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リアクション
『道を切り拓く者たち』
(魔族……今では久し振り、とさえ思いますね。
ここ最近は大人しくしていたようですが、どのようにしてあのような建造物を作り上げたのでしょう)
イナテミスの市街地を背に、赤羽 美央(あかばね・みお)がここからでも見える『メイシュロット+』を見上げて思う。自分が『雪だるま王国』に篭っていた間に、悪い奴が魔族に力添えしたのだろうか、そんなことを思う。
(……ですが、私も前とは違います。今の私はそう、魔槍少女スノークイーン。相手がお化けの類いでなければ、怖れることなどありません。
……問題は、どうやってあそこまで行くか、ですが)
あの高さまで上がるには、手持ちではどうしようもないなと美央が思ったところで、
「おぉ……懐かしい、人の営みの灯り! 余りにも久し振りすぎて泣いてしまいそうです!」
見た目からして、長い間さまよってましたと言わんばかりのルイ・フリード(るい・ふりーど)が、ううっ、と感極まって泣いていた。
「……おや、そこにいるのは美央さんではないですか。お久し振りです」
ぺこり、と頭を下げるルイに、懐かしいものを覚えつつも美央は、あえて『スノークイーン』として振る舞うことにする。『雪だるま王国女王』はまた今度、自分が落ち着いてからにしよう。時間がかかってもきっと、彼らなら温かく迎えてくれるだろうから。
「いえ、私は魔槍少女スノークイーンです」
「おっと、そうでしたか。人違いすみません、似ている人にそっくりでしたので」
美央の言葉を、ルイはあっさりと信じる。そんなところも変わらないな、そう思いながら美央がルイに尋ねる。
「ルイさん、あそこまでの行き方、ご存知ですか?」
「ん……!? な、何ですかあれは!? 私が迷っている間に随分とクライマックスですね!?」
今知りましたと全身で表現するルイ、これではメイシュロット+への行き方など知るはずもないだろう。
「よぉ、テメェらの顔を見るのも久し振り、だな。こんな時でなきゃ、ちったぁ思い出話に耽ってもいいが、そんな暇はねぇみてぇだな」
二人にとって聞き覚えのある声が聞こえ、振り返った先にはイルミンスールの『守護龍』、ニーズヘッグの姿があった。
「ニーズヘッグさん!」
「ルイ、ミオ、ちょっと付き合え。世界樹の真上にクソ邪魔なモン浮かべやがって、一発デカイのお見舞いしてやる」
●メイシュロット+
ノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)の放った高出力のビームが、地面と建物を抉り、破壊しながら羽を持つ魔族を襲う。
「まったく……せっかく可愛い子達を見たり、ルイの義娘殿をストー……ゲフンゲフン、見守ったりして我輩の桃色メモリーが順調に埋まっていたのに、水を差された気分であるよ。そんな紳士ではない輩には、仕置きが必要であるな。我らが世話になっているイルミンスールの為、我輩のすべてを尽くそう」
「最後だけカッコいい事言っても、全然決まらないよねー」
ノールにツッコミを入れて、シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が召喚した雷鳥、炎鳥らを向かわせる。放たれる電撃や炎は一旦は魔族の足を止めるが、致命的な損害を与えるには至らない。傷を負った者が一度後方に退き、代わりを別の魔族が埋める。
「遠慮なんてしないって思ってたけど、全力じゃなきゃこっちがやられちゃう、ね!」
セラの放った魔力弾を同じく魔力弾で相殺し、羽を広げて魔族が飛び込んでくる。
「セラ殿には行かせぬ!」
間にノールが割り込み、振るわれた槍をアームで受け、もう片方のアームで殴り飛ばす。
「あ、ありがとう。……大丈夫?」
「……なあに、この程度、なんともないのであるよ」
何ともないようにノールが口にする、実際は片方のアームは機能を停止し、全身に響いた衝撃はあちこちに影響を及ぼしていたが、それら全てをノールは無視した。
「我輩のメモリーに蓄積された桃色メモリーが、我輩に力を与えてくれるのである! ルイ殿が来るまで、持ちこたえるのである!」
「言葉選べば、女の子にモテるんじゃないかなあ」
「これが我輩の、譲れぬ矜持であるよ」
未だに戦力を保っている魔族へ、二人が立ち向かう覚悟を固めた直後、
『――――!!』
どこかで聞いたことのある咆哮が響き、そして飛んできた白と黒の球が魔族の一群へ着弾、凄まじい衝撃と破壊をもたらす。
「な、何事であるか!?」
「ノール、見て! 上!」
セラが示した先、羽を羽ばたかせた龍がメイシュロット+上空を旋回する。
「我輩たちを助けに来てくれたのであるか?」
呟いたノールは、迫って来る敵の気配に視界をそちらへ振り向ける。槍を構えて突っ込んでくる魔族の顔が見え、
「チェストオオオオオォォォォォ!!!」
上から『落ちてきた』何者かの一撃で、地面に埋められるのを目の当たりにする。
「セラ、ガジェットさん、ご無事でしたか!?」
深く開いた穴から太くたくましい腕が伸び、ルイが穴から飛び出る。
「おぉ、ルイ殿! 我輩は必ず来てくれると信じていたのであるよ!」
その姿を認め、ノールが喜びの声をあげる。が、再会を喜びあう間もなく、仲間を葬られた魔族が報復とばかりに迫る。
「相手が同じ槍遣いであるなら、負けるわけにはいきません!」
繰り出された槍を自らの槍で防いだ美央が、敵が身を引く前に踏み込み、肩口に痛打を浴びせる。
「女王サマも!」
「……いえ、私は魔槍少女スノークイーンです」
ルイに対しての時と同じことを口にした美央が槍を構え直し、同じく槍を得物にする羽持つ魔族と相対する。
(魔槍少女はガン攻めがモットーですが、今の私はイルミンスールや仲間を守る騎士でもあります。
つまり、攻防一体の動きをしなくてはいけないということです)
それを可能にする魔槍少女は、自分の他にいるだろうか。いや、きっといない。
「……戦いを止めてくれるのであれば、手は出しませんよ?」
それは本心でもあった。戦いこそすれ、命を奪う事はしたくない。契約者はその気になれば簡単に出来てしまうからこそ、決してしてはならないことだと思う。と同時に、目の前の魔族にとっては挑発に聞こえるだろうとも美央は思っていた。そして予想通り、魔族は自分に標的を定め、槍を構える。
「仕方ありませんね……では魔槍少女の『魔法』、特別にお見せしましょう」
今この瞬間に『マジックソードプレイ』と名付けた魔法(という名の無属性攻撃)で応戦する美央。
「ニーズヘッグさんから聞きました、イナテミスでとても楽しいお祭りが開かれていたと。そんな幸せなひとときを壊そうとするなんて、相応の覚悟は出来ているとみていいですよね?
私はその覚悟に敬意を払い、全力で相手させていただきます! この鍛え上げた身体は、明日への平和のため! 魔族さんとの戦いをここで終わりにするため!
ルゥゥゥゥイ、スマァァァイルゥゥゥ!」
彼らの拳が、槍が、立ちはだかる壁を撃ち砕いていく――。
「……なんか、勢いでここまで来ちまったけどよ。こっからどうすんだ?」
『メイシュロット+』に辿り着いた所で、カレン・ヴォルテール(かれん・ゔぉるてーる)が木之本 瑠璃(きのもと・るり)に尋ねる。流石に事態が事態、今日こそはまともな回答が返ってくるかと思いきや、そこはやはり瑠璃であった。
「吾輩、考えたのだ。魔族の友として、そして正義の魔法少女として、何が出来るかを」
「は……? 何言ってんだ瑠璃、つうかいつから魔族が友だって?」
「吾輩は知っているのだ! 吾輩以外の三人、あのなぶらでさえ魔族と友達になって吾輩だけ魔族と友達になってないのだ! ずるいのだ!」
ちなみにここで言っている友達とは、召し使いの仕事を手伝ったり宴会でどんちゃん騒ぎをする程度のものなのだが、瑠璃は相当に羨ましかったらしい。
「いやいや、明らかにふざけて良い雰囲気じゃねぇだろ? ここは真面目にイルミンスールを守るためにだな――」
「……だがしかし、友の友はやはり友! つまり魔族と吾輩も既に友なのだ!
その友が抑えきれぬ憤りを爆発させ襲い来るというのならば、拳を以って全力で受け止めるのが吾輩の友としての、そして正義の魔法少女としての役目なのだ!」
カレンの言葉を無視して、瑠璃が拳を握り締め、強く口にする。
「…………。
拳で受け止めるのが…………魔法少女の役目…………?」
良い悪いを判断する以前の、言葉として何を言っているのかよく分からないとばかりにカレンが考え込む。もしそのままだったらカレンは考え込み過ぎてシステムダウンしてしまったかもしれないが、幸いにしてその危機からは免れた。
「せめてもの情け…………派手に滅せよ…………
その邪心ごと…………御心まで全て打ち貫いてみせますわ…………」
「おい美空、おっかねぇこと言ってんじゃねぇよ!? いや確かに戦いに来たんだけどよ!?
それに瑠璃! お前のそれに! 何処に魔法の要素があるんだ!」
「おぉ、美空のおかげでカレンがいつもの調子を取り戻したのだ」
相田 美空(あいだ・みく)の言葉にカレンがツッコミを入れ、ついでに先程の瑠璃の言葉にもツッコミを入れる。
(……あら、意外と私、またこのようなことが出来るのを楽しみにしていたみたいですわね。
瑠璃さんの言ってる内容はよく分かりませんが、一言一言に熱がこもっていらっしゃるのは分かります。相当に燃えていらっしゃいますね。
魔族の皆様、この機会を作ってくださったこと、感謝いたしますわ)
美空が心に呟く間、ツッコミを受けて逆に元気付いたか、瑠璃の語りがより熱を帯びる。
「友が誤った道を歩もうとするのならば、殴ってでも止めるのが優しさという物……!
それに、雨降って地固まる、友情には多少の争いは必要不可欠なのだ! この機会に皆、溜まっていた鬱憤を全て吐き尽くしてしまえばいいのだ!!」
「はぁ……。もういいや、どうとでもなれだ……」
もはやこれ以上何を言えないと、カレンも渋々付き従う。……実の所は、『友が誤った道を歩もうとするのならば、殴ってでも止めるのが優しさという物』という瑠璃の言葉に、少なからず同意してしまったからなのだが。
「……で、皆揃ってここまでやって来た、ってわけか」
「……おぉ!? なんだなぶら、いたのか!?」
「全然気付かなかったぜ……」
「…………」(こういう時、無口という設定は便利ですわね)
それまで黙って一行の話を聞いていた相田 なぶら(あいだ・なぶら)が口を挟むと、三人が(美空は無表情のまま)一様に驚きの表情を浮かべる。
「…………。俺、帰っていいか?」
「まぁ待つのだ、折角ここまで来たのだから、なぶらも名乗りを一緒にやるのだ!」
くるり、背を向けたなぶらを三人が一致団結して引き止め、瑠璃が名乗りを一緒にやるよう誘う。
「って、俺もやるのか!?」
「何だよ、ここまで来てやらずに帰るつもりか?」
カレンが険しい視線を向け、美空が無表情のまま、『やらないとどうなるかお分かりですね?』というプレッシャーを(あくまでなぶらが感じたものである)かける。
「分かった、分かったからやる、やるってば。
……はぁ……こんな調子で大丈夫なのか……?」
なぶらを加え、魔法少女たちが名乗りをあげる――。
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ! 悪を倒せと我等を呼ぶ!
武闘派魔法少女ストライカー☆ルリ参上なのだ!」
「ふりふり衣装に身を包み正義の業火で悪を焦がす!
正統派魔砲少女バーニング☆カレン参上!」
「我空翔鋼鉄ノ魔法少女也
異色派魔法少女鉄姫美空推参」
「……勇者です」
『声が小さぁーーーい!』
すぱーん!!
「……勇者です!!」
『三人+α合わせて魔法少女隊アイダースリーwith勇者!
勇者と一緒におしおきよ!!』
「さぁ皆行くのだ! 魔法少女隊出撃なのだ!」
瑠璃を先頭に、一行がメイシュロット+の中枢へと突き進んでいく――。
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