First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
Next Last
リアクション
3章 轢いたり倒壊したりかゆうましたり
百貨店や専門店が立ち並ぶ大通り。相も変わらずゾンビが蔓延る繁華街。
その大きな道を、車とバイクが屍を轢き殺しながら突っ走っていた。
車の方は強化装甲を施した【装輪装甲通信車】。ドライバーは国頭 武尊(くにがみ・たける)、猫井 又吉(ねこい・またきち)である。
バイクの方は【聖槍ジャガーナート】を【ブライドオブバイク】に、先端をバイクの前方に向けて固定する形で装備している大型バイク。ドライバーは朝霧 垂(あさぎり・しづり)、朝霧 栞(あさぎり・しおり)である。
両方とも乗り物を使うということで、一緒に行動していたのだった。
「細かい事を考えたってしょうがねぇ! 要はゾンビの数を減らせば良いんだろ? 気合入れていくぜっ!!」
垂が叫びながらバイクを乗り回す。バイクの通った後には、槍に刺されたりバイク自体に轢かれたりして、体がバラバラになったり圧迫されたりと、至極残酷な状態にされたゾンビたちが残されている。
ジャガーナートの性能によってバイクの速度は数倍にもなっている。その上、ゾンビを轢き続けていることでタイヤは脂肪や血が潤滑油のようにぬるぬるになっていて、とても走れる状態ではないのだが、そこは【卓越の運転術】でカバーである。
「お! アレ変異種じゃないか?」
垂の視線の先には、変異種『ツールボックス』がいた。体は少し大きめで、工具が体の至る所から突き出ている。両の肘から先が、チェーンソーと化していた。ツールボックスは口から何かを吐き出す。それはまきびしのようなものだった。
「トラップ! タイヤをパンクさせるつもりか!」
垂はすぐにブレーキをかける。脂肪と血で滑るが、ギリギリのところで停止できた。
そこで、垂の後ろに乗っていた栞が【封印の魔石】を取り出す。
「にゃははは〜、【封印呪縛】!」
栞が叫ぶと、ツールボックスが【封印の魔石】に吸い込まれるようにして閉じ込められる。
「チェーンソー男、ゲットだぜ!!」
「栞、まだまだいる! 変異種を中心に捕獲してくれ!」
2人を乗せたバイクは、ゾンビをものともせずに突き進んで行く。それを見ながら、又吉は呟く。
「なんか男らしいねーちゃんたちだな……。バイクの後に残されたゾンビがミンチよりひでぇや」
言いながら又吉は車の後部ドアを開き、追いすがってくるゾンビを火炎放射器で焼く。
「あーうーあーうーうるせぇな。ゾンビは消毒だーってか」
そうしていると、車を運転している国頭の焦る声が聞こえてきた。
「やべっ! 又吉! 脱出だ!」
又吉が何事かと思うと、車が大きく傾き始める。ゾンビの束を踏んだことで、前輪がスリップしてしまったのだ。
「うっ……おぉ、危ねぇ」
車が倒れてしまう寸前に、2人は脱出する。又吉の【空飛ぶ箒】で手近なビルの屋上へ移動する。
「武尊。あの娘たちはいいのか?」
「別にいいだろ。見てみろ。どんどん轢き殺してどんどん捕獲していってるみたいだし」
そうしているうちにビルの屋上に辿り着くが、
「うぉ! ここもゾンビだらけか!」
屋上にはゾンビが押込められていた。数体、変異種も見られる。
「しょぉがねぇなッ!」
国頭は【サンダーショットガン】を装備し、近場のゾンビから吹っ飛ばす。
「なんか……あれだな。ショットガンとか使ってると、映画とかゲームの主人公みたいだな。……又吉! その辺のガラクタで簡単なバリケード作ってくれ。応戦する!」
国頭がショットガンを所構わず撃っていると、『シックル』が素早く近づき、奇襲をかけてきた。それを躱し、【ラスター土煙爪】で八つ裂きにする。
「へっ、来るなら来てみろゾンビども。片っ端から蹴散らしてやるぜ!!」
■
とある大きなビルの中。
ゾンビのうめき声と、鈍い銃声が響いていた。
【シュヴァルツ】【ヴァイス】の銃声である。銃の持ち主はジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)である。
「生き残りを救助するにしても、まずゾンビどもをどうにかしないとな」
彼は冷静に【カモフラージュ】を用いて、オフィスの机などに身を隠しながら、【スナイプ】でゾンビの脳天のみを次々と狙い撃ちする。忍び隠れ、確実にとどめを刺す。
脳天を撃抜かれたゾンビは、銃の威力が高いのか、着弾と同時にもげるように頭が首から離れてしまう。頭部が木っ端微塵になりもしている。ゾンビはジェイコブを襲おうとするが、いかんせんすぐに隠れてしまうもので、見失ってしまう。
「リロード!」
どこぞのダンボール好きの伝説の傭兵のような渋い声でジェイコブは叫ぶ。
後方支援をしていたフィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)がジェイコブと入れ替わりになるように前方へ出る。
「【炎の聖霊】!」
フィリシアの魔法で近場のゾンビが燃える。しばらく燃焼した後、残るは焦げた肉塊のみ。
「燃やしたのは間違いでしたかね……。人の焼ける匂いがすごいです。ジェイコブ、リロードは済みましたか?」
「あぁ、大丈夫。さて、もう一踏ん張りだ!」
ジェイコブは再び銃を構える。
フィリシアは【サンダーブラスト】や【ファイアーストーム】、【天のいかづち】などの、中、遠距離攻撃魔法で迫り来るゾンビたちに炎や電撃を浴びせる。
ゾンビは銃撃により頭を飛ばされ、体を焼き尽され、電撃で頭を内部から破裂させられていた。まさに一方的である。
やがてジェイコブは、通信端末を取り出し、それに向かって叫ぶ。
「よし、そろそろいいだろう。銃や魔法の音でビルの中にも、外にもゾンビが集まってきたハズだ。おい! すぐに脱出する! 2分後にここをぶっ壊せ!」
■
「りょーかい、と。」
ジェイコブたちがいるビルから少し離れたところに、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)はいた。
恭也は通信端末をしまうと、【召喚器『折れた太刀』】を取り出し、ボロボロの鞘に納まった太刀を抜く。すると、機械仕掛けの鎧武者が召喚される。
「さて、あちらのフィリシアってのがビルの柱にダメージを与えてくれているらしいから、幾分簡単だろう。ビルを根元からぶっ壊してこい」
命令を受けた鎧武者はビルへ突撃し、それを見送って約2分後。
ドゴオオオオオッ!! という轟音が鳴り響いたかと思うと、ビルの1階、2階部分が爆発を起こし、そのままガラガラと崩れていく。
崩れた瓦礫が外にいるゾンビに降り注ぐ。中にいたゾンビも、勿論ビルと一緒に潰れているだろう。
そして、恭也は、無事にビルから脱出していたジェイコブたちが近づいてくるのに気づく。
「おー、成功したな。……それにしても、いくら何でも強度無さ過ぎだろ。ここのビル。2分で壊せるって」
「まぁな。中身がこれだからな」
言いながらジェイコブが瓦礫の一部を持って来たのか、恭也に見せる。
瓦礫の中にちらりと見えるのは、鉄骨などではなく、竹やベニヤ板だった。
「おぉう……。よくこんなんでビル建ったな」
「あぁ、……さすが中国式、というわけだ。まぁそんな事はどうでもいい。さて、とっとと次に行くぞ!」
■
広場があった。
その広場を円状に囲むようにビルが立ち並んでいる。この地形を利用して、ゾンビの殲滅を目論む者達がいた。
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)である。
彼女は広場にゾンビを出来るだけ誘い込み、その広場へ向かって周りの全てのビルを倒させ、一掃を狙っていた。
そしてその準備は既に完了していた。
ぞれぞれのビルの構造、配置を調べ、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)にビルを倒壊できるだけの爆弾を渡し、仕掛けるように指示。自身とイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)はゾンビの誘導をしていた。
コルセアは既に爆弾の設置を完了し、ビル群の外に脱出していた。葛城とイングラハムはゾンビの誘導がある程度完了。ざっとみただけで3万はいるだろう。あとは葛城自身が持つ爆弾の起爆スイッチを押せば、ビルは倒壊、広場のゾンビは殲滅できる。
「爆弾はちゃんと仕掛けたでありますか?」
ゾンビの誘導の為に未だに広場にいる葛城は、HCでビル群の外へ脱出済みのコルセアと連絡をとる。
『えぇ、完璧よ。あなたの持つスイッチを起動させれば、ビルは広場へ向かって倒れ込む。ゾンビを一掃できるわ』
「そうでありますか。ではポチッとな」
葛城は何のためらいもなくスイッチを押す。瞬間、ビルの根元が爆発し、広場へ倒れ込んでくる。
「おぉ、ちゃんと倒れて――、あ」
葛城はここで気づく。自分の脱出が済んでいないということに。
「あー、脱出、考えて無かったであります!!」
『あ、……ってはぁ!?』
コルセアは焦るが、既にビルは倒れかけている。さらに、葛城の焦る声が聞こえてくる。
「おお!?」
『何よ!?』
「イングラハムがゾンビに噛まれたようであります!」
葛城の目の前で、イングラハムが数人のゾンビに襲われ、噛まれてしまっていた。
『は……!? あー、でもまた蘇るでしょ』
コルセアは、ポータラカの科学力とやらで何をされてもすぐに蘇るイングラハムの事は特に気にしていないようだ。そうしていると、イングラハムが何か呟くのが聞こえてくる。
「かゆ……うま……」
「うま……!? ゾンビでありますか? ウマいのか!?」
どこぞの蛇の如く反応する葛城。だが実際、そんなことをしている場合ではない。ビルはこうしているうちにも、音をたてながら倒壊している。
『ちょっと! はやく逃げなさいよ!』
コルセアは言うが、突然HCから何かが崩壊する音が連続したかと思うと、やがて通信が切れてしまった。コルセアはどこぞの大佐の如く、叫ぶ。
『吹雪! 応答して! 吹雪ィィィィーーーッッ!!』
■
ドゴォッ、と、瓦礫を粉砕する音がする。
「あ、大丈夫?」
背の小さい伊達眼鏡の女の子は、瓦礫の下にいた葛城に声をかける。女の子は、【ブラックダイヤモンドドラゴン】で上空を探索中、偶然ビルの崩壊を見かけてやってきたのだった。葛城は気がつく。
「おぉ!? 死ぬかと思ったであります。ありがとう。助かったでありま――あれ?」
ふと気がつくと、女の子はどこにもいなかった。無事が確認できたからもう用は無いとでもいうのか。それとも急いでいるだけなのか。
「礼くらい言わせてくれてもいいと思うのであります……」
葛城は呟き、心配しているであろうパートナーに無事を伝えるため、HCを掴んだ。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
Next Last