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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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 『こども達の家』の扉が開かれ、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が顔を出す。そのままそっと抜け出すように外へ出たネージュは、窓から漏れる灯りに目を細める。中ではパートナーたちが、子供たちを安心させようと頑張ってくれている。
「ここからは、付き合ってって無理強い出来ないよ。あたしだって魔法少女として、不完全なんだから」
 呟いて、ネージュは一人、夜のイナテミスを駆ける。

 イナテミス精魔塔とその周辺の広場は『ブライトコクーン』で守られ、避難してきた住民たちでいっぱいだった。ネージュは街の人たちが不安や恐怖で騒動を起こしていないか心配だったが、今の所は大丈夫そうだった。
(みんな、顔には出さないけど多分、不安に思ってる。でも『朝までには必ず帰ってくる』って言った豊美ちゃんを信じて、待っている。
 だから、あたしもここで、あたしに出来ることをしながら、帰りを待とう)
 そう、心に決めはするものの、どうにも中途半端な自分がもどかしくなる。
「……あたしにもっと力があったら、いろんな事が出来たのかな」
「力があるだけでは、何も出来ない。私はそう思う」
 返答に驚いて振り向いたネージュの視界に、サラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)の姿が映る。
「ああ、すまない。思い悩んでいたのが気になったものでね」
 詫びの言葉を入れるサラに、ネージュがいいえ、と首を振る。
「でも、力がある人の方が、力がない人よりもいろんな事が出来ると思うの」
「確かに、出来ることの選択肢は増えるかもしれない。しかし、力が強大であればあるほど、その使い方には気を付けなくてはならない。裏を返せば、使い方次第で十分、力は補えるものだ。
 戦い一つとってみても、戦い方は人によって様々だ。もし君が敵を倒す力がなかったとしても、街の人々を元気付ける力はある、私はそう思っている。それは昼間の様子を見ていれば分かる。是非また、あのカレーを口にしたいものだな」
「あ……あのカレー、サラさん用だったんだ! すごく辛いのお願いって頼まれたから、誰のだろうって考えちゃったよ」
 その後カレーの話で盛り上がり、そしてサラと別れた頃には、少しだけネージュの心は軽くなっていた。
(よし……がんばろっ!)
 頷いて、自分に出来ることをするためにネージュが歩き出す。
 ――街の向こうから悲鳴が聞こえたのは、その直後だった――。


「ちょっと、一体どうしちまったんだい!? 怒ったことなら謝るから、元に戻っておくれよ!」
「グオォ……ガアアァァッ!!」

 扉が荒々しく開かれ、凶暴な顔つきの男性魔族が外へ飛び出す。その勢いのまま街の中心部へ向かおうとした彼は、道を塞ぐように立っていた毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)に足を払われ、盛大に転ぶ。

「あぁ、最悪な気分だ。お前を見たせいで全部思い出した。
 私は操られていた、お前と同じようにな」

 起き上がり、なおも殺意を向けてくる男性魔族へ、大佐がまさに不機嫌とばかりに言い放つ。
「今の私は調子が悪い、それ以上に気分が悪い。もしまだ戦うというなら、命の保証はないぞ」
 醸し出されるプレッシャーに、男性魔族がたじろいだ所へ、背中にアルテミシア・ワームウッド(あるてみしあ・わーむうっど)の放った眠りの針が刺さり、どさ、と男性魔族が眠りにつく。
「はい、いっちょあがり、っと。……ロノウェ様からも非殺を言い渡されているとはいえ、実際にやるとなると面倒極まりないわね。 ロンウェルで書類仕事してた方がマシに思えるくらい」
 愚痴るアルテミシア、彼女は少し前にロノウェとテレパシーによる会話を交わしていた。

(『あー、ロノウェ様? もしやイナテミスに居ると思って話しかけてみたら繋がったんで、イナテミスに居るで間違いないですね?』)
(『……まったく。色々と言いたい所だけど、状況が状況だけにそうも言ってられないわね。
 確かに、あなたの想像の通りよ。でも私は別にやらなくてはいけないことがあるわ』)
 聞けば、『ウィール砦』に関することで少々問題が起きたとの事で、ロノウェはそちらの解決に向かうのだという。アルテミシアはそっちには興味がなかったので、今後自分達はどうするべきかを確認する。
(『分析するに、今回の事件を引き起こした首謀者は『操作する事』に長けていると思うの。だから、この街に住む魔族を操って襲わせることもやってのけるかもしれない。あなたたちは操られた魔族を抑えて頂戴。いい? 絶対殺しちゃダメよ。もちろん、街の人に怪我を負わせるのも許さない。破ったら書類仕事増やすから、そのつもりでね』)
(『……いや、無理言い過ぎでしょ、ロノウェ様』)

「案外ロノウェ様、あんたが何してたのかも知ってるのかもね。だからあんな無茶言ってきたのかも」
「否定は出来んな。もし操られていなかったら、私はおそらく『操られるような手合いは殺されても文句は言えんな』と思ったかも知れんからな」
「あはは、それじゃあんたも殺されても文句言えないね」
「……だから気分が悪いと言った」
「ならいっそ、あんたを操った首謀者を殺しに行ったらよかったのに」
「そっちは深く考えるのを止めたよ。決着はつけたい人がつければいい。私は手を出さない」
 ふーん、と呟いて、アルテミシアはそれ以上尋ねるのを止める。今はとりあえず、大佐がイナテミスの安定に力を尽くすのを利用しておけばいいかと思う。主に、この後の書類仕事を少しでも少なくするために。
「うーん……話がいまいち分からないんだけど、何? おかしくなった魔族を止めろってこと?」
 二人の会話に全然付いていけてない様子のプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)が、首をかしげつつ武器を構える。前方から複数の、街の住民と思しき身なりの魔族が凶暴な顔つきで向かってくる。
「殺す殺さないで、アルテミシアの仕事量が変わってくるからな」
「ちょっとあんた! 勝手に殺すんじゃないわよ!」
「はいはい、あんまり期待しないでね……っと!」
 言いながら、プリムローズが水平に大きく武器を振るい、足元を掬われた魔族が複数、地面を転がる。そこを大佐とアルテミシアが追撃を加え、黙らせていく。


「皆さん、落ち着いて避難して下さい! 広場まで行けば、安全です!」
 街の混乱を少しでも鎮めるべく、姫宮 みこと(ひめみや・みこと)早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)が街の住民の避難誘導を行う。イルミンスールを占拠した魔族がイナテミスにも矛先を向ける、ではなく、街の魔族を操って襲わせるという方法を目の当たりにして、みことは今回の事件も姫子が大きく関わっていると思い至る。
(姫子さん……思い切ったことをしてきましたね。
 しかし、いかに強大な力を持っていたとしても、魔神と、そして都市をも復活させるほどの力があるとは思えません。時間限定のかりそめの命……といったところでしょうか)
 冷静に状況を分析した上で、みことは自分が為すべきことを考える。――おそらく朝には全ての決着がついているだろう、それまで街の被害を最小限に防ぎ、持ち堪えれば自分たちの勝利。……ならば、市民をより安全な場所へ避難させ、いざという時には彼らの盾になろう。それが魔法少女としての役目でもあるはずだから――。
「みこと、この先の道は大丈夫よ。街の人たちを誘導してあげて」
 偵察から戻ってきた蘭丸が、みことに状況を報告する。街の外ではなく内から敵が『生まれる』可能性がある以上、住民を孤立させるのは危険だ。寄り集まっていた方が、姫子の支配を退けやすいとも思う。精神を支配する術を退ける最も強い力は、支配に屈しないという強い心なのだから。
「襲ってくるとはいえ、街の住民が相手じゃ、戦うわけにもいかないわね〜。
 早く避難してもらって、『メイシュロット+』に向かった人達が決着つけるまで、耐えるしかないか」
「あちらでの戦闘が激しくなれば、姫子さんもこちらに構っている余裕はなくなるはずです。
 時間はボクたちの味方ですよ。もう少しの辛抱です、頑張って下さい」
「他ならぬみことの頼みだもんね。……じゃあ、後で『お礼』、期待してるから♪」
 何やら意味深な笑みを浮かべて、蘭丸が偵察任務へと戻っていく。
「期待されても困るんですけど……」
 苦い笑いを浮かべて、みことも街の人たちに声をかけ、安全に避難出来るように務める。


『見守る者たち』

 暗がりに、灯りがともされる。人の気配を感じ取った男――かつて『クロウリー卿』としてミスティルテイン騎士団を陥れんとした者――が顔を上げると、ランプを手にしたレン・オズワルド(れん・おずわるど)、そしてその背後にはアメイア・アマイアの姿があった。
「……何の用だ」
 自らをこの牢に捕らえた人物の顔を、忌々しげに見つめる男に対し、レンは微笑を浮かべ、反対側の壁に背中を預ける。
「なに、いい機会と思ったのでな、世間話をしに来た」
「……我は貴様と話すことなどない」
 言い、男はレンから顔を背け、壁にもたれかかる。レンは別段気にした素振りもなく、ランプを床に置いておもむろに話し始める。
「今、この街とイルミンスールが、魔族の襲撃を受けている」
「…………」
 牢の中の気配が動いたのを見て、レンが言葉を続ける。
「普通に考えれば、この時点で既に大問題だろう。……だがそんな状況にあっても、自らの力で解決したいと願う者たちがいる。
 魔法少女……それは魔法使いの1スタイルでしかないが、最早生き方として捉えて良いレベルなのかもしれない」
「生き方……?」
「魔法少女はその持てる力を、他者の為、周りの幸せのために用いようとする。……これは生き方と表現していいだろう。
 そしてそれは、同じく強大な力を持つ魔族の生き方と異なっている。俺は見届けたいと思ったのだ、魔法少女との戦いを経て、魔族がどうなるか。これまでの生き方に殉じるか、それとも新しい生き方を選択するために一歩を踏み出すのかを、な」
 沈黙が、辺りを支配する。ややあって男が、誰に言うでもなく呟く。
「我は、魔族を羨ましく思うよ。何せ彼らは自らの生き方に『殉じれる』のだからな。人は賢い、であるが故に自らの生き方を貫けぬと分かった時に、自らに言い訳をする。頭の良い者ほど、言い訳を考えるのも上手いからな。
 やがて人は、最初に持っていた生き方とは変わり果てた生き方を選択しながら、身体が壊れるまで生き続ける。だが魔族は違う。……いや、違っていた、と言うべきか。魔族も人に敗れた以上、人と同じ道を辿るのだろうからな」
 案外人の生き方なぞ、他の生物からは『コロコロと変えやがって』と思われているのかもしれない。人にとっては、さして力を持たぬが故に見出した『力』であり、この力を人は持ったからこそ地上で大勢力を築くに至った。
「……どちらが良い悪いを論じるつもりはない。ただ、魔族が人と交わって生きるというなら、生き方を変える必要もあるのではないか、と思うのだ」
「さあな。それは魔族が考える事だ」
 言った男の、気配が遠のくのをレンは感じる。この話の中で、同じく力を持つ彼が今後どのような生き方を選択するのかの一端が見えればいいと思っていたのだが、今回はそこまでには至らないようだった。
(まあ、また話をする機会はあるさ)
 息をつき、レンは外の者たちの、時に危なっかしくもあるけれども若く力に溢れた者たちの無事を願う――。