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金の道

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金の道

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 暗闇の中でヒタン、ヒタンという足音だけが響いている。足音は時折消え、しばらくするとまた再開される。

「ジェイコブ、この洞窟は随分と長いのですね」

 フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)は、パートナーであるジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)に呼びかける。

「ああ、火山が近いからてっきり溶岩洞かと思っていたのだが、どうやら規模が大きくなりがちな鍾乳洞の方だったようだ。この手の洞窟には、全長数百キロメートルに及ぶ巨大洞窟も存在するが、ここがそうでない事を祈ろう」

「ふふ、数百キロもあったら出る頃にはおばあちゃんになっていますわね」

「フィルのような美人と老後まで過ごせるなんて光栄だな」

「ふふっ、まさかこんな薄暗い洞窟で口説き落そうとしていますの?」

 二人は軽口を叩きながら、一方で素早く効果的に罠を仕掛けていく。そして、しばらく洞窟を歩いていると、少し開けた場所にたどり着いた。

「あら、上の方に大きなつららの様なものがたくさん出来ていますわよ」

「ああ、あれは石灰石を含んだ地下水が固まった鍾乳石と呼ばれる代物だ。随分と大きくなっている所を見ると、相当長い年月をかけて育ったのだろう」

「ふふっ、ねえジェイコブ。ここに罠を仕掛けませんこと? きっと盗賊団たちもこの見事な鍾乳石には目を奪われて、足元がお留守になるでしょ。だから、アロースリットのような床を踏むと発動する罠を張っておけばきっとかかってくれますよ」

 フィリシアは悪戯好きな子供がするように、茶目っ気たっぷりに話した。

「まったく……フィルの想像力にはいつも驚かされるよ」

 ジェイコブは苦笑しながらも、罠を仕掛け始めた。


 一方、洞窟内で罠を仕掛けていた人間は他にも存在していた。

「ねえ、友哉。本当にこんな罠で蛮族さんたち引っかかってくれるかなぁ?」

 巽 友哉(たつみ・ゆうや)のパートナーであるイオン・アクエリアス(いおん・あくえりあす)が、心配そうな表情で宝箱を見つめている。

「罠の仕掛け自体は完璧なんだ。あとは、イオンの持ってきた釣り餌が効果を発揮してくれれば問題ない」

「大丈夫ですよ、イオン。あなたが拾ってきたガラクタ……もといお宝をこの中に入れれば、きっと罠にかかってくれますよ」

 友哉のもう一人のパートナーリーゼロッテ・ルーデル(りーぜろって・るーでる)も、イオンを勇気づける。

「そうかなぁ……? 私にはどうしても魅力的な物には見えないんだけど」

 不安げなイオンの視線の先にあるのは、アニメ調の絵がプリントされている大量のカードであった。

「だってこれ、この近くでビニール袋に詰め込まれて不法投棄されていたんだよ。誰も欲しがらないと思うけど……」

「だが、実はこのカードたちは十年ほど前に発売され、当時はとても人気があったんだ。しかも、ここにあるのは流通量の少ない初期に発売されたものばかりだ。現在では価格が沸騰し、一枚数十万円で取引されたケースもあるらしいぜ」

「え?! そんな高価なものだったんだ」

「ああ、思い出しましたわ。ちょっと前に子供たちが夢中になって集めていましたわね。ねえ、そんなに高額で取引されるなら、多少拝借してもいいんじゃないのかしら?」

 リーゼロッテが抜け目なく、あるいはお金にくらんだ目でカードに視線を向ける。

「……ところが、残念なことにこれはレプリカなんだ。捨てられていたのも、偽物を掴まされたと分かった人間が怒ってやったものだろう」

「ええーっ? それじゃあ、お宝じゃないよね」

「慌てるなよ、イオン。こんな薄暗い洞窟の中で、パッと見で偽物かどうかなんて判断出来る訳ないだろ? どっちにしろ、効果は同じって訳さ」

 友哉はそう言いながら、カードを空の宝箱に詰め込んでいく。

「なんだか、蛮族さんたちを騙しているようで気が引けるなぁ……」

「そもそも、罠にかけるのだから騙した者勝ちなのよ」

 リーゼロッテに促され、イオンもしぶしぶカードを詰め込み始めた。


 また別の場所でも、罠を張っている人間がいた。しかし、ここの罠は一風違っているようで――

「ピッカピカのツルッツルにしとくんやで!」

 威勢のいい声をあげながら、奏輝 優奈(かなて・ゆうな)はシーアルジストとしての能力を使って召喚した兵長・スサノオや従者の特戦隊、メカ優奈たちに指示を出し、自分はゆったりとしたリクライニングチェアに腰掛けて優雅にフルーツカクテルを飲んでいた。

「優奈! あなたも動きなさいよね」

 優奈のパートナーであるユニ・リヒト・クラーメル(ゆに・りひとくらーめる)が、精神感応のスキルを使って離れた場所にいる彼女に呼びかける。

「わっ!? ユニ、お前聞いてたんかい」

「ええ、ばっちり聞いていましたとも! あんた、あたしに一人で地下水脈を探させておいて、呑気に休憩してるんじゃないわよっ。第一、召喚獣が使っているヤスリやスコップも、あんたが座っているイスや飲み物やら何もかも、あたしがパンドラの鞄に詰め込んで持ってきたものじゃない!」

「堪忍してや〜ウチかて、召喚やら指示出しで体力使っているんやで?」

「だったら、なんで全然息が上がってないのよ! こっちはさっきから延々と洞窟を歩いてクタクタだってのに」

「わ、分かったから! ゴッドスピードやパワーブレスを使ってスサノオを強化しておくから、そんなに攻めんといてよ。それに、そっちの方こそ頼んでた地下水脈は見つかったんかいな?」

「ええ、ダウンジングを一人でず〜〜〜っと使ってようやくさっき見つかったわよ」

「よっしゃ! やったでユニ、ここと地下水脈を繋げれば、落とし穴に嵌った連中は自動的に外に排せつされるって訳や! あはは、しかも落とし穴に気付いて飛び越えようとしても、その先はウチが作った長くてツルッツルでピッカピカの登り坂が待ってるんやで! あっはっはっ!!!」

 優奈が高笑いをした瞬間――ゴッドスピードで高速化したスサノオの動きに耐え切れず、持っていたヤスリが根元から弾け飛び、リクライニングチェアの脚を襲う。

 ガキン

 鈍い金属音が辺りに響き渡り、そして、脚が折れたリクライニングチェアから優奈が落下した。

「うわあああああっ!!」

 そのまま体勢を崩し、落とし穴に突っ込みそうになった優奈は、なんとか体を立て直そうとするが、手に持っていたフルーツカクテルが零れて足にかかったのに驚き、そのまま穴に落っこちそうになる。が、すんでの所で穴をジャンプで飛び越えることに成功する。

「ふぅ……危なかったでぇ」

 優奈が一息つく。しかし、すぐに何かがおかしい事に気付いた。

「って、なんでウチの体がどんどん穴に近づいてんねん! あっ……落とし穴の先はツルツルの登り坂やった……」

 必死で優奈は坂を登ろうとするが、磨き上げられてツルツルになった地面のせいで無情にもずり下がっていく。

「はあ……自業自得ね。まだ地下水脈に繋げていないから流される心配はないけれど、たっぷり土にまみれなさい、優奈」

「そんな事言わんで助けてや!」

 そのまま優奈は最後まで大声をあげながら、ズルズルと落とし穴に落ちていった……


「うん? どこからか悲鳴が聞こえたような……」

酒杜 陽一(さかもり・よういち)が罠を仕掛けている最中、物音に気付いて顔をあげる。しかし、ランプの光がぼんやりと照らす周囲以外は何も見えない。

「気のせいか……」

 気を取り直した陽一はひたすらに罠を仕掛けていく。

「これも、アムリアナ様の思い出の地を守るためだ」

 陽一は黙々と、しかし熱心に作業を続けた。落とし穴にシビレ粉、そしてローリングストーンやどぎ★マギノコのエキスを使った罠など、あらゆる罠をあらゆる場所に設置していく。彼のような勤勉な人間の支えのおかげで、アムリアナの聖廟は守られていたと言ってもよいかもしれない。結局、陽一は用意していた罠がなくなるまで、ずっと作業を続けた……。