リアクション
● 「な、なんだっ!?」 神殿を守る兵士がそのことに気づいたのは、それがだいぶ近づいてからのことだった。 「いけーっ! 私に続くのだー!」 アクシューミ率いる討伐隊の一部隊が、神殿へと殴り込みをかけてきたのだ。 無謀としか思えない戦い方であったが、敵兵はそれが囮だということに気づいた。頭上から、小型飛空艇に乗った別部隊が近づき、次々と爆撃を開始したからだった。 「全軍、ローデリヒ大公陛下に続けぇー!」 幸祐の威勢に満ちた声がこだました。 コマンデーアティーガーと呼ばれる、小型飛空艇に装甲を架装した特別製の飛行乗用機に、ヘリファルテ、航空戦闘飛行脚フォッケウルフFw190GFと、さまざまな飛行用の装備が幸祐たちをサポートする。 ウーウー、というサイレンの音とともに、ルーデル・グリュンヴァルト(るーでる・ぐりゅんう゛ぁると)は容赦ない爆弾と魔法スキルの投下を開始した。 爆発と爆炎が神殿を包みこんでいく。一部、アクシューミに被爆する爆弾もあったが――「あっ、わりぃゴブリンと間違えた! てへっ」と、ルーデルはさして気にしなかった。 空と地上、両方からの奇襲によって、神殿の門は開かれた。そこからセフィーたちがおどりかかる。 「鋼鉄の白狼騎士団を舐めるんじゃないわよ!」 機関銃が火を噴き、敵はふき飛ばされた。 オルフィナの剣が敵を切り裂く。一部の敵兵は、その圧倒的な強さに恐れをなして逃げ出すほどだった。 「さて、あとは」と、オルフィナはエリザベータのほうを見た。「沙狗夜たちが、どれだけしっかりやってくれるかだな」 「ええ、そうですね」と、エリザベータ。「ローデリヒさまにも良いところを見せなくては……。期待しています」 「あ? なにか言ったか?」 「いえ、なにも……」 エリザベータは顔をそらし、それ以上はなにも言わなかった。 ● 外で、アクシューミたちが敵兵と激闘を繰り広げている間、沙狗夜たちは爆撃で空いた穴から神殿内部へと潜入することに成功していた。 「さて、ここからが問題ですね」と、沙狗夜。「メル嬢がどこに囚われているか、突き止めないといけないであります!」 「ええ、それはもちろん、そうなんだけれども……」と、富永 佐那(とみなが・さな)が言った。「当たりはつけてあるのでしょうか?」 「ま、だいたいこういうとき、怪しいところっていうのは相場が決まってるのよね」 答えたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だった。 彼女にとってはいつも通りなのだが、あまりにも戦場には場違いな格好をしている。ブルーの鮮やかなビキニに、二丁拳銃の武器だ。相棒のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)も同様で、こちらはレオタードにロングコートを着ているだけまだマシだった。 「相場っていうと?」 セレンの格好に眉をひそめながらも、佐那は気にしないことにして話を進めた。 「えーっと、つまり」と、セレンは言った。「地下牢とか、塔の上とか、お姫さまの囚われるところって、そんなところじゃない?」 「たしかに、そうね」と、セレアナもうなずいた。 「となると、塔を一つ一つしらみつぶしに探していくしかないでしょうか……」 考えると辟易してきて、佐那はため息まじりに言った。 と、そのときだった。獣の吠え声とともに、モンスターの集団が続々とあらわれた。 「しまった! 見つかりましたか!」 モンスターはバラエティに富んでいた。 吠え声を出す筆頭はゾンビウルフだが、その後ろにさまよう兵士やゴーレムの姿もある。厄介なのがマッドジャンケンマンで、こいつにジャンケンを仕掛けられると、不思議とジャンケンをしたい気分になってしまうのだった。 「ぐぐぐ……く、くそぉ……したくないのに、してしまう!」と、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がチョキの形になろうとする自分の腕をにぎって嘆いた。 「んなアホなことしてる場合じゃないですよ!」 佐那が後頭部からひっぱたく。 パシーンと小気味いい音を立て、後頭部を押さえて痛がる唯斗を見て、モンスターたちはニヤリとした。こいつらはきっと馬鹿だ。そう判断したに違いない。いっせいに襲いかかってきた。 「きゃあああぁぁぁ!」 佐那たちは逃げた。それはもう懸命に逃げた。 そしてようやく見つけたのがとある小部屋で、セレンは、しめた! と思った。 「みんな! こっちに誘導して! あの部屋に閉じ込めるのよ!」 セレンの指示に従って、佐那たちはモンスターを誘導する。あと一歩。あと一歩で捕まるというところで、彼女たちは見事にモンスターの進行ルートを逃れた。勢いに負けたモンスターたちは、小部屋に雪崩れ込む。 「そうりゃあ!」 小麦粉をなかにぶん投げて、セレンはバタンと扉を閉めた。 続けざま、大きな爆発。小部屋という密閉された空間のなかで、小麦粉は次々と爆発していった。 「こ、これぞ……粉塵爆発!」 ギリギリのところだったのでセレンは冷や汗をかいているが、佐那たちは「おおー」とパチパチ拍手した。 さて、ここからはそれほど長い話ではない。爆発がすっかりおさまったころに、こっそり小部屋をのぞき見た佐那たちは、モンスターが動かなくなっていることを確認。それから中にはいって、まだすこしは意識があるやつを引っぱってきた。 「さてと――」 唯斗の手刀が、ピタッとモンスター(ゾンビウルフ)の首に突きつけられた。 「メル嬢ちゃんがどこにいるかぐらい、お前だって知ってるはずだろ? 教えてもらおうか」 ゾンビウルフはこくこくっとうなずいた。誰だって、首をちょん切られるのは怖い。それがたとえゾンビだったとしても。 こうして佐那たちは、メルの居場所を突き止めたのだった。 |
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