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リアクション
「以上が、ここ最近の『金の道』の様子です」
空京大学にある一室にて、源 鉄心(みなもと・てっしん)は緊張した面持ちで、プロジェクターで映像をスクリーンに映していた。
「ふむ。ティフォン学長の仰っていた通り、アトラスの傷跡の麓は蛮族が集っているのだな。やはり、早急に対処する必要があるだろう」
空京大学教授であるアクリト・シーカー(あくりと・しーかー)が、眼鏡の奥から鋭い眼光を覗かせながら、先ほどの映像を視聴していた。
「ともあれ、ありがとうである。君の持ってきた資料のおかげでセイニィ達を動かす決心がついたのだよ」
「あのう、アクリト教授。その件で少しお話をしたいのですが……」
鉄心が恐る恐るといった表情で切り出してきた。
「ほう、まだ私に何か用があるのであるか? 君のような賢い者の意見は是非聞きたいが、今はわずかな時間のロスが命取りになるかもしれぬ事態である」
「は、はい。では手短に説明します。アクリト教授は金の道を武力で保護しようとしていますが、その方法では短期的には蛮族たちから金の道を守れたといても、長期的にはむしろ金の道を危険に晒す事になると思います」
「……ふむ、どうしてそのように思ったのであるか?」
アクリトは静かに、しかし迫力のある低い声で尋ねる。
「き、金の道に集まっている人々には、どうやら二種類いるようなのです。一つは、パラ実生を名乗る蛮族たちが、聖地巡礼と言って訪れています。もう一つは、金の道には財宝が眠っていると考え、盗賊団まがいの連中もいるようなのです。そんな状況の中で金の道の防衛を固めたりしたら、『やはりあそこには凄いお宝があるに違いない』と考えるでしょう……。例え最初の盗賊団を撃退出来たとして、それが第二第三の盗賊団を呼んでしまう事になると思うのです」
「なるほど……つまり君がやりたいのは、『北風と太陽』という訳だな」
鉄心の考えを先読みしたアクリトが、そう言い放つ。
「っ、さすがアクリト教授、話が早いですね。そうです。俺は金の道を武力でガチガチに固めて防衛するよりも、いっそのこと観光地化を推し進めてしまい、下手な憶測が飛び交ったりするのを防止し、さらに一般の観光客を集める事によって犯罪に対する監視にも繋がって良いのではないかと思っています」
「実に筋の通った賢い意見だ。しかし、その方法には一つ抜けている部分があるのだよ」
「……具体的にはどの部分でしょうか?」
「ふむ。君の意見は長期的には確かに正しいかもしれない。しかし、一つの土地を観光地としてブランディングし、人を呼べるようになるまでには長い時間を必要とする。その間、武力を使わずに一体金の道をどうやって守るのだね?」
「そ、それは……」
アクリトの言葉に、鉄心は思わず黙って考え込んでしまう。気まずい沈黙の時間が流れ出しそうになった瞬間、部屋のドアが勢い良く開けられた。
「ちょっと!! 先ほどから聞いておりましたら、アクリト教授はちょっと一方的なのではないですかっ!」
「イ、 イコナ?! キミは待機してくれと頼んでいたじゃないか」
鉄心のパートナーであるイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が、小さい顔を赤く上気させながらアクリトの前に迫っていた。
「ああ……もう、イコナちゃん。鉄心の言うとおり、ここは私たちが出ていっても話し合いは良い方向に進みまないよ」
鉄心のもう一人のパートナーであるティー・ティー(てぃー・てぃー)が優しく諭そうとするが、イコナはそれでも引こうとしない。
「鉄心が観光地を作るって言うから、観光名物のお土産にしようと、くまやペンギンやひよこのぬいぐるみをたくさん作っておりましたのにっ!」
「き、君は源鉄心君のパートナーであるイコナ・ユア・クックブックだね……す、すまないが一旦私から離れて話してくれないか」
イコナを鉄心とティーが必死に止めようとしている中、彼女に迫られているアクリトの方はというと、先ほどまでの冷静な態度から打って変わり、おろおろと狼狽したような表情を浮かべている。
(あ! もしかして、アクリト教授が女性に弱いという噂は本当だったのか?!)
いち早くアクリトの異変に気付いた鉄心が、イコナの背後にこっそりと近づいていく。
「……イコナ、その調子だ。もっとアクリト教授に近づいて話してくれ」
「うん? よく分からないけど、了解しましたわ!」
イコナはアクリトの忠告が聞こえない振りをして、グイグイと彼の目と鼻の先にまで距離を詰めていく。
「金の道を観光地にするという鉄心の作戦にも耳を貸してくださいっ」
「私も、金の道は素敵な場所だと聞いているので、どうか争いが起こらないように対処してほしいです」
ここぞとばかりにティーも話に加わり、アクリトへの女性包囲網を強めていく。
「し、しかし……観光地にするまでの時間、どうやって金の道を防衛すればいいのだい?」
「アクリト教授、それでしたら基本的に専守防衛という方針にするのはいかがでしょうか? 金の道はアトラスの傷跡の麓にある洞窟の奥ですから、洞窟の内部にだけ警備や罠を設置しましょう。蛮族や盗賊団の襲撃をやり過ごしている間に、観光地化に向けての準備を進めるのはいかがでしょうか」
「ふむ……」
鉄心やティー、そしてイコナがじいっと見つめる中、考え込んだアクリトはしばらくして重い口を開いた。
「……良かろう、君たちを信じて出来る限りの協力はしよう。ただし、これは金の道防衛作戦の一部にすぎない。もし不測の事態が起きた場合には、すぐに作戦は変更されるかもしれないという事をよく覚えておいてくれ。だが、私は君たちに期待している。頑張ってくれたまえ」
アクリトはそう言い、足早に部屋を後にした。
「やりましたわね、鉄心!」
「イコナちゃんが急に飛び出した時はどうなる事かと思いましたけど、上手くいってよかったです」
「いやあ、これもイコナやティーのおかげだよ。だけど、アクリト教授の言うとおり、俺たちの計画は何か不測の事態があった場合にはすぐに頓挫してしまうだろう。だから、出来るだけ急いで準備を進めようっ!」
「「「おおーっ!!!」」」
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