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魔術師と子供たち

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魔術師と子供たち

リアクション

   14

 ハーパーに雇われた者の中には、“名無し”に対抗してか、魔法を使う者もいたらしい。その男が杖を振ると、炎が渦となって飛び出した。
「させないよ!」
 コアトーの【フォースフィールド】が宵一を守る。男の一人が銃を構え、コアトーに狙いを定めた。が、コアトーが突然二人に増え、戸惑った。その隙にヨルディアが【逮捕術】でガンマンを取り押える。
「不法侵入ですわよ!」
「くそっ、これならどうだ!」
 魔法使いは杖を振り直した。鋭い刃物のような氷のナイフが続けざまに宵一を襲う。
 宵一は「三叉の剣」を握り締め、地面を蹴った。氷の刃が彼の頬や腕を切り裂くが、宵一は構わず【シーリングランス】を放った。魔法使いは地面に倒れ、今度は【雷術】を使おうとしたが、杖はうんともすんとも言わない。
 宵一は魔法使いの前に立ち、「三叉の剣」を突きつけた。くるりと軽く回転させ、杖を弾き飛ばすと、剣はそのままにハリスに目を向ける。
「もう一度訊くが、このまま帰ってくれないか?」
「……くそっ!!」
 忌々しげにハリスは吐き出した。


 ユーリは家の前に立った。そこに長原 淳二(ながはら・じゅんじ)がいた。
「最後の門番はキミ?」
「まあ、そうなるかな」
 案の定、ジョーイから拒否はされたものの、淳二はそれを無視して、家の外で番をした。ステラが「夜は冷えるから」と、毛布、コーヒー、パンとスープを持ってきてくれた。
 ジョーイは年の割に頑固だが、皆、いい子たちだ。彼らの意思を尊重したいと、淳二は考えていた。故に、このようなやり方は許せない。
「じゃ、やろうかっ」
 ユーリは軽々と大剣を振り回した。淳二の「緑竜殺し」と頭上でぶつかり合い、大きな音を立てる。
「やるねえっ」
 すいっと引いた隙に、淳二は【アルティマ・トゥーレ】を放った。受け止めた大剣が凍りつくが、ユーリは気にもせずに踏み込んだ。ユーリの足元がべこりと凹み、地面が割れる。次いで、淳二は全身に圧し掛かる重みに気付いた。【奈落の鉄鎖】だ。
「緑竜殺し」が両手から落ちた。両手で支えなければ、そのまま潰されそうだった。
「コントラクターってさあ」
 ユーリは淳二の顎を掴んだ。「すっごいムカつくんだよね。ボク、大嫌いなんだ」
「な――んで――」
「教えてあげない。でも、酷い目には遭わせてあげるよ」
「!?」
 ぞわり、と何かが淳二の頬に触れた。それはユーリの手から伝わり、淳二の体を覆っていく。
「ゆっくりと死の恐怖を味わえばいいよ」
【陰府の毒杯】だ、とは察したが、動けない。ちょっとでいい、【奈落の鉄鎖】が解ければ――。
 その時、ユーリの足元が弾けた。ほとんど条件反射でユーリは飛び退き、大剣を構えた。もう一発、今度は剣に当たった。ぐらり、と一瞬よろめき、ユーリは堪えると振り返った。
「――あっちか!」
 ユーリは淳二を置いて走り出した。【奈落の鉄鎖】も【陰府の毒杯】も解け、淳二は地面にそのまま転がった。小刻みに呼吸を繰り返し、それからようやく身を起こす。
「戻ってくるかもしれないから、な……」
 出来ればそうあってほしくないと、淳二は真剣に願ったのだった。


 アイールからの帰り道、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は、トラックで近くを通りかかった。
「何の騒ぎ……?」
 怒鳴り声に吹雪が首を傾げると、運転席のコルセアは、ああと声を上げた。
「ほら、町で子供たちの家が乗っ取られそうだとか何とか放送があったじゃない」
「……ああ、そういえば」
「遂に戦争が始まったのね」
「戦争!?」
 ぼんやりとした吹雪の顔が、その一言で引き締まる。彼女をその気にさせる魔法の言葉の一つだ。ちなみにお金の話はもっと効果がある。
「今の話だと、守り手が子供たちということでありますか?」
「そうね」
とコルセアは目を凝らした。「コントラクターが守っているみたい。攻め手はどう見ても、堅気じゃないわよねえ」
「女もいるようです」
「その襲ってる連中のボディガードか何かかしらね。彼女もコントラクターなのかしら。――何してるの?」
 助手席から降りた吹雪は、「軍神のライフル」の安全装置を外した。
「彼女を狙撃します」
「ちょっと待って! 事情も分からないのに!?」
「だから怪我もさせません。しかし、常識で考えて、大勢で子供たちの家を襲う輩が正義とは思えないではありませんか」
「……やりすぎないでね」
「分かっております。コルセアは、エンジンをかけてすぐに車を出せるようにしておいてください」
「それって、なんかまずい状況になるってこと?」
「念のためです」
 結果から言えば、吹雪のこの指示は正しかった。足元と剣を狙撃されたユーリは、創世運輸のトラックに目を留めるや、猛烈なスピードで追ってきたのだ。
「出してください!」
 荷台に飛び乗り、吹雪は指示した。最高速度で走っているというのに、なかなかユーリを引き離せない。コルセアは怖くなってきた。
「あの子、どっかの未来から来たサイボーグ!?」
「さあ!? 或いはそうかもしれません!」
 トラックの音のせいでまともな会話が出来ない。怒鳴り合いながら、吹雪は【五月雨撃ち】を仕掛けた。ユーリが弾を避けるため、地面に潜り込んだ。その隙にトラックは距離を取っていく。
 その気になれば更なる追跡も可能だろうが、ユーリも飽きたのかもしれなかった。
 後日、ハーパーがコントラクターを雇っていたと聞いた吹雪は、悔しがったとかしなかったとか……。