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リアクション
1章 ゾンビ無双
佐野の通信を受けた、小学生高学年くらいの身長で伊達眼鏡をしている女の子が高らかに宣言する。
「40万かぁー。それじゃ、30万を目標に行きますかっ!」
【大魔杖バズドヴィーラ】を構え、彼女は無邪気に走り出す。
「さぁーて、無双の始まりだ!」
■
街で一番広いであろう大通り。動く屍が闊歩する異常な地。
そこで、成田 樹彦(なりた・たつひこ)は両手に持つ【シュヴァルツ】【ヴァイス】を適当に乱射していた。勿論、ゾンビの群れに、である。
「これだけいると適当に撃っても割と当たるな……」
成田が撃った弾は、ゾンビの頭や腕や足に次々と撃ち込まれる。その度に頭や腕や足が、赤い鮮血を周囲にまき散らしながら吹っ飛んでいく。
手に持つ通信端末を見ると、ゾンビの討伐数カウンターが次々と更新されていく。成田のカウンターは、もうすぐ5000というところであったのだが、そこで、
「っと、弾が切れそうだ。姫月! 頼む」
「う?。気持ち悪いなぁ……」
言いながらも、仁科 姫月(にしな・ひめき)が前に飛び出し、【緑竜殺し】を構え、ゾンビの群れへ突撃する。
「うりゃりゃりゃー!」
走りながらすれ違うゾンビの頭を次々と跳ね飛ばして行く。頭を失った躯たちは、血を噴出させながらガクリと膝をついた。
「うん。やっぱり頭を狙えばいいのね……って、あれ?」
彼女が疑問をもったのは、今の攻撃で倒れなかったゾンビがいたからだ。首を失っているのに、よろよろとこちらへ寄ってくる。
そのゾンビは他のゾンビとは少し違った姿をしていた。皮膚が黒いペンキを浴びたように真っ黒なのだ。やがてそのゾンビに異変が見られる。
「な……ッ!?」
黒いゾンビの首から、触手のようなものが飛び出たかと思うと、そのままぐちゃぐちゃと触手が絡まり合い、やがて人間の頭部のようなものを象りはじめる。
「飛ばしたハズの頭部が再生した!? まさか……変異種ってヤツ?」
試しに、再び頭部を跳ね飛ばしてみる。ついでに足や腕も跳ね飛ばす。しかし、黒いゾンビは瞬く間に再生してしまう。
「どうしよ……。再生し続けるんじゃどうしようもないよ……」
と、その時、背後から「どいて下さい」という男の声がする。何事かと姫月が見てみると、大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)がどでかい【機関銃】を構えていた。
「再生し続けるゾンビか。ならば死ぬまで殺すまで!」
ドドドドドドッ!! という轟音をまき散らしながら、銃弾もまき散らす。
「おおおッ! 弾幕はパワーだぜ!」
次々と射出される弾丸は、多少ばらつきがあるものの黒いゾンビの身体に命中していく。一発ごとに身体のどこかの部位がどこかへ吹っ飛んでいくが、それも次々と再生していく。
「火力が足りないな。コーディリア! 砲撃支援を要請します!」
剛太郎が叫ぶと、コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)が自身の【光条兵器】を使い、自身の体からレーザーを射出する。レーザーは黒いゾンビの胴に命中し、貫通した。同時に、背後のゾンビの群れも一掃する。
さすがにこの攻撃には耐えられなかったようで、黒いゾンビは崩れ落ちた。と同時に、コーディリアのカウンターの数値が大きく変化する。
「あら? あ、なるほど。今の変異種とやらを倒せば、普通のゾンビの1000体程の討伐数となるようですね」
「うふふ、それはいい情報を聞きましたわ」
ソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと) はコーディリアの話を耳にして、変異種の捜索に出ようと【フロンティアソード】を構え、近場のゾンビをまとめてぶった切るが、
「待ちなさい! その前に自分の弾薬の補給を要請するであります!」
と、剛太郎がソフィアに叫んだ。機関銃の弾薬はソフィアのリュックに詰め込んであるのだ。
「むぅ、仕方ないですわ……」
ソフィアはしぶしぶ剛太郎のもとへ引き返す。それと入れ替わりになるように、霧島 春美(きりしま・はるみ)がゾンビの群れへ突っ込む。
「ワトスンGO! いい、ゾンビの脊髄を狙って! 変異種含めたゾンビの全員無力化させるよ!」
ワトスンと呼ばれた【トランスフォームカー】が、スポーツカーから人型ロボットに変形し、群れへ突撃していく。
そして霧島自身も、【バリツ】という空手と柔術をミックスしたような格闘術を駆使し、ゾンビを次々と殴り倒し、蹴り倒していく。
「お見せしよう、ホームズバリツ! 全身の力をこめた必殺の蹴りを、あなた達の脳天にお見舞いしてあげる!!」
言いながら、ゾンビの首を足で的確に捉え、へし折る。
「砕け散れ、【名探偵のパイプ】! そこっ! 【ビームレンズ】! まとめて地獄へいけぇー! 【百獣拳】! のらあぁーッッ!! 【ホワイトアウト】ッ!」
自身の武装とスキルを十二分に発揮し、ゾンビを片っ端から吹っ飛ばしていく。
「よし追い込んだ、ワトスン今よ!」
叫ぶと、ワトスンが追いこめられたゾンビを、その大きな腕でまとめて殴り飛ばす。ゾンビ達はビルに思い切り打ち付けられた。
「うん、今ので結構討伐数も貯まりましたね! ファンタスティック♪」
霧島は上機嫌で辺りを見回す。今のでここら一帯のゾンビは全滅したようだ。
「よし! では皆さん、次に行きますよ!」
一行は次の獲物を探しに駆け出した。
■
「あー……? 何ですか?」
それは、ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)が一人でゾンビを狩っていた時に、突然襲って来た。
「変異種ってやつか……?」
その変異種は、2つだけ普通のゾンビとは違うところがあった。まずは、両手首から、すらりと鋭い鎌が生えていることだった。そしてもう一つは、恐ろしく素早いを動きをすることだった。
ハイコドの目の前、目と鼻の先に、『それ』はいた。状況を詳しく説明すると、ハイコドが変異種の鎌による攻撃を【自在】により盾を形成し、受け止めているのである。
「こんなのもいるのですか。素早く接近し、奇襲してきたのは良いですね。鎌というのも良い。突き刺してしまえばそう簡単に抜けない。相手を拘束し、噛み付くことができるというわけですね。成程、剣呑剣呑」
言葉はおそらく通じてはいないのだが、それでもハイコドは続ける。
「でも、近づき過ぎたのはマズかったですね。何故なら――」
瞬間、キュガッ!! と、甲高い音が響く。ハイコドの【肩義手】から、エネルギー弾が発射された音だった。変異種の頭めがけて、零距離の砲撃である。変異種の頭部は跡形も無く消滅し、胴体は崩れ落ちた。
「これだけ近ければ射撃センス0の俺でも当たりますよね。【ウプウアウト】で切り刻んでも良かったのですが――」
言いかけて、ハイコドは気づいた。
さっきの砲撃の音に反応したのか、先程の変異種が計8体程、目の前に出現している。
それを見て、彼はにやりと嗤う。これだけの『的』があれば、色々なことが出来る。経験が積める。それが『強さ』に繋がる。
「……あァ、わざわざご苦労さん。呼んでも無いのに殺されに来てくれて。キシシ、さて、どれから殺っていこうか?」
■
「なんつーか……危険極まりないっつーか……そうじゃねぇっつーか……。ソレ以前になんでこんな厄介な任務受けたのか小一時間問いつめたいっつーか……」
ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は頭を掻きながらボソボソと呟く。彼はこの任務に少なからず危機感を持っているようだ。
「まぁいいじゃないですか。先程入った情報によると、変異種も結構いるようですが……。珍しく真剣なご主人様なら大丈夫ですよ」
ベルクの横で情報収集をしている、自称ハイテク忍犬の忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が言う。
「まぁ、今更どうこうしたってしょうがねぇしな。……それにしてもどうしてあんなにやる気出してんだ?」
「さぁ……。いつもあの状態だったら色々と楽なんですけどねぇ」
と、愚知をこぼすように言う2人の目線の先には、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が無数にいるゾンビをバッタバッタと薙ぎ倒していた。
「完全に動きを止める以外、あなた方をお救い出来ぬならば致し方ありませぬ。これ以上被害が出ないよう、私たちは任務を果たすのみ。全て殲滅するだけ故……お覚悟頂きましょう!!」
ザクザクザクザク――ッッ!! と、【忍刀・雲煙過眼】を振り回し、まるで草を狩るかのようにゾンビの首を飛ばして行くフレンディス。その姿はいつもぽやぽやしている彼女とは思えない。
「容赦はしませんよッ!」
フレンディスは【鉤爪・光刃】を取り出し、鉤爪のついたワイヤーを射出する。
「ん、あぁッ!」
ワイヤークローを、自身を中心にして円を描くように、ぐるぅん! と思い切り振り回す。彼女の周辺にいたゾンビたちは、ワイヤーに巻き込まれ、体の一部分がちぎれ飛んだり、体が真っ二つになってゆく。
「俺の【魔除けのルーン】、必要なかったか? つーか本当に容赦ねぇな。なんだあの人間竜巻」
「今のご主人様の視界に入った者の判断基準は、『倒すべき敵か、否か』。それだけでしょうね。……でも、これが終わればまたぽやぽやし始めるのでしょうね……」
「あぁ……、間違いないな」
ベルクとポチの助は、2人して遠い目をする。
「まぁいいや。さて、そろそろ本格的に支援すっか。ポチも適当に頑張れな」
「そうですね。誤射という名目でとあるエロ吸血鬼に重力弾ぶち当ててしまうくらい適当に頑張ります」
「はっはっはやってみろ。打ち返してやるわ」
やいやい言い合いながらも、2人は戦場へ足を踏み入れる。
無双はまだ、始まったばかりだ。
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