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リアクション
序/ 彼女はどこにいった?
ビーチは、多くの観光客、海水浴客で賑わっていた。
「むー? やっぱり戻ってない?」
そんな中、ひとりぽつんと。たったひとつ、ぽつねんと佇むビーチパラソルの前で、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は首を傾げていた。
待ち合わせは、ここでいいはず。場所もわかりやすいように、海水浴客たちのそれから少し離れた岩場の側を選んでパラソルを立てたのに。
「いくらなんでも、遅すぎる……よね」
濡れた髪の毛から滴るしょっぱい雫を払って 、はたと考え込む。
たしかに、待ち合わせた場所はここだった。
なのに、誰もいない。待ち合わせた相手、パートナーのミア・マハ(みあ・まは)の姿は、影も形も。
これって──つまり。
「あ、シズルさーん。ちょっといい?」
「はい?」
肩から双眼鏡を下げて歩いている知人の姿が、ふと目に留まる。
「レキ? どうしたの?」
「んーと、実は。ミアがいなくなっちゃって」
かくかくしかじか。待ち合わせ場所にもいなくって。
同じ観光客のはずなのに、本職のライフセーバーよりライフセーバーらしい立ち振る舞いの似合っている友、加能 シズル(かのう・しずる)へと相談をする。
「浮き輪に乗ってぷかぷかしてるのは見たんだけど……どうしよう? 流されちゃったのかなぁ?」
レキの話している間、シズルは真剣に言葉一つ一つへと耳を傾けていた。
時折頷いて、考えるような仕草を交えながら。探し出すことと、その方法と。既に頭の中ではその段取りが組みあがっているのかもしれない。
「ホテルに戻っているという可能性は?」
「うーん。ほら、コテージの……あ、ホテルってより、コテージなんだ。ボクたち。そのカギはほら、ここに」
「ふむ。じゃあ戻っているということもないか。じゃあ、浮き輪って、どんなのだったか覚えている?」
「どうって、べつに普通のだよ。水色で、下半分が透明で。かたちはどこにでもあるようなドーナツ形」
「じゃあ……浮き輪だけ流れ着いていてもそれとはすぐにはわからない、か」
「やめてよー、そんな不吉な」
「あ……ごめんなさい。そういう意味ではけっして」
失言だったと、口を押さえるシズル。
そんな両者の様子に気付き、近付く影がひとつ。
「なになに、おふたりさん。どーしたのー?」
両者同様、着込んでいるのは水着。頭と腕には正式にライフセーバーとして勤務中であることを示すキャップに腕章。
「お悩み事・海のトラブルならお仕事だし聞いちゃうよー?」
尤も、アルバイトではあったけれど──芦原 郁乃(あはら・いくの)が、そう言ってふたりに声をかける。
「ああ、はい。実は、連れとはぐれてしまって」
「ありゃ。迷子?」
「というより、流されてしまった可能性があるわ。多分、彼女の言葉から推測するにこの辺りで──……」
シズルが手にした地図を広げ、覗き込む郁乃に指し示す。
「ふむ、今日は多いなぁ、そういうの」
「え? そうなんですか?」
「うん、さっきもひと組。こっちは陸の上だけれど……もう少し探してみて見つからないようなら、また相談するって」
と、郁乃の無線に連絡が入る。
どうやら溺れた人間がいるらしい。ごめん、と彼女はレキたちに断り、踵を返す。
「こっちでも、それとなく注意してはおくから。どうしても見つからないなら、協力するよ。一緒にさがそ」
ひとまずは、聞き込みとか。いそうな場所を探すとか。そういうところから、はじめてみて。
走っていく彼女に、レキたちは頷いた。
ありきたりだけれど、やはりそうやって地道に探すしかない、ということか。
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