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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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『それぞれの目的のために、戦う者たち』

●イナテミス精魔塔

「ミリア様、ミリィ様、お二方はわたくしがお守りいたしますわ。どうか、安心なさってくださいね」
 『ブライトコクーン』の張られた『イナテミス精魔塔』に身を寄せた三人、エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)が、魔族の襲撃を受けたイルミンスールを救うため向かった涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の帰りを待っていた。
「大丈夫、ですわよね。お父様は必ず、約束を守ってくれる人でしたもの。必ず、帰ってきてくださいますわ」
 そう口にするミリィ、けれどもミリアを掴む手はふるふる、と震えていた。
「ええ、大丈夫よ。涼介さんとクレアさんが帰ってきたら、笑顔で迎えてあげましょうね」
 ミリアの腕が、ミリィを包み込むように回される。
「はい……お母様……」
 安心した呟きを漏らすミリィ、『お父様』、そして『お母様』の温もりは何よりも力強い『揺りかご』であった。


●世界樹イルミンスール

「我は射す、光の閃刃!」
 詠唱の後、涼介の掲げた笏から複数本の光の刃が放たれ、飛びかかろうとした魔族を撃ち抜く。
「やあぁっ!」
 羽飾りのついた剣を振るい、クレアが切り結んでいた魔族の一体を退けた所で、それまでとは異なる雰囲気を纏った魔族が現れ、口を開く。
「お前たちは下がっていろ、無用な被害が増えるだけだ」
「……少しは話の通じる者のようだな」
 配下の魔族を退かせた振る舞いに、理性を見た涼介が笏を引く。
「我はサナンテ。先の戦乱ではバルバトス軍に属していた」
「涼介・フォレスト、イルミンスール魔法学校所属だ」
「同じく、クレア・ワイズマン」
 それぞれが名乗りを挙げる。
「あなたがここにいるのは、バルバトスに命じられてか?」
「いや、違う」
「なら、どうして!? もう戦争は終わった、戦う必要なんてないはず!」
 クレアの訴えを、サナンテは首を振って否定する。
「我は考えたのだ、我はどうにして生きるべきかを。我々魔族は長命故、そのようなことなど考えてこなかった。それを考えることの大切さを教えたのは、お前たち人間だ」
「……考えた結果が、これだとでも言うのか」
 涼介の言葉に、サナンテは頷く。
「そうだ。魔族の中にも人間と手を携えようとする者がいる、それはそれでよかろう。
 ……だが、我はあえてその道を選ばぬ。自らの居場所は自らの力で得る、それこそが魔族の悲願であったし、我の望んだ未来でもあった」
 言い、サナンテが槍を構える。
「……今ならまだ間に合う。手を取り合い、礼を守るのであれば受け入れよう。
 だが手を拒み、乱を望むのであれば、私は容赦しない」
 涼介の最後通告に、サナンテはただ黙って気を高める。
「……おにいちゃんは援護をお願い。この人は、私が相手をする」
 クレアが、笏を再び構えた涼介の前に立つ。
「剣と槍、有利不利を知らぬ訳ではあるまい。それでも来るか」
「これ以上イルミンスールが傷つくのを、黙って見てなんていられない。私はイルミンスールの守護騎士、すべて守り抜く」
 クレアの脳裏に、友人の顔が浮かんでは消える。その中にはルーレン・ザンスカールの顔もあった。
(ルーレン、あなたのために、私、戦うよ)
 そして、三人がそれぞれの間でもって、動き出すタイミングを図る。

『――!』
『――!』

 涼介の、二色の炎が飛び過ぎ、サナンテとクレアの武器が交錯する。そのまま二人と一体の、どちらも譲らぬ攻防が続く。片方が攻めれば片方が防御に徹し、攻守が逆転すれば攻めが防御へ、防御が攻めへ転じる。
(やっぱり、強い……! 並の魔族とは違う)
 肩で息をするクレア、受けた傷から血が流れ、徐々に体力を奪っていく。サナンテも無傷ではなかったが、魔族故の並外れた体力はここにきて大きな差となっていた。
「…………」
 サナンテの気が一層高まるのをクレアは感じる。背後に控える涼介も、決着の時は近いと感じ取り、残る魔力を両の手に生んだ炎に込める。
(ルーレン、みんな、お願い、ちょっとでいい、力を貸して!)
 クレアが願い、全身に最後の力を込める。
 ――イルミンスールを守るという私の意思が確かなら、イルミンスールはきっと力を貸してくれる――。

「やああぁぁぁっ!!」
「おおおぉぉぉ!!」

 蒼き炎を避け、紅き炎を槍を振るった風圧で消し飛ばしたサナンテが、爆発的な加速で迫ったクレアの、剣を持っている方の肩を槍で突く。剣が落ち、勝負は決したかに見えた――。

「……これが……意思という名の武器、か……。
 ……見事、だ……」

 クレアの、もう片方から伸びた光の刃が、サナンテの心臓を貫いていた。本来は実体を持たぬ対象に効果を与えるものがこのような効果となったのは、きっと意思の力によるものだった。
「……武器での戦いなら、私はきっと負けていた。勝てたのは、みんなのおかげ」
「ふっ……」
 笑みを浮かべて、サナンテが地面に倒れる。次いでクレアも、蒸発するように消えたサナンテの身体があった所へ被さるように倒れる。
「クレア!」
 リーダーを喪い霧散する魔族を遠目に見て、駆け寄る涼介の声を最後に、クレアの意識は途絶えた――。


 それまで破壊活動を行っていた魔族の集団が、やってきた一行、鎌田 吹笛(かまた・ふぶえ)エウリーズ・グンデ(えうりーず・ぐんで)『女王の国一握の闇』 ハニバー(じょおうのくにいちあくのやみ・はにばー)に目標を変え、真っ直ぐに襲い掛かってくる。線の細い彼らなぞ、我らの敵ではない……しかしその思い込みは、直後すぐに打ち砕かれることになる。
「世界樹内の冬山に遭難者がいますー。私の仕業ですが」
 まずは、吹笛のかけた催眠術に引っ掛かった魔族が、戦闘中にもかかわらずすやすや、と安らかな眠りについてしまう。そこをエウリーズが神速の如き勢いで接近、『目覚めの一撃』を見舞う。
「寝たら死ぬぞー。……なんてね」
 エウリーズの拳で吹っ飛ばされた魔族が、起きることなく昏倒する。辛うじて二人の攻撃を掻い潜った魔族も、ハニバーの『曲がる吹き矢』に騙されて見事命中させられ、全身に回る毒に地面をのたうつ。そしてやっぱりエウリーズに吹っ飛ばされて戦線離脱させられるのであった。
「……ここの敵はひとまず、片付いたようですな。では次の場所へ――」
「見つけた!」
 一行が次の場所へ足を向けようとした矢先、ノーバ・ブルー・カーバンクル(のーば・ぶるーかーばんくる)が吹笛の前に息を切らして現れる。
「おや……確かメイルーンさんが会ったという方に酷似してますな。もしやあなたがノーバさんでしょうか」
「そうだよ! ええっと、なんて言えばいいんだろう……そうだ!
 えっと、異界の人から伝言だよ。『早く道を拓きに来い。俺の野心は隔絶された程度で朽ちると思うなよ』だって」
 本人にとっては、気持ちを落ち着けるための時間稼ぎのつもりで言った言葉だったが、それを聞いた一行、特にエウリーズとハニバーは驚愕の表情を浮かべる。
(この子の言う異界の人って……え、―――様? 嘘……でも、そうとしか思えないわ。
 まさか、情報の方から飛んで来るとはね)
(言動からしてあいつに違いない。それにしても、異界にいるだなんて……。
 予測の追いつかない行動ぶリは相変わらずだな)
 二人の様子に、いまいち付いていけない吹笛が首をかしげた所で、ノーバに呼びかけられてそちらを振り向く。ノーバ自身は落ち着いたつもりかもしれないが、傍から見れば十分、緊張かつ興奮した状態で一気に言葉を紡ぐ。
「伝言を預かったけど、あたしは利用されてる訳じゃない! 異端者扱いした連中を見返すのもどうだっていい!
 信じるものを隠して生きてくのが耐えられないんだ! 吹笛は契約者になって何度選択を迫られても信念を支えてきたんでしょ?
 あたしも本心から逃げない魂が欲しい、強さを掴みたい!」
 多分、本人としてはもっと賢くやるつもりだったろう、契約へ繋がる道を一気に駆け抜けたノーバを、吹笛は手を差し出しながら受け止める。
「あなたに確固とした意思がある事は、今の言葉に十分示されています。随分私を見込んでくれましたが、これからもあなたの見込んだ生き方を続けていくという保証は出来ません。……それでも今の私は、今の私と向き合う人に応える位は出来ます。
 意思あるあなたからの期待を、背負わせて下さい」
 触れ合った二人の手から光が生まれ、それは二人を包み込むように広がり、やがて収束していく。今ここに、吹笛とノーバの契約が結ばれた瞬間であった。
「……さて。早速ですがノーバさん、お付き合いいただけますか。
 私たちが話をしている間に集まってきたお呼びでない客の相手をしなければなりませんので」
 吹笛の言葉を裏付けるように、一行を複数の魔の気配が取り囲む。一人増えたようだが、これだけの数で襲い掛かれば奴らとてひとたまりもない……しかしその思い込みは、またもすぐに打ち砕かれることになる。
「万物よ、無窮に還れ!」
 吹笛の放った氷の嵐が、瞬く間に辺りを極寒の冬山に変えてしまう。
「何だかこの魔族達が眼中にないって気分だわ。伐採を済ませてすぐに次の手掛かり探しの冒険に行きたいわね」
「確かに、大局的に敵じゃないかもね。彼らが『国家の総意と関係ない、単に魔族が多目なだけの不良集団』なら、国の手綱は握ってないからね」
 続いてエウリーズの闘気、ハニバーの雷が凍える魔族を撃ち貫く。それでもなんとか耐え抜き、吹雪を抜けようとした魔族を待っていたのは、全てを浄化する光だった。
「あぁ、把握したよ。祝砲をあげればいいんだね」
 すっきりとした表情を浮かべたノーバの、生み出した光に包まれた魔族が悲鳴すらあげることなく身体ごと消えていく。