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リアクション
「あら? テレビの取材なの? それに耀助じゃない」
耀助を振り向かせたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。両手にいっぱいの買い物袋を掲げている姿から、彼女がどういう今日をたどっていたのかが分かる。隣にいるルカルカと瓜二つの容姿をしているルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)も耀助に対して軽く頭を下げる。
耀助は悲哀や裕輝など、さまざまな人物との交流をアウトレットモールで済ませ、外を歩いていた最中だった。太陽は降りるだけとなりつつあるこの時間で、二人と出会ったのである。
「お久しぶりです。いづぞやのお茶会以来でしたっけ?」
「そうね。ここに来ているとは思わなかったわ。しかもカメラで囲まれているなんて驚きだわ」
耀助はこうなっている経緯を簡単に説明する。ルカルカの予想通りテレビの取材なことを話すと、ルカルカの目の色が僅かに変わった。
「それは面白そうね。しかもルカルカがいるときになんて偶然なのかしら。ちょうどいいわ。うちに来ない? ご馳走するわよ」
「これは願ってもないことです」
「朝からリポートをして疲れているのでしょう? 少し休んでいくといいわ」
「休んでいきましょう」
ルカルカとアコが同時に耀助に手を差し伸べる。
耀助はこれまでを思い出す。誰かの自宅にまぬかれるなんてことはなかったはずだ。そう思うと朝から取材をしていたことによる疲れなど地平線の彼方へと吹き飛んでしまった。
そしてぐっと二人の手を掴み、最後の取材先へ足を進めるのだった。
■
ルカルカたちの自宅に向かうと、耀助はこれまでの取材がなかなか多難だったことを思い出した。その疲れは当然のごとく自慢してよい疲れであるが、それを自覚したのはルカルカの自宅で安らぎを感じたからだろう。
「ようこそ」
「いらっしゃいませ」
先に入ったルカルカたちに案内され、耀助は中に入る。
「ここは自宅なのですか?」
「別荘と言ったほうがいいかもね。本当の自宅はヒラニプラにあるの。ここには主に事件で滞在するときに来るのよ」
「その割には手入れが行き届いている様子ですね」
「ヘルパーの人が定期的に掃除をしてくれているの。一日取材して疲れたでしょ? 何か作るから食べていかない?」
「ありがとうございます。リポーターは役得ですね。ルカルカさんの手料理なら何でも食べますよ」
「なら腕によりをかけて作るわ。その間にはアコと話しているといいわ」
「アコが?」
アコは耀助を見ると指先をもじもじといじる。取材に緊張しているのに気づいたルカルカがアコの耳元でいたずらに囁いた。
「耀助が気になるのん?」
「へ、変なこと言わないでよ。ルカのバカ。耀助。もう!!」
そう彼女に悪態をつく。ルカルカはカラカラと笑い声を響かせながら調理場へと歩いて行った。
「そういうことで耀助。アコがこのお家を案内するよ。その間にルカが作ってくれるよ」
「それでは取材を始めたいと思います。疲れているからとはいっても、手を抜きませんよ」
「あはは。お手柔らかにお願いするね」
こうしてルカルカの家を歩き回る耀助たち。遠くではルカルカが料理をしている音が続いている。淡々としている音が彼女の手際の良さを物語っていた。
「こういう別荘は他にもたくさん持っているの?」
「えぇ。そうよ。西ロイガーの宿舎や海京北区の軍施設とかね。この部屋は涼司の頼みをルカがよく引き受けるから借りているの」
アコがそう説明して、パソコンを見せる。誰が見てもわかるとおり、ハイスペックなパソコンがそこに在った。他にもデスクや壁テレビなど、ほんの一瞬だけ滞在するのがもったいないほどの家電が用意されている。
「豪華でしょ?」
「そうですね。ぶしつけですけれど、寝る場所はどこにあるのですか?」
「キッチンの上よ」
「キッチンの上です」
ルカとアコの同時に声が響くと、耀助はキッチンの上を様子見る。キッチンの上はロフトとなっており、そこにクローゼットなども置かれていた。
「このクローゼットには何が入っているのですか?」
「あー。そこは駄目よ!!」
耀助がクローゼットに手をかけようとしたときにアコが慌てて、その手を掴む。
「えっとこのクローゼットの中は秘密です。機密事項です」
アコは胸を上ずらせながら、はぐらかした笑みを見せた。何が入っているのかはアコの口からきくことはできなかったが、耀助は第六感的にそれを把握すると、顔を赤くしながらそそくさと退散した。
「あら? 耀助顔が真っ赤なのは西日が差しているからかしら?」
「そう言うことと受け取ってください」
ルカが料理をテーブルに並べて待ってくれていた。そこには三つのオムライスが並んでいる。ケチャップを片手にルカは耀助を促していた。
「こうしてみると本当に軍人には見えないですね」
「そうね。今はプライベートな時間だしね。というわけでオムライスを作ってみました。冷めないうちに召し上がれ。でもその前に……」
ルカはケチャップでオムライスの上に文字を書く。
「はい。ワイ、オー、ユー、エス、ユー、ケー、イーで耀助。上手いでしょ?」
「これは憎いですね。ならお返しに俺も名前を書いてあげます。ルカルカさんと、アコさんにどうぞ」
耀助が書いたオムライスをルカルカとアコに渡すと、二人ははしゃぐ。耀助のいうとおり、軍人という風格は一切感じられなかったが、その仕草が、女性らしさというのを形作っている。
「それでは、今日の取材ごくろうさまでした。ツァンダの街はどうでした?」
「そうですね……」
ルカルカの問いに耀助が僅かに考え込むがすぐに顔をあげる。
「とても賑やかで、いろんな人がいましたね。また来ようと思いたいくらいに」
「それは喜ばしいことだわ」
お互いの気持ちを確かめ合い、三人が笑う。
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
三人の声が木霊する。既に太陽は地平線へと沈みかけており、そこから紅色が空をにじませていた。耀助はそんな空の変化を惜しみながらオムライスを楽しむのだった。
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