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リアクション
「ラグエルちゃーん、どこですかー」
パートナーであるラグエル・クローリク(らぐえる・くろーりく)がはぐれたため、鋭意捜索中であるのはリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)。
去年同様、手芸教室に顔を出そうと思い案内図を見ていたリースだったがふと気がついた時、ラグエルの姿はもうなくなっていた。
「もう、どこいったのかなぁ」
各廊下を歩いてラグエルの捜索をするリース。そこに、騒々しい音を奏でる一行がきた。
「こらー! まちなさーい! いい加減に成仏しないと、とって食べるわよ!」
「雅羅、おぬしそのようなことを言う者だったか?」
「やけくそよ!」
「なるほど、納得した」
呪いの人形を追っかけていた雅羅たちが、偶然にもラグエルを探していたリースの場所へと来たのだ。
「あ、あの。どうかしたんでしょうか?」
「うむ。実は人形たちが暴走をしていてな。これから鎮めるところだ」
「そ、そうなんですか。私もお手伝い、ってラグエルを探していたんだ……」
「むっ、人を探しておるのか?」
「はい、私より小さくて、三つ編みで、ピンク色の髪の……」
「それ、この子じゃない? ほら正子、後ろ向いて」
正子が後ろを向くとその背中には天使の寝顔を浮かべて寝ているラグエルの姿が。
「ら、ラグエル? どうして」
「これは、ついさっきのことだが……」
―――十分前くらい。
「リース〜は! どっこにーいっるのっかなー!」
自作の歌を口ずさみながらずんずんと廊下を歩くラグエル。リースがどこにいるかの見当は一切ついていないので、とりあえず甘くいい匂いがする方へと歩いていた。
「うーん! ここからすっごく、甘くていい匂いがするの。えへへー」
家庭科室の近くを歩いていたラグエル。その前に一体の人形が現れる。
ふわふわと浮遊する可愛らしいドラゴンの人形を見て驚くラグエル。
「うわっ! 人形が浮いてるよ! でもでも、一人で動くお人形さんをリースに見せてあげたら、すっごく喜んでくれる気がする!」
そう思って人形を捕まえようとするラグエルの前にはもう人形はおらず、前方に逃げていた。
「あー! 逃げないでー! ライカ、れっつごー!」
金色の目と真っ黒な毛並みを持った【機晶狼・ライカ】がラグエルの掛け声により動き出した。
疾風よりも早いと見まごう程の速度でみるみるうちに人形との差を縮め、なんなく人形を確保した。
「さっすがライカだね。戻っておいで〜……ん〜、なんだか不機嫌?」
すぐに捕まってしまった人形は当然ふてくされていた。このままでは呪いの人形がへそをこじらせてしまうかもしれない。
何しろ大人になりきれない子供のような大きな大人の怨念だ。たった一回だけでも、アウトになる可能性もある。
「いやーすっご〜い! このお人形もっふもふだあ。もふもふ、もふもふっ」
しかしラグエルのもっふもふふもっふ攻撃により、くすぐったいのか、嬉しいのか、かたかたと震えだす人形。まるで笑っているかのようだった。
どうやらラグエルにかかれば人形を楽しませるなんてお茶の子さいさいのようだ。
―――現在。
「以上のように人形を捕まえていたこの子がいきなり「もふもふで、眠い……」と言ってその場で眠りそうになっていたのでこうして背負っていたわけだ」
「それはそれは、ご迷惑をお掛けしました」
「迷惑どころか人形を捕まえてくれたんだもの。逆にお礼を言いたいくらいよ」
「そうですか。それなら、私もお手伝いしますっ」
両の拳を握り締めてやる気をあらわにするリース。その声に反応したラグエルが寝ぼけ眼をこすりながら目覚めた。
「ふわぁ……あっ、リースっ! 探したよー!」
「それはこっちのセリフですよ」
「あ、それとね! このお人形さんみてみて! 一人で動くんだよ? ほらほらっ!」
ラグエルの手から人形が解放された瞬間、イタズラ始動。
リースのメガネを奪い取ったのだ。たちまち、リースの視界はぼんやりとした光景に包まれた。
「わわっ、メガネ返してくださいー!」
メガネを奪い取った人形はふわふわと浮きながら逃げる。それを追うリースと雅羅一行。
「つ、捕まえた! もう離しませんよ!」
ぼんやりとした状態で何かしら人形っぽい何かを両手で捕まえたリース。
「さあメガネを返してください! ……? なんだかさっきより硬い気が……」
「リースー、それはにわさんだよー」
「へっ?」
ラグエルに言われ、目をすぼめて見てみればそれは確かにはにわだった。
何故学校内にはにわが飾ってあるのかは謎だが、それには正子が答えてくれた。
「それは校内の廊下がさびしいため、わしが丹精こらして作ったはにわだな。人形ほどに可愛いとは、僥倖だ」
「えっ、いや! その、こ、これはちがくって!」
得意顔で捕まえた分、急激に恥ずかしくなったリースの顔はしばらくの間真っ赤だったという。
それでも人形捕獲を手伝うのは、彼女が【あきらめない魔法使い】たる所以だろう。