リアクション
▼△▼△▼△▼ 渚がたどり着いたのは、空京郊外に立つ古めかしい孤児院だった。 大鋸の二輪車が塀際に停められ、しかも後方に荷車が取り付けられてあるではないか。 二輪車のボディに「夜露死苦」のステッカーはかろうじて残っていたが、「放置国家×唯我独尊」あたりは力任せに剥ぎ取った痕跡があり、「(読み:めっぽうせいきん・ほうしあい)滅法精勤・奉仕愛」などという真新しいステッカーが貼り付けられている。 荷車に積まれたものでまず目を引いたのが、大きな牛乳輸送缶。そして色とりどりの果物や野菜などの食料品だった。その他には綺麗に織られたシーツをはじめとした寝具類に、薪やオイルといった燃料、日用雑貨……そして見張りと思われる少年がひとり立っていた。 「ダーくん、ただいまー。ナギちゃん連れてきたよーん」 元気な声を張り上げる美羽が、屋敷のポーチへと駆け上がっていく。 重々しい観音開きの扉が開かれると、エプロン姿の大鋸が姿を現わした。なんと彼は、乳飲み子を肩車している。 「おーっし、ご苦労だったな美羽。……ヒャッハッハッ、ナギちゃんか。早速あだ名を付けられたな」 「はい。ところでそのエプロンと赤ちゃん、どうしたんですか?」 「おおう、言わずもがなの事を聞きやがって。実は繁華街でまとめ買いを終えて帰ってきたところだったんだぜ。空大の見学とは確かに違えが、手伝ってくれねえか?」 「はい、できる範囲で」 大鋸が二輪車で買い付けた荷物を運び、孤児院の厨房で晩ご飯のこしらえを手伝いながら、渚はベアトリーチェから大鋸が空大に籍を移すまでに至った経緯を聞かせてもらえた。 「この孤児院は、大鋸さんが切り盛りを始めたんです。はじめは新手のビジネスで一儲けしようとして失敗したとか言ってますけど、単なる照れ隠しで。見た目はパラ実のヒャッハーさんですけど、子どもが大好きなんですよね。ここの切り盛りを通じて、社会福祉の大切さを知ったそうです」 「それで大鋸さんは今、空京大学で勉強を続けているんですね。素晴らしいです。やっぱりちゃんと、目的を持っている……」 「すまねえ渚ちゃん、俺様今日はもう手一杯になっちまった。空大にはちゃんと連絡しておくからよお、後は空京の街並みも楽しんでみねえか? 帰るときに連絡くれたら、ちゃんと送っていくからよ」 「はい。おつとめ頑張ってください大鋸さん。凄くカッコイイですっ」 「へへっ、なんだよ照れくせえ。――おっと、美羽とベアトリーチェの手も借りて、近くの公園まで子どもたちを連れて遊びに行く時間になっちまった。悪いな」 「それなら、途中まで一緒に行きましょう」 「ありがとよっ。てめえも何か、面白え目的を引き当てられるといいな。応援するぜっ!」 「そんな、お礼を言うのは、私の方です。ありがとうございましたっ、大鋸さん」 「礼なんて俺様にゃあ要らねえぜ。……よっしゃガキ共っ! いつもの公園に、ヒャッハーしに行くぞっ!!」 「「「「「「「ひーはああああああああー」」」」」」」 ▼△▼△▼△▼ 大鋸は子どもを肩車で3人も抱え、背中にはふたりの子どもを背負い、3人の子どもを抱っこひもで結わえて……子どもの鈴なり状態となっていた。渚も小さな子たちと手と手を繋ぎ合って童謡を歌い、手放しで駆け回る子どもに注意を促し続けている。美羽は大鋸や渚と一緒に童謡のを合唱しながら、車いすを元気に押していた。 ベアトリーチェを先導とした子どもの合唱隊が、空京の繁華街を行進していく。 「大鋸さんは、この子たちのために頑張らなきゃって思えた。だから目的が定まって、空大に通っている。私も頑張れることを、探してみようかなあ……吟遊詩人と両立できることとか」 物思いに耽る渚の視界に、見覚えのある人影が現われた。 俄然やる気の三二一と、くちびるを少し切っている風な三鬼である。 「俺はもうダルい、そろそろ諦めようぜ」 「今度こそ見つけたわ。さあ、あたしと一緒にパラ実へ――」 すると子どもたちが無邪気な笑顔を振りまいて三二一へと駆け寄るではないか。 「おねーちゃん、一緒にあそぼー」 あっという間に子どもたちの遊具と化した三二一は……子どもの相手に夢中となった。 「お、おい……ガキの相手なんてしてんじゃねえよ。もういい、俺は先に帰るからな、好きにしろ」 「うんっ! またねー三鬼、バイバイッ」 公園に集うみんなを見届けた渚は、邪魔にならないようお暇することにした。 「ナギちゃん、また遊びに来てねっ。待ってるよ」 「またお会いしましょう、いつでも歓迎いたします」 「じゃーなー渚ちゃん。よーし、てめえらっ、ネーチャンにサヨナラだっ」 「「「「「さよーならっ」」」」」 「またね、みんな。大鋸さん、またお会いしましょうっ」 渚の傍には、いつもと変わらない佇まいの老執事が見守っている。 「ホホッ……では参りましょうか、お嬢さま」 「はい、爺やっ」 子どもたちはみんな、大鋸、美羽、ベアトリーチェのことが、とびきり大好きである。 |
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