リアクション
▼△▼△▼△▼ 渚たち一行は、講堂に到着した。 生徒の座席は教壇を中心として扇状に配され、後ろの席ほど階段状にせり上がっている。 「大きな黒板が2階建てになってるんですねー」 教壇の奥に位置する壁面には、上下2面を入れ違いにできるスライド式の黒板があり、その上方は巨大な映像パネルがつり下げられている。プロジェクター向けのスクリーンも、大きなものが教壇の左右に1つずつ置かれていた。 講義が終わってからしばらく経っているらしく、生徒の数は疎らだ。 「ここでは、どんな授業が受けられるんですか?」 「確か、電気電子工学だったはずだよ」 「何だか難しそうですね」 「そりゃまあ、それが分かるぐらいの頭を持ってるヤツしか編入できっこないからな。俺様も血反吐を吐く思いをしたんだしよお」 得意げに胸を反らす大鋸に、詩穂も感慨深げに頷いていた。 「てめえは一体、何が得意で編入の資格を得られたんだ? さっき、何だか目的がハッキリしないとかほざいてたよな?」 「ええとそれは……」 何やら言いよどんでしまった渚たちの前に、新たな人影が近づいてきた。 「久しぶりだな、君」 と、国頭 武尊(くにがみ・たける)は詩穂に話しかけた。「武尊ちゃん、おひさだよねー。こんなところで何してるの?」 「丁稚の方の依頼で、ここの購買に商品を持ってきたんだ。何だか大勢で、賑やかそうだと思ってな」 「一日体験入学の娘を案内してたんだよっ」 「そうか。パラ実だったらどこへでも連れて行ってやれるところだがな。どうだい嬢ちゃん、空大ってところは」 「凄く大きなところだなあって、びっくりしているところです」 「ははっ。パラ実、波羅蜜多実業高等学校と比べたら、ちっぽけなものだけどな」 「パラ実って、そんなに大きな高校なんですかあ」 しばしば耳にするパラ実の名前に、渚は興味を引かれているようだった。 「まあそうだな。このシャンバラ大陸すべてがキャンパスみたいなもんで、この空大すらパラ実の一部さ。本当の名前は、波羅蜜多実業・空京大分校って言うんだから」 「武尊ちゃん、渚ちゃんにウソを教えちゃダメだよ」 「なんだ君、知らなかったのか。この機会に覚えておくといい」 「だめだよ渚ちゃん。ダマされないでねっ」 「あ、えっと、分かりましたあ」 「空大よりフリーダム。地の果てまで続くキャンパス。ラフでアバウトな校風。努力次第で何でもできる。渚嬢がお望みとあらば、イコンですら操縦できるようになるのだからな」 「そんなにも大きな高校があったなんて。お父様も、もっと早くシャンバラに目を付ければ良かったのに」 「それはどう言うことだ?」 「私は高校3年だから、今さらパラ実に転校するのも難しいと思うのです」 「渚ちゃんは空大でいいと思うよー。だってパラ実って超危険なところも一杯あるんだから」 「印象操作は止めてもらおうか」 「そのセリフは、武尊ちゃんにそっくりお返しするよ」 「渚嬢、我らパラ実はいつでも転入を歓迎する。もちろんタダとは言わない。ささやかながら、被服費の一部を援助するプランを、オレは有している。洗濯から交代まで思うがままだ。興味があったらここを訪ねてみるんだな」 武尊は“夜露死苦荘・織田信長”という名刺と、世界的下着メーカー(相当の)「セコール」空京支社の国頭 武尊と名前の記された名刺を渚へと手渡した。夜露死苦荘と書かれた名刺の裏側には、目的地までの地図まで描かれている。 「待ってるぜ、渚嬢。それじゃあまたな、詩穂嬢」 「ばいばい。……しっかりパラ実の宣伝して行ったけど、渚ちゃんは絶対に空大の方がいいからね」 「そんなに危険な学校なんですか?」 「大鋸ちゃんを非行に走らせたような感じの人が、いーっぱい居るんだから」 「ひでえ言われ様だな。パラ実の同胞に対して謝れよ。俺様の出身校でもあるんだからな」 「ごめーん。悪気はないんんだけどね……。ちょっと大げさに言っておかないと、渚ちゃんが生きて行けなくなっちゃうから」 「てめえは過保護だなあ。空大に入りたいって事は、つまりはシャンバラを闊歩してえって言うコトだろ。パラ実とつるむくらい、何でもないと思うんだがなあ」 「いーのいーの。でも渚ちゃんには、強力なパートナーを見つけてあげないと心配かなあ」 「パートナー、ですか」 「渚ちゃん? この世界のことほとんど知らないの?」 「あはははは……すみません」 「この世界の住人とパートナーを結ばないと、この空京の市街地から外の世界は自由に歩けない」 「そうなんですねえ。うーん」 詩穂と大鋸は顔を見合わせて深いため息をついた。 三鬼と三二一は国頭の事が気になっているようだったが、執事はホホッ……っと微笑んで、渚のことを温かく見守り続けるだけである。 |
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