リアクション
▼△▼△▼△▼ 「ウワサのお嬢ちゃんってのは、おまえかあ」 空大のキャンパスを駆ける三二一と渚と併走する男子、南 鮪(みなみ・まぐろ)が現われた。 「国頭が言ってたとおりのイイ女じゃねーかあ。よく来たな、ここが波羅蜜多実業空京大分校だ!」 「丁度いい。あたしとこの娘を近くのパラ実に連れてってくれない?」 「パラ実にか? んまあ、朝飯前だぜえ。俺のスパイクバイク(二輪車)に信長が乗ってらあっ」 鮪が指笛を高らかに吹き鳴らした。すると、破裂音を轟かせる二輪車に“ちょんまげ”を結った初老の男・英霊織田 信長(おだ・のぶなが)が跨がって姿を現わした。 「されば、わしが面倒を見ておる“夜露死苦荘”へと参ろうぞ」「よっしゃあ、振り落とされんじゃねえぞっ。行くぜ、ヒャッハァー!」 そこへ大鋸たちがやって来るも、二輪車の速度には到底追いつけそうもなかった。 「おーい、大鋸っ。夜露死苦荘まで遊びに行って来るぜえーっ!!」 「待ちやがれ怒畜生野郎があーっ!!」 三二一と渚、そしてかろうじて付いてきた三鬼を束のようにして抱えた鮪は、信長の二輪車へ飛び乗って空大を離脱することに成功した。 ▼△▼△▼△▼ しばらく走り続けた二輪車が停止すると、渚たちの眼前には古めかしいアパートがそびえ立っていた。 使い古された“のれん”には“夜露死苦”の文字が躍り、“荘”という文字が別途縫い付けられている。 「ここはいったい、どこなんでしょうか?」 恐る恐ると言った様子で渚が質問すると、鮪は自信たっぷりに彼女と相対した。 「ここがパラ実の一丁目よ。転入するためには必ず潜らねばならない唯一の抜け道でもある。ようこそパラ実へ」 「これ鮪よ、パラ実への抜け道とは聞こえが悪いであろう。うむ、苦しゅうない。渚とやら、その方らも、楽に致せ」 そう言われたものの、渚にはただの荒れ地としか感じられなかった。せめて夜露死苦荘と呼ばれたアパートの一室にお邪魔できれば……と、ヨコシマな事もちょっぴり考えたのだが。 「ここはパラ実の、どの辺りなのですか? 校舎を見てみたいのですが」 「ああ、校舎はな、あまりのフリーダムさが昂じて再建の真っ最中らしいぜっ! スケールの違いが分かるだろ? パラ実の方がゴッド級に自由気ままな楽しい生活を送れるってもんだ。そこのふたりはパラ実生なんだろ?」 「あたしらはもちろんそうだよ、なんか夜露死苦荘も久しぶりだけどー」 「信長さん、ちーっす」 「ふむ、相変わらずなヤツめ。まあよしとしよう。して渚とやら」 二輪車からゆるりと降車した信長は、渚を傍へ呼びつけた。 「波羅蜜多実業高等学校へ入るためには、この夜露死苦荘を経なければならない掟じゃ。おぬしが臨むのならば、いつでも歓迎しようぞ。じゃが既に空大で学ぶ覚悟が座っているのならば、迷いなく空大へと進み、存分に己を鍛えるがよい」 「やりてぇコト見つけたり、自由気ままに生きたければ、パラ実も悪くねえ。パラ実・空京大分校に籍をおく俺や信長としても、パラ実の後輩が増えるのは嬉しいぜ。総力を挙げて歓迎会を開いてやるからよお」 「と言うことは、おふたりは空大生の先輩と言うことになるんですか?」 その問いに鮪と信長の眉が鋭く反応を示した。 「だから、パラ実の大分校が空京大学だっつーの。あったま硬ってえんだなあ。波羅蜜多実業・空京大分校。それを略して空大だぜ!」 「なるほどっ! 分かりましたー」 「よーし、分かればイイ。今日はお前らに必勝マニュアル“波羅蜜多実業空京大分校卑通勝法(著:南 鮪)”をくれてやろう。そっちのふたりにも特別に配ってやるから、一字一句逃さず読み込んで、我らが空大へのし上がってくるんだぜ」 そう言って鮪は、夜露死苦荘へと突っ走っていった。 「あたしはパラ実で充分だよ」 「俺はまだ、そんな先のコト知らねえな」 「鮪め、今日は随分と張り切っておる。夜露死苦荘に入りたければ、彼奴に使いを出すがよい。まあ最も、そなたらにその気があれば、わし直属の配下として召し抱えてやってもよいのじゃがな。フッハハハハハハハハッ……」 「あはっ、あははははは……っ」 「己の歩む道を最も強く輝かせ、広き世を見定める道選びに空大での学びは必須ぞ。捨て難き己が道があるならば、後々より戻れば良いだけであろう」 「はい」 ▼△▼△▼△▼ 鮪より分厚い著書を受けとった渚、三鬼、三二一は、夜露死苦荘よりでてきた藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)と出会った。 「あら信長さん、こんにちは」 「おや、出かけるのかね」 「空大の研究室で、展覧会の準備がありますの」 「パラ実と空大って、本当に親密なんですね」 「だからさっきから言ってんだろう? 空大はパラ実大分校だって」 「あらあら」 優梨子はクスクスと微笑んで、渚の前にやってくる。 「新入りさんかしら」 「いえあのう、そういうワケではないんですけども……」 「信長さん、また強引にお客様を連れていらしたの?」 「おぬしはわしに責があると申すか」 「いいえ。でも、どちらからいらしたのですか」 「空京大学の方から、乗せていただきまして」 「そうだったの。私これから空大へ行くのですけど、一緒に帰りましょうか?」 「そうですね……」 チラリと鮪や信長、三鬼や三二一を一瞥してから、 「よろしくお願いします」 と、優梨子と道程を共にする事となった。 |
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