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「やっぱパラ実に通じた空大生って、マジ半端ねえよなっ」
「あんたさあ、干し首ぐらいでガキみたいに泣くことないじゃん。ホント、マジ乙女だよ。箱入りってゆーの?」
「しょうがないじゃないですか。まさか本物の干し首が作られていたなんて」
「ホホッ……何やらお嬢さまには毒気が強すぎたようですな。左様でございますか、干し首ですか。実に波羅蜜多らしい。ここは複雑怪奇な世界ですのう」
「干し首がスゲーとか言ってる三二一とか、俺的にありえねえわ」
「三鬼まで顔蒼くしちゃってるし。ホントに男なの?」
「ったりめーだろ、ふざけんなよっ」
 渚たち一行は、キャンパスに施設されているコンビニへとやって来た。
 店内は日本各地に点在するコンビニと遜色ない感じだが、一部の著名な生徒のブロマイドやヌイグルミなど、空大にまつわるグッズのようなものも大々的に売られているのだ。教師たちは本館上層のカフェテラスを利用する事が多いので、かなり気楽に使えるお店である。
「なんだか、日本にいるみたいですね……」
 モチベーションがネガティブへと割り込んでいる渚の様子からは、あまり嬉しそうに感じられなかった。
 すると大鋸が、渚の頭をわしゃっあっと掴んでグリグリとなで回した。
「元気だせよ、いろんな事が体験できて良かったじゃねーか。これが空大を取り巻く世界ってもんだぜ!」
「そーだよ。自分で好きなものを見つけたら、それに向かって勉強すればいいじゃない。空大のカリキュラムは広く深くで有名じゃん。超めんどくさいよねっ」
「まあよ、三二一にも、いつか絶対に目覚めるときがやってくるぜ。そん時まで、三鬼が面倒みてやれよな」
「マジかよ。ずっと目覚めなくていいからな」
「頼りになるぐらい強くなってよ。……だっさ」


▼△▼△▼△▼


「そちらの方、どこか具合が悪いのですか?」
 グッタリとして塞ぎ込んでいる渚を心配した綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)とその連れが近づいてきた。
「ホホッ……ご心配をいただき恐縮でございます。先ほど少々“干し首”に中たりまして」
 さゆみのパートナーであるアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)も、渚のことが気になってしょうがないようである。
「本物を目の当たりにされたのですか……お察し申し上げます。最近、地球からいらしたのでしょうか」
「はい――」
 そこで渚の答えを、大鋸が引き取って続けた。
「――いやまあ、空大の一日体験入学ってヤツでよ。色々とパラ実スパイスの効いた冒険をさせちまったみたいで、見事にダメ方向へヒャッハーしたみたいなんだな」
 事情を聞いたさゆみは、どこか困った風な笑みを浮かべてしまう。
「あの、もしよろしかったら、私たちと3人で休憩しませんか」
「なんでえそりゃあ、俺様たちは除け者にするって言うのか」
「女の子だけで居た方が、安心して休まるかと思いまして」
 するとアデリーヌがフォローを差し入れた。
「ぐっ……うーん、そういうものなのか」
 大鋸はコンビニの壁に掛けられた時計を確認してから、渚に意思を確認する。
「てめえの判断次第だぜ。ここで少し、休憩しておいてやるか? 俺様は構わないぜ」
「えっと、でも……みなさんは」
「俺様はちょっと野暮用があるといえば、あるもんでな。何かあったら大声でギャーギャー騒げば、一端のナイト様が颯爽と現われて始末を付けてくれるだろうからな。ここはそういう所だから、まあ安心しろ。携帯電話を持ってるなら、ホレ、この番号に掛ければ通じる」
「わかりました。王さん、ありがとうございます」
「オーケー。そんじゃあおふたりさん、何かあったらよろしくな。後で合流しようぜっ!」
 三鬼、三二一、執事をまとめて担ぎ上げた大鋸は、渚を残してコンビニを後にした。
「それじゃあ、お茶にしましょっ」
「わたくしがご案内いたしますわ」
 アデリーヌを筆頭に、渚の空大見学が再開されたのである。

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 本校舎から少し離れた和装の喫茶施設に入った渚、さゆみ、アデリーヌは、しばらくの休息を楽しんだ。
「渚さんは、どうして空京大学へ編入しようと思ったの?」
「実はまだ……決まっていないんです」
「そうなのっ?」
 手の内で湯飲みをくゆらせていたさゆみは、目をぱちくりとさせてしまった。
「お父様の言いつけで編入を希望したので」
「色々と事情がありそうで、大変ね」
「あはは、そうみたいです。空大の生徒さんって、みんな、何かしらの目標を持っているんですね。凄いですっ」
「みんながみんなってわけじゃあないと思うけど。この大学の教授って、各界の権威を持つ人たちで占められているの。だから、自然と志の高い生徒が集ってくるんじゃないかなあって、思うなあ」
「そっかあ。なるほどお……」
「あなた、趣味や特技の嗜みは心得ていて?」
「書道と華道に、和弓、日舞、声楽、ピアノ、フルート、作曲に編曲と作詞……えっと、珠算、庭の掃き掃除、とか」
 さゆりとアデリーヌは顔を見合わせると、呼吸を合わせたかのように渚を見直した。
「波羅蜜多風に表現すると、後方支援専属よね」
「――ですわ。ミンストレルなんて打って付け。当に適任じゃないかしら」
「みんすと、れる?」
 今度は渚が驚く番である。
「吟遊詩人。あなたに相応しいと考えますわ」
「私が、吟遊、詩人……。吟遊詩人……うう、物静かに、物の哀れについて、竪琴をつま弾いて物語る?」
「えーっと、うん、確かにそういう面もあると思うわ。もちろん実戦的な部分もいっぱい訓練しなきゃだけど」
「イメージできないかも……それって、何かのお役に立てるんでしょうか?」
「それはあなたの努力次第――」
「――ね」
「えええええええっ。仮に吟遊詩人を志望したとして、誰に習えば……そうなると、やっぱりパラ実に転校して、一から自分で覚えた方がいいのかなあ」
「私でよければ、教えてあげられるよ。ミンストレルの経験有りだし」
「ホントですかっ!?」
「自分の身ぐらい守りきれなくては、パラミタでは危険ですわ。よくお考えになって」
「はいっ、ありがとうございますっ」
「よくってよ」
「お役に立ててうれしいわ。それじゃあ時間が許すまで、私たち3人で空大を探検してみよっか」
「うんっ」
「賛成ですわ」
「それじゃあ出発ね」
 さゆみが渚に手を差し伸べると、渚がそこへ手を伸ばし――そのふたりして差し伸べ合う手を、アデリーヌがちょうど真ん中で橋渡しをするように――子が両親の間で手を取り合うように――それぞれの手をそっと握った。
「ふふふっ。順路はわたくしにお任せください」
「もお、アディったら」
 3人は仲良く手を繋いで、空大本館の職員室、会議室、執務室、さらには校長室、保健室に留まらず、本館とは別に建立されているプラネタリウム、アクアリウム、舞踏場に武闘館、保育園、サナトリウム、学生寮、観測所(百葉箱も含む)、発電施設などを早足で巡ることができたのである。「次は図書館。読書はお好きかしら」
「はい、大好きですっ」