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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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 窓を破り、魔族の一部が施設内へ侵入を果たす。飛び込んだのが大部屋の一つであること、その部屋には人の気配が無いことを確認した魔族が、扉へ向けて駆け飛んだ時、扉が勢い良く開かれ、先頭にいた魔族が大きく吹き飛ばされる。
「ここから先は、通行止めだ」
 魔族を吹き飛ばした拳を握り直し、もう片手に大振りの剣を握った伏村 アズマ(ふしむら・あずま)が部屋に入り、魔族と対峙する。
「まったく……たまに付いて来てみれば、魔族の群れと対面とはな。近くにいたのがワタシと貴様だけとはいえ、誠に遺憾だ」
 不満げな表情のミルドレット・イヴァンジェ(みるどれっと・いう゛ぁんじぇ)が、アズマの後方に位置する。
(敵の数が多い……一体ずつ確実に仕留めていくか)
 しばらく戦えば、騒ぎを聞き付けてここの生徒や他の契約者がやって来るだろう、そう考えたアズマは、突破を図るべく向かってきた魔族へ剣を振り下ろし、剣は魔族の腕を切り落とす。悲鳴をあげる魔族を蹴り飛ばし、次に向かってきた魔族を今度は握った拳で殴り付けて退かせる。
「飛ばせては後が面倒だ。大人しく地を這うがよい」
 羽を羽ばたかせ、空中に逃れようとした魔族の身体に、無数の鎖が絡み付いて地面へ引きずり倒す。もがく魔族を踏み越えるようにして、数体の魔族がアズマへ飛びかかる。
「……散れ!」
 気合いの一声と共に、アズマが片手に持っていた剣を両手に持ち、水平に大きく振り抜く。ある者は脚を飛ばされ、またある者は胴体を裂かれ、戦意を喪失する。その時、アズマたちが戦っている部屋の外から、新たな敵の侵入を告げる音が聞こえた。
「よいのか? このままでは取り逃すぞ」
 癒しの魔法をかけてやりながら尋ねるミルドレットに、アズマが剣を片手に持ち直して答える。
「大丈夫だろう……どうやら仲間が来たようだ」
 次いで魔法の発射音が聞こえ、間違えようのない魔族の悲鳴が木霊した――。


(悪い予感はよく当ると言いますが……何もここまで当らずとも……)
 施設内を駆けながら、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が心の中でぼやく。『高天原姫子がイナテミスの感謝祭に紛れ、何かを企むかもしれない』という予測を頼りに、先にイルミンスールに戻っていた事で、突然の奇襲にも慌てず対処が出来たのだが、当の本人はまったく喜ぶ気になれなかった。
「このような自体を予測して動くなんて、さすがはお嬢様です! ですが、ここから先は私にお任せを、お嬢様自らが危機に向かわれるなど――」
 レイナの後を付くリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)の言葉を聞き流し、レイナはなおもぼやく。
(今回のことは、お説教するだけでは少々もの足りませんよね……? 当事者であろう姫子さんには……この場をしっかりと守り、切り抜けた後、きついお灸を据えてあげませんと……)
 手にしていた魔導書の角を振り下ろす光景を思い浮かべた所で、前方の窓が破られ、数体の魔族が現れる。
(ふぅ……ぼやいてる暇はないですね……。敵対するのであれば……そうですね……研鑽してる魔術成果の実験台にでもなっていただきましょうか……)
 なるべくなら向かってこないことを願ったものの、魔族はレイナの姿を認めると真っ直ぐに向かってきた。
「……」
 どこか哀れみの表情を浮かべ、レイナがグリモアを開き魔法の詠唱に入る。普段は癒しや支援の力に発揮されるレイナの魔力が、今は敵対する魔族を撃ち抜く力に変換される。
『――!!』
 雪玉のような魔力の塊が地面を転がり、向かってきた魔族を弾き飛ばす。お見事、ストライクである。
「お嬢様!? いつの間にそのような技を!?」
 驚きの表情を浮かべるリリに、レイナは応える余裕がない。もっとも効果的で効率のいい選択をしたつもりだが、やっぱり攻撃は得意ではないなと思い至る。
(こういうときはウルさんがいてくれれば頼もしい限りなのですけど……リリは家事等では頼もしいですが、戦闘ができるとは思えませんからね……)
 とはいえ、リリだけ引けと言うわけにもいかない。そんなことを言えば「主人を残して自分だけ安全な場にいくなど、従者として最もあるまじき行いです!!」と返されるだろう。
(さて、どうしましょうか……)

「おいおい、こりゃまたえらい騒ぎになってんな。そしてこの状況……多分レイナ達は真っ只中にいるな」
 世界樹イルミンスールを前にして、ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)が勘と経験からレイナたちの居場所に当たりをつけ、隣のガルム アルハ(がるむ・あるは)に言う。
「うっし、アルハ! 今日はこっから実戦だ! 今からあたしらでレイナ達の助っ人にいく!」
「実戦? レイナちゃんたち助けに行く?
 う! 分かったー!」
 身の丈程もある大きな錨をぶんぶん、と振り回し、アルハが了解する。
「ま、敵さんが魔族みてぇだから一筋縄じゃいかねぇと思うけど――」
「よーっし! アタイの本気、姐さんにみてもらうんだから!
 とっつげきー!」

 ウルフィオナの言葉を最後まで聞くことなく、アルハが魔族の群れに突っ込んでいく。
「あ、こら、待てっての!」
 慌ててウルフィオナが後を追う。アルハが錨で魔族を吹っ飛ばし、包囲網が崩れた所にウルフィオナが滑り込み、穴を広げてアルハを迎え入れる。
「えへへー♪ アタイと姐さん、いいコンビって感じじゃない?」
「調子に乗るなっての。無闇に突っ込むだけじゃケガしちまうからな? 突っ込み所が肝心だからな」
「はーい、ごめんなさーいっ」
「わかりゃいい。……そら、あそこから中入るぞ、掴まりな」
 魔族が先に開けた穴から中へ飛び込んだ二人は、離れた向こうにレイナとリリの姿を認める。良く応戦しているが、少しずつ押されているようだった。

「……!」
 放った弾が魔族を退けさせるが、その間に他の魔族がやって来る。数の上で劣勢なレイナたちは、徐々に押し込まれていく。
(……姫子さんへのお説教は、諦めないといけませんかね……)
 その瞬間、後方から人影が高速で迫り、レイナを抜いて眼前の魔族へ連続攻撃を浴びせ、抵抗力を奪い取る。
「待たせたな、レイナ」
「ウルさん……!」
 振り返り微笑むウルフィオナにレイナが微笑むも、迫る魔族に気付き迎え撃たんとする。
「おっと、その必要はねぇ。レイナはいつも通り、回復と支援を頼むぜ。敵さんの相手はあたしがやるさ」
 そう言い、振り向きざま神速の身のこなしで攻撃を回避し、カウンターを浴びせる。
「はい……お任せします、ウルさん」
 ページを捲り、癒しと支援の魔法をウルフィオナに施したレイナは、やっぱりこの方がぴったりくるなと改めて思い至る。
「はー、やっぱ姐さんとレイナちゃんのチームワークは違うなー。アタイもまだまだだねっ」
「あの駄ネコにできて、私にできない道理はないんです……お嬢様を守るのは私なんですっ!」

 四人揃ったレイナ一行は、仲間たちと連携しながら魔族の迎撃に当たる――。


(せっかく魔族さんとも……アムさんとも仲良くなれたのに、こんなことって……!)
 魔族に占領されかけているイルミンスールを守るため、乙川 七ッ音(おとかわ・なつね)が同じく奮闘していた契約者の治療、時には自ら弓を取って魔族を撃退していく。
 ……だが、放った矢が魔族を貫き、悲鳴をあげて倒れる魔族を目の当たりにして、心に葛藤が生まれる。
(どうして、傷つけあわなければいけないの? 彼らだってアムさんとも同じ魔族なのに……)
 七ッ音の手から、弓が落ちる。自分がここにいるのは、魔族を傷つけるためじゃない。戦いを止めるため、また人と魔族が、仲良く手を取り合えるようにするため。
(そのためなら、私がいくら傷ついても……!)
 弓の代わりにマイクを握り、七ッ音が歌う。大切な人の心を動かした歌を。

 傷つけた痛み 裏切られた悲しみ

 もう十分知った だから休もうよ

 嫌いでもいい 傷ついてもいい
 ただ君と傷つけあいたくないの

 ……ただ愛したいの


 歌い終えた七ッ音へ、複数の魔族が牙を光らせて迫る。恐怖で足をすくませながら、目だけは真っ直ぐに彼らを見ていた七ッ音は、その魔族が途端に殺気を無くし、地面にへたりこむのを見る。
「大丈夫!?」
 魔族を魔法で眠らせた杜守 三月(ともり・みつき)が、七ッ音を気遣う。
「あ、はい……ありがとう、ございます」
「よかったです……アムくんからあなたのこと、頼まれていたんです。代わりに力になってあげてって」
「アムさんが……?」
 首をかしげる七ッ音に、杜守 柚(ともり・ゆず)がいきさつを話す。アムくん、それにナナちゃん、モモちゃん、サクラちゃんに会ってきたこと。自分たちはここを離れることは出来ないけど、ザナドゥは任せてほしい、だからパイモン様のことをお願い、と託されたこと。
「そうだったんですか……」
 七ッ音の顔に、笑みが浮かぶ。傷つけようとしてくる魔族がいるのは悲しい、でもこうして自分を心配してくれる魔族もいる。
「柚、そろそろ行こう。急がないと」
 三月に促されて、柚が頷く。
「これから、パイモンさんを説得しに行くんです。一緒に行きませんか?」
「えっと……足手まといでなければ……」
「一人でも伝える人が多い方が、伝わると思うよ。護衛は僕に任せて」
 差し出された手を、七ッ音が取る。そして一行は、メイシュロット+へ向かう――。