通り、対象が増えたことで認識力が落ちたのか、レーザーの速度がやや落ちてきている。これなら回避と同時の攻撃も可能だ。
「圧していきますわよ……!」
 それに目を輝かせたユーリカが、次々に火器を切り替えてビショップへと砲撃を開始した。
 そうやって、じりじりと、火線とレーザーの間隙が同調していくのをカウントしながら、どの位待ったか。
「……次、3秒後にブランク!」
 レーザーと味方の攻撃との相殺によって、一瞬生まれたその隙。精神感応によって言葉より早くヴェルリアから伝わったその瞬間に、柊のゼノガイストは飛び出していた。
「行くぞ……っ」
 武装をパージし、軽減した分増した速度で一気にその距離を詰めると、エナジーバーストでビショップ・ゴーレムに正面から激突した。凄まじい衝撃が襲い掛かり、機体が悲鳴をあげるようにアラームを響かせたが、柊は止まらない。
「止められるなら…止めてみろっ!」
 怒号一声。全てのエネルギーを込めて、突き出されたファイナルイコンソードは、宝玉の中央へと突き立った。

 ビギッ、とガラスの割れるような響きと共に粉々に砕け散り、エネルギーを使い切って中破した機体の沈黙するのと同時に、その体もまた、土塊へと還っていったのだった。