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リアクション
九
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス(どくたー・はです)! 明倫館を裏から支配する悪代官ハイナ・ウィルソンに天誅を!」
ハデスは暴徒に感化されたのか、【優れた指揮官】として彼らの先頭に立っていた。小競り合いと撤退を繰り返しながらも、おそらく他の集団と比べても、ハデスの一団は最も明倫館に迫っていただろう。
「既存の秩序構造の破壊と、その後の真の平等社会の実現を謳う僕らオリュンポスにとって、葦原藩へのアメリカの影響力を弱めることは非常に重要です」
と、語ったのは天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)だ。彼はハデスと違い、全く正気だったから、これは本音だろう。
十六凪はまず、【情報攪乱】を行った。その上で、明倫館のコンピューターに一ユーザーとして侵入し、オーソンが城下町に現れたこと、ミシャグジが動いているらしい、との偽情報を流した。更に別人に成りすまし、暴動の首謀者と思われる九十九 雷火を捕えたため、ハイナに首実検を頼みたい、とのメールを送った。
「さて、どう出ますか」
指定したのは、ハデスが暴れている地区からは離れた場所だ。
しばらくして、ハイナが現れた。一人だ。その知らせは、遥か上空の機晶戦闘機 アイトーン(きしょうせんとうき・あいとーん)とヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)へもたらされた。合体パーツで「合体機晶姫ヘスティア・ウィング」になった二人は、急降下し、ハイナを確認した。
「――アイトーン!」
ヘスティアは息を飲んだ。彼女たちの前に現れたのは、エーリカ・ブラウンシュヴァイクが操縦する航空戦闘飛行脚【Bf109G】だった。
「くそ――!!」
Bf109Gとアイトーンは、すれ違いざま、弾を発射した。ボッボッ、と互いの翼に穴が開く。機関銃を乗せたBf109Gは重く、旋回したときにはアイトーンの姿はなかった。
「どこ!?」
エーリカは敵を探した。
「こっちだ!!」
機晶アクセラレーター二基でスピードを上げたアイトーンは、一瞬にしてBf109Gの背後に回っていた。
「あばよ!」
照準は、ぴったりBf109Gに合っている。アイトーンから発射された弾は、Bf109Gのエンジンを貫いた。
「しまった――!!」
Bf109Gのバランスを取りながら、エーリカは不時着できる場所を探した。城下町から離れた場所に大きな湖があった。そこしかない――エーリカは已む無く、戦線離脱した。
Bf109Gに勝利したものの、アイトーンも翼が傷つき、機晶アクセラレーターを使ってしまったために、二度目の空中戦は出来ない状態だった。なるべく早く、目的を達しなければならない。
「いません!」
ヘスティアは焦った。エーリカとの戦いに夢中で、肝心なハイナを見失ってしまった。――実はこれも偽物だったが、二人は無論、知る由もない。
「ヘスティア! 敵だ!――車だと!?」
F4Uコルセア【エアカー】が、アイトーン目掛けて突っ込んでくる。空飛ぶ車に、アイトーンもヘスティアも唖然となった。
「アタシの勝ちだ!」
アルビダ・シルフィングがF4Uコルセアから飛び上がった。宙を飛び、手にしたバトルアックスをコックピット目掛けて振り下ろした。
「まずい!!」
アイトーンは咄嗟に、ヘスティアとの合体を解いた。二人は錐もみ旋回しながら、落ちて行った。全身に衝撃を受け、ヘスティアは自分の身体がバラバラになったような気がする。それでも、手や足は動く。ハデス様の下へ行かなければならない――。
辛うじて動かした手は、しかし、アルビダのニーハイブーツで踏みつけられた。
「これ以上やるってなら、首を斬られる覚悟もしな……」
アルビダの左手には「禍心のカーマイン」が握られ、銃口はアイトーンに向けられていた。
「――失敗のようです」
アイトーンからの連絡が途絶え、十六凪はそう判断した。となれば、いつまでもこうしているのは得策ではない。だが、ハデスは調子に乗ってどんどん明倫館に近づいていく。
その時、ベキベキバキバキと家々を踏み潰しながら、何かがこちらへやってきた。それは、黄金の機晶戦車だった。
「趣味の悪い……」
と十六凪は顔をしかめたが、ハデスは大喜びだ。
「十六凪! あれ欲しいぞ!」
戦車の上部にはなぜか玉座があり、招き猫が鎮座していた。マネキ・ング(まねき・んぐ)だ。
「フフフ……漁火とかいうチンドン屋め! 暴徒を煽動してアワビを盗る気であるな! どうやら我が直々に始末を付けねばならぬようだな……!」
いや、それはないだろうとセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)は思った。どうやらマネキが大事なアワビを隠した場所と、今回の暴動が起きている地域が悉く一致しているらしい。だが、それはただの偶然だろうとセリスは考えている。
それでも暴徒を鎮圧するという目的は果たせるので協力しているが、機晶戦車に実弾を装填しているのを知って、猛烈に反対した。マネキは不満そうだった。
「ハイナの名のもとに、武力で人民虐殺が基本だ――」
「○△□×☆◎!?」
「わ、分かった!」
何を言っているかは分からないが、セリスが怒っているのだけは分かった。仕方がないので、実弾の代わりに、
「食らえ! 大蜘蛛のハンモック!!」
どんっ、という音と共に砲身から撃ち出されたハンモックが、暴徒の上に被さる。
「何だこれは!?」
「引っ掛かって――馬鹿、動くな!」
「アイタタタ!」
人々がハンモックに絡まって身動き取れなくなっている。
「フハハハハ! どうだ! 人がアワビのようだ!」
「おのれ悪代官の手先めぇ!!」
ハデスは戦闘員たちを機晶戦車に突撃させた。だが彼らもバタバタと倒れていく。
「む!? 何事だ!?」
ひらり、とどこからともなく降り立ったのは、
「ヌハハハ! 我が名は、正義の改造人間マスク・ザ・ニンジャ(ますくざ・にんじゃ)! 私の改造プランを狙っているという悪の首謀者は、貴様だな!?」
「……どこかで見たような」
十六凪はぼそりと呟いた。
「何ぃ!? 改造人間だと!? 俺以外にそんな技術を持つ者があろうとは……興味深い」
マスク・ザ・ニンジャは服を剥ぎ取った。その腹部に、にょっきり銃が生えている。
「食らえ! タカマガハラバスター!!」
タカマガハラバスターが火を噴いた。既に身を守る戦闘員もパートナーもいない。ハデスは派手に吹き飛ばされてしまった。
「お、おのれ、覚えていろ! 謎の忍者め〜!!」
かくてオリュンポス一味の悪事は、未然に防がれた。そして、セリスとマネキは家々を破壊したため、多額の賠償金を請求されることになったのだった。
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