|
|
リアクション
迅竜 ブリッジ
ひとまず安堵したルカルカがモニターで戦況を再確認しようとした時、ブリッジの扉が開いた。
開いた扉から入ってくるのは七名の男女だ。
その顔に見覚えがあるルカルカは表情を更に明るくする。
「来てくれたのね!」
ルカルカからの歓待に頷くと、七人の中の一人である銀髪の若い女性――水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が笑みを返す。
「ヒラニプラそしてツァンダと、二度も一緒に戦った者としては放っておけませんからね。ちゃんとアカーシ博士たちもお連れしましたよ」
道を譲るように睡蓮が横にどくと、彼女の相棒である鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)に護衛されるようにしてイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)とジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)の二人が前へと歩み出る。
「っし。今回は間に合ったわよ! こないだはヴァディーシャが……って、べ、別に対抗してるわけじゃないし!?」
一人呟くジヴァ。
どうやら、彼女には彼女の事情があるらしい。
要人を前にして、ルカルカは即座に艦長席から立ち上がって敬礼する。
「アカーシ博士、御足労頂き感謝します」
一方、イーリャはというと、柔和そうな物腰で答礼する。
「どうかお気になさらず、今は学校の垣根を超えて力を合わせなければならない時ですから」
二人のやり取りを眺めていた鈿女は、会話が一区切りついたのを見計らって立ち上がった。
「貴方がアカーシ博士ね。高天原鈿女よ。よろしく」
イーリャに歩み寄って握手の右手を差し出す鈿女。
その手を握り返しながらイーリャは何かに気付いたようだ。
「高天原……ということは、あの高天原教授の――教授の論文は拝読したことがあります」
「ありがと。天御柱学院が誇るアカーシ博士にそう言ってもらえるなんて私の祖父も光栄ね」
「こちらこそ、ロボット工学者として高名な鈿女さんにお会いできて光栄です」
しばし言葉を交わした後、イーリャは切り出した。
「では、そろそろ分析を始めましょう」
「そうね。それで、艦長。アカーシ博士はブリッジで座っててもらうのでいいのかしら?」
鈿女の問いかけにルカルカは即座に頷く。
「ええ。もちろんよ。よろしくお願いします、アカーシ博士」
空いている席の一つをイーリャに勧めると、ルカルカは睡蓮に向き直る。
「睡蓮は前回、前々回と同様にオペレーターかしら?」
「そのつもりです。もとより、その為にこの場に来たんですから」
ルカルカの問いに答えると、睡蓮は残る三人――少女一人と男二人ををルカルカに紹介する。
三人はどうやらルカルカとは初見のようだ。
最初に自己紹介を始めたのは少女だ。
「百合園女学院の白峰 澄香(しらみね・すみか)です。迅竜は九校連の切り札。ならば私はその切り札が最大限の力を発揮できるよう、乗組員としてできる限りのことをするだけです。まぁそれでもオペレーターくらいしかできることないんですけどね……整備できないしイコンの操縦は未熟だし」
どこか自嘲気味に言う澄香にルカルカは微笑みかける。
「私達に力を貸してくれるだけで十分よ。さあ、一緒に戦いましょう」
次いで自己紹介したのは二人の男のうちの一人で、やたらとメカメカしい見た目をした男だった。
「澄香のパートナーのキールメス・テオライネ(きーるめす・ておらいね)だ。まぁイコンの操縦にはなれてるが整備の人員足りなさそうなので整備員としてイコンの整備にやるだけの事を尽くすぜ」
そして三人目は二人の男のうちのもう一人――蛸型のギフトである。
「ワイはオクト・テンタクル(おくと・てんたくる)っちゅうもんや。ヨロシクな。やれそうなことを考えてみたねんけど、ギフトでまずイコンの操縦は無理、整備もできないとなると荷物運び位が妥当かと思うさかい」
関西弁を喋る陽気な蛸は触腕の一本を伸ばしてルカルカと握手を交わす。
自分が今、握手を交わしているのは関西弁を喋る陽気な蛸――その事実に不思議なものを感じていた時だった。
再び、ブリッジのドアが開いたのだ。
「あなたたちも来てくれたのね!」
その後、ルカルカは格納庫の方へと向かっていったキールメスとオクトを見送り、睡蓮と澄香に空いている席を勧めると、艦長席に戻る。
「現在の状況は?」
早速オペレーター席に座った睡蓮がルカルカに問いかける。
「今の所、整備に関しては【H部隊】の各艦に協力を要請して何とかなってるけど、迅竜自体の整備は淵とカルキの二人が火災発生箇所の対応で手一杯なせいで、機能が制限されている状態と言えるわ。やっと第二格納庫に続く通路がどうにか使用可能な状況に修復できたばかりだもの」
コンソールを叩いて手早くモニターに艦内の状況を出しながら、睡蓮は問いかけた。
「第二格納庫にはパイロットが未登録の機体が一機あるだけですが? 代替機が必要というのでしたら第一格納庫にレイとフォトン――ストークタイプ二機が待機状態で控えているのですから、そちらを使えばよろしいのでは?」
するとルカルカはじっくりと、言葉を選びながら答える。
「あの格納庫にあるのは迅竜や禽竜とともに団長から託された機体――そして、あの黒い“ドンナー”との戦いにおいてきっと必要になるであろう機体なのよ」
そこまで説明を受けた睡蓮だが、どうにも解せないようだ。
「しかしなぜ、そのような機体だというのにパイロットが未登録に?」
するとルカルカは苦渋の面持ちで答える。
「現時点で招集可能なパイロットの中に適格者がいなかったのよ――あの機体は特殊な機体だから」
説明を聞きながらコンソールを叩いていた睡蓮は、モニターに表示された情報でルカルカの言葉の理由を理解した。
「ふむ――マスタースレイブですか。しかもかなり精度の高い……なるほど、確かにこれでは機体性能を活かしきれるパイロットはおのずと限られてきますね」
しばし訪れる沈黙。
それを破ったのは、ブリッジの空気圧式自動ドアが開く音だった。
「――失礼。俺向きの機体があると聞いてきたのですが」
咄嗟に振り返ったルカルカは、ドアから入ってきた人物を目の当たりにして驚いた顔になった。
「あ、あなたは――」